機関投資家における議決権行使の個別開示とガバナンス問題
本日(4月24日)の日経新聞朝刊に、機関投資家が株式を実質保有する企業の株主総会において、各議案にどのような賛否を示したのか、個別に開示する制度の導入について報じられております。政府の成長競争力会議でも、すでに英国スチュワードシップ・コードを我が国でも導入せよ、と民間委員の方々から意見が出ておりましたので、これが実現される見込みのようです。
そもそも機関投資家にとっては保有株式について受託者責任を負う立場にありますので、投資先企業のガバナンスが気に入らず、パフォーマンスに納得がいかなければ(当該企業の株式を)売却してしまえばよい話です。ところがリスクを嫌う投資手法をとる場合には(パッシブ投資)、一気に保有株式を売却するわけにもいかないところから、議決権行使を通じてパフォーマンスを上げることによって受託者責任を履行する、とされることも多いようです。機関投資家がきちんと受託者責任を尽くしているかどうか、外から見える形にすれば、企業経営者との馴れ合いによる議決権行使も回避できるのでは、と期待されます。
ただ実際には、機関投資家と言いましても、保険会社のように企業とのビジネス上のお付き合いのために株式を保有していることも多く、個別開示を制度として義務付けることには相当の抵抗が予想されます。したがって上記記事にもありますが、義務化されるのではなく、あくまでも努力義務として規定されるのかもしれません。このあたりは今後詰めていくところだと思われます。
いずれにしましても、機関投資家による議決権行使の個別開示が進むことにより、当該企業の社外取締役の導入問題をはじめ、ガバナンスの改革が促進されることが予想されます。会社法の改正議論の中では、社外取締役を一人以上導入することの義務付けが検討されましたが、その趣旨を金融庁が所管する開示規制の手法で実現していくものと思われます。ちなみに、このあたりの機関投資家の株主総会における議決権行使の問題は、(前にも一度ご紹介しましたが)5月発刊予定の「株式会社法大系」に掲載される江頭先生の論稿でも語られており、とても参考になるところであります。
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コメント
若干、気になる点がありましたので、コメントします。
1.パッシブ運用について、一気に保有株式を売却するわけにはいかないと書かれていますが、
パッシブ運用は、TOPIXなどのインデックスと連動することを目指す運用ですので、インデックスを構成している銘柄を売却することはありません。
2.一般に機関投資家と言われているのは、生命保険、信託銀行、投信、投資顧問(投信と投資顧問を兼業している運用機関が多い)の4つの業態ですが、この中で、生命保険(一般勘定)の株式保有は政策保有、信託銀行、投信、投資顧問は純投資と一般に定義づけられています。純投資と定義づけられる信託銀行、投信、投資顧問については、議決権行使結果を集計結果として開示しています。今回の報道においては、機関投資家の白紙委任を防ぐことを目的としているとされていますが、少なくとも、純投資とされる機関投資家は白紙委任を行っていません。生命保険の一般勘定が受託者責任を尽くしているのかについえては、別の議論が必要だと思いますが、少なくとも、年金資金の運用等を行っている投資家は、受託者責任を履行するために議決権行使を100%行使していることを御理解いただければと思います。(識者、専門家と言われる方が、議決権行使の現状をどこまで御理解されているかについて、疑問を感じます。)
投稿: ガバナンスを学ぶ学生 | 2013年4月26日 (金) 12時59分
詳細なコメントありがとうございます。私自身も恥ずかしながら実務に携わっているほうではございませんので、正確な知識までは持ち合わせておりませんので、ご指摘いただきますとありがたいです。議決権行使の現状については、今後ガバナンスの議論とからんで、もっと理解すべきところが多いと思います。きちんと勉強していかないといけませんね。
投稿: toshi | 2013年4月30日 (火) 11時58分
機関投資家(投信等をイメージ)が議決権を行使すると言っても、各社ガイドラインを公表しているはずです。
例:
議決権行使にあたっての基本的な考え方(大和投資信託の場合)
http://www.daiwa-am.co.jp/company/managed/governance.html
行使結果
http://www.daiwa-am.co.jp/company/managed/managed_pdf/result_20120824.pdf
よく問題になるのが、議決権行使助言機関のアドバイスの中味だったりします。外国人機関投資家の実質保有者等は同国のISSなどの意見に従っておけば、みずからの保身にもなるので、活用するようです。
(独立社外取締役の選任で、売上高が何千億もあるのに、数千万円の取引しかない相手先の社長さんを選任しただけで、「利益相反になる」とか判定したり、機械的な助言をすることが多かった。またこの季節になりますね)
外国人保有率が高まったのと同時に少しずつ整備されていると思われます(まだまだ十分ではないと思われますが)。
投稿: katsu | 2013年5月 1日 (水) 11時04分
>パッシブ運用は、TOPIXなどのインデックスと連動することを目指す運用ですので、インデックスを構成している銘柄を売却することはありません。
インデックスのリバランスの時には普通に売却しますよ。
>少なくとも、年金資金の運用等を行っている投資家は、受託者責任を履行するために議決権行使を100%行使していることを御理解いただければと思います。
年金資金の運用をしていても、ファンドのタイプによっては、議決権を行使しない投資顧問等の機関投資家も現実に存在しますよ。
投稿: 運用会社の中の人 | 2013年5月 1日 (水) 20時41分
言葉足らずの点がありましたので、改めてコメントします。
1.パッシブ投資における株式売却
「投資先企業のガバナンスが気に入らず、パフォーマンスに納得がいかなければ(当該企業の株式を)売却してしまえばよい話です。ところがリスクを嫌う投資手法をとる場合には(パッシブ投資)、一気に保有株式を売却するわけにもいかないところから、議決権行使を通じてパフォーマンスを上げることによって受託者責任を履行する、とされることも多いようです。」との記載がありましたので、定性的な投資判断に基づき、特定の銘柄を売却することはないという趣旨でコメントいたしました。
2.議決権行使100%
国内機関投資家の議決権行使については、株主名簿上の信託勘定の議決権行使率が、ほぼ100%であることから、受託者責任に基づき議決権を100%行使しているとコメントいたしました。
投稿: ガバナンスを学ぶ学生 | 2013年5月 2日 (木) 12時49分
>国内機関投資家の議決権行使については、株主名簿上の信託勘定の議決権行使率が、ほぼ100%であることから、受託者責任に基づき議決権を100%行使しているとコメントいたしました。
なるほど、そういうご趣旨だったのですね。
ただ、ご存知かとは思いますが、年金の運用をしている国内の機関投資家が、すべて、(国内の)信託勘定を通じて日本株を運用しているわけではありません。
まあ信託/非信託の比率でいうと、信託の比率が圧倒的なのでしょうから、ご主張の大筋に影響ないかもしれません。
100%と言い