子会社会計不正事件の原因は親会社のガバナンスにある(と思う)
迷える会計士さんからお知らせいただいて知りましたが、東京商工リサーチ社による2012年度「不適切な会計・経理を開示した上場企業」調査の結果が19日に公表されております(日経プレスリリースはこちら)。内容別では「子会社によるもの」が前年度調査よりも倍増し、なかでも2011年度はゼロだった「海外子会社や海外事業における不正事件」が急増しているそうです。当ブログでも、昨年来多くの上場会社の国内・海外子会社の会計不正事件を取り上げました。
このような調査結果が出ますと、子会社管理の徹底、企業集団内部統制の厳格化、といった対応が検討されると思うのですが、ときどき不正調査を本業として行う者としては、子会社の経営陣が関与するような会計不正事件の場合、形式的に子会社管理を徹底してもあまり効果はないのではないか、むしろ親会社のガバナンスに問題があるのではないか、と感じるところであります。
そもそも子会社不正が急増しているのは、昨今の日本企業の子会社政策(企業買収、事業再編、海外進出)と表裏一体の関係にあるわけでして、いわば子会社政策が重要な経営戦略の一環だからであります。実務レベルでは財務、人材が重要ではありますが、なんといっても重要な戦略である以上、社長の経営責任を賭けて子会社化したわけで、そこで失敗することは親会社社長の経営の失敗を意味するところです。しかし実際には失敗するM&Aが多いことは皆様ご承知のとおりかと。そこで少し考えればおわかりのとおり、子会社から上がってくる業績報告について、果たして親会社取締役会が冷静に聴取することはできるのか、といった疑問が湧いてくるのであります。
親会社経営トップの失敗は誰も認めたくないのです。なので子会社トップから良い業績報告が出てくれば(これを信じたいので)疑いもなく信用しますし、聴きたくもない悪い業績報告が出てくれば誰も耳を貸そうとしないのであります。つまり親会社の経営陣には経営判断は正しかった、という方向に「心のバイアス」がかかっていますので、良い業績報告しか信用しないのであります。きっちり厳密にデューデリをやったケース、子会社復興のために親会社のエース級を送り込んだケースなどは、なおさらであります。
こういった親会社役員のバイアスに子会社トップが気づくわけですが、そうなりますと、もはや会計不正は「やりたい放題」です。とりあえず耳心地のよい報告を上げておけば、親会社からの深い追及は回避できます。親会社の内部監査といっても、親会社経営トップの重要な経営判断のミスを指摘する、ということはかなりの勇気が必要です。それこそ明確な証拠でも出てこない限り、「疑惑」を口に出して報告することはむずかしいところです(沖電気工業さんの海外子会社不正事件において、親会社に不利な事情を報告した際の親会社役員の方の行動を想起いたします)。
結局「社長、あなたの戦略は失敗だった可能性がある」ということを、誰かが社長に言える状況になければ子会社トップが関与するような会計不正は発見できない、ということであります。内部通報などによって、子会社不正に関する情報が会計監査人に届くケースもあるとは思いますが、果たしてこれも積極的に調査を開始して、不正を確信的に把握することが確実かどうかは微妙であります(ましてや海外子会社の場合は会計監査人としても困難です)。昨年、大証2部のニチリンさんの子会社会計不正事件について、親会社取締役会が(子会社の報告内容から)疑惑を抱き、非定例調査に動いたことがありましたが、あの事案は第三者委員会も親会社のガバナンス、内部統制が良好であったと評価しています。つまりは親会社のガバナンス、内部統制がしっかりしていることこそ、子会社不正の予防および早期発見に資するものだと思います。
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コメント
子会社における会計不正の課題は、発見までに時間を要するケースが多いことです。大手企業であっても子会社になると、人員の関係から内部統制の構築が不十分となる場合があり、特に専門性の高い分野において特定の従業員が長期間に亘り同一業務を担当するケースで、もし当該従業員が不正を行っていた場合、不正の発見が遅れる要因となります。
最近のJ社の場合、総額で12億円近くが横領されていながら発見まで3年以上が経過しています。
投稿: 迷える会計士 | 2013年4月29日 (月) 21時23分