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2013年4月15日 (月)

証券取引等監視委員会VS日本風力開発-バトル勃発(その2)

マニアックな話題がお好きな方であれば既にご承知のとおり、先週金曜日(4月12日)関東財務局は日本風力開発社に対して平成21年3月期の有価証券報告書について、虚偽記載が認められたものとして、その訂正報告書の提出命令(有価証券報告書の訂正命令)を出しております(金融庁リリースはこちら)。行政手続(告知聴聞)もすでになされております。そして、この訂正命令に対しては同社より反論および徹底抗戦のリリースも出されました。なお念のために申し上げますが、訂正命令については聴聞手続きのみで金融庁(関東財務局)の命令が出ますが、課徴金納付命令のほうは今後審判手続きを経て発令の判断が下されることになります(ということで、正確な題名は金融庁VS日本風力開発、としたほうが良いのかもしれません)。

前にも申し上げました通り、現在進行形の行政事件について個々具体的な意見を述べることはエチケット違反だと思いますので、あくまでも一般論としての野次馬的感想のみ申し上げます。前回のエントリー「証券取引等監視委員会VS日本風力開発-バトル勃発」について、コメント欄の「素人さん」と「会計人さん」の質疑応答がなかなか興味深いところでありまして、過年度決算の訂正の根拠となる「虚偽記載」だけの問題なのか、それとも刑法犯の対象となる「虚偽記載」や「偽計」の問題に発展するのか、という点は極めて重要だと私も認識しております。なぜなら、そこで問題となる「会計事実」が会計士的発想で語られるのか、法律家的発想で語られるのか、という点に関係してくると思われるからです。

このあたりは新刊の拙著「法の世界からみた『会計監査』-弁護士と会計士のわかりあえないミゾを考える」の95頁から101頁あたりに詳しく論じているところをご参照いただければ幸いでございます。今回の日本風力開発の事例は、同社リリースなどを読みますと、会計処理方法の適正性が問題となっているわけではなく、いわゆる「収益計上の基礎となる会計事実の存否」が問題となっており、まさにこの本で書いたところが妥当するものと思います。これまで同社の会計監査人は同社のビジネスモデルを認識しながら、同社の会計処理を妥当なものと認めていたわけですが、そこに「覚書」というものが飛び出してきてしまいました。しかもこの「覚書」は調査報告書によりますと、(取引先の社内調査で存在が発覚したようなものなので)同社の経営者も全く知らなかったようなものであります。

新刊の拙著でも書いたように、収益認識の基礎となる会計事実の存在は、消去法的発想で合理的な心証がとられます。もし、会社の会計意見が正しくないということであれば、Aという事象が出てくるはずだが(仮説)、サンプルを調査してもAという事象は出てこない、だから会社の意見は概ね正しい(合理的保証が得られた)、という発想です。しかし、そこに仮説をそのまま正しいと根拠付けられない事象(覚書の存在)が目の前に出てきてしまったら?これは消去法的発想からするとどのように位置づけられるのでしょうか?というあたりの問題です(法律家が大好きな要件事実←抗弁事実←再抗弁事実、規範的要件←評価根拠事実⇔評価障害事実というのはいずれも積み上げ式発想なので今回とは全く異なりますね)。

そしてもうひとつの問題が「真実かつ公正なる概観」こそ相対的真実を追求する会計士的発想だという点であります。会計士(会計監査人)の判断は経営者の意見が正しいのか正しくないのかを決める最終判断者としての意見です。その監査人の意見は上場廃止をも決めてしまう可能性がありますので、くれぐれもミスが起きないように「考え得るかぎりの事実関係のうち、もっともありうると考えられる事実を会計事実と捉える」のであります。ゆえにそこではビジネスモデルに対する深い理解が求められますし、同じ監査法人の中でも他者の意見を参考にして「もっともありうる事実はどれか」を検討することになります。

これは財務諸表監査という制度が社会インフラとして求められている以上、投資家に誤解を極力生じさせないためには当然のことかと。販売あっせん手数料の今期計上を基礎付ける対価実現の認識、環状的な金銭流動が経済的な合理性ある取引の上に立つのかどうか、という点は日本風力開発社の調査報告書で述べられているところが「もっともありうる事実」と考えられるのかどうか、といった視点で判断されるのではないでしょうか。つまり日本風力開発が主張するところが「ありうる」だけでは足りず「最もありうる」と判断できるかどうか、というところが注目されるところだと思われます(会計処理の適正性が問題となるところでは、公正なる会計慣行の併存ということもありえますが、会計事実の存否が問題となる場面では「併存」ということはありえないでしょう)。

以上はあくまでも過年度決算訂正という「訂正命令」や「課徴金納付命令」の範囲内での話であります。そこでは会社もしくは会社関係者の責任追及が問題とはされていません。あくまでも投資家保護という行政目的による措置であります。これが刑事事件の告発に向けてのステップということになりますと、少し話が変わってきます。そこでは会社もしくは会社関係者の刑事責任を追及することになりますので、基礎となるのは会計事実の存否ではあっても、法律家的発想で判断しなければなりません。(70%程度の合理的保証を目的とした)消去法的な事実認定ではなく、(抗弁事実や評価障害事実の主張にさらされながら)積み上げ式の事実認定が求められることになります。会計不正事件を発生させてしまった会社は、理屈の上では民事責任による賠償請求のリスクがあるにもかかわらず、過去の内部統制報告書をなんのためらいもなく訂正しますが、このあたりの感覚をご理解いただければおわかりになると思います。この点はまた、厳格化されるインサイダー取引規制における課徴金納付命令と比較しながら別途エントリーで述べてみたいと思います。

4月 15, 2013 企業会計 |

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コメント

山口先生、会計人さん、丁寧なご解説ありがとうございます。
有価証券報告書の訂正→虚偽記載を認める→偽計と思っていたのですが、そういうわけではなく、さらに立証すべき高いハードルがあるわけですか。
それにしても4年前の出来事でグレーながらも解決?したと思われていた問題が突然再浮上し、それが訂正だけで済むのか偽計に発展するのか不透明な状況なので金融機関や投資者等利害関係者の方々は相当もどかしく感じていると推測します。

投稿: 素人 | 2013年4月15日 (月) 23時09分

訂正報告書については東京地裁、課徴金については審判手続で争われるわけですが、両者の結論が一致するとは限りませんよね。結論が食い違った場合どうなるんでしょうか?

投稿: 迷える会計士 | 2013年4月16日 (火) 21時05分

結論が食い違うことはありうるでしょうね。例の三洋電機の損害賠償事件の大阪地裁判決も、課徴金処分と判決との食い違いについていくつか理由をあげております。事前規制である行政処分(課徴金はあくまでも不当な利益のはく奪)と、最終的な違法性を確定する私法判断との性質の差に由来するところかと思われます。また、課徴金審判手続きは民事訴訟手続きがモデルになっていますので、行政事件訴訟法による取消訴訟との比較においてどうなるのか、そのあたりも結論に影響をするのではないかと。

投稿: toshi | 2013年4月18日 (木) 16時07分

始めまして

とうとう、日本風力開発が訴訟を提出しました。今後、どんなスケジュール感で、どんな事が行われるのでしょうか?。教えて頂けると大変ありがたいです

投稿: ありた | 2013年4月19日 (金) 00時09分

ありたさん、こんばんは。私も夜のリリースで知りました。私もよくわかりませんが、逐次会社側から状況報告がなされるようですね。
ただ、課徴金審判手続きも並行しますので、どうですかね、課徴金審判の様子をみる形で地裁の裁判は進行していくのかもしれません。あくまでも推測ですが。私も注目しておきたいと思っています。

投稿: toshi | 2013年4月19日 (金) 01時34分

帝国データバンク、2012年度「不適切な会計・経理を開示した上場企業」調査
http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=335517&lindID=5
件数は前年比では多少減少しているものの、海外子会社の不適切会計が急増しているようです。

投稿: 迷える会計士 | 2013年4月20日 (土) 12時53分

情報どうもありがとうございます。興味深いですね。最近、子会社不正に関する調査業務をやりましたので、守秘義務に反しない範囲でこのデータとともにエントリーを考えたいと思います。

投稿: toshi | 2013年4月20日 (土) 14時07分

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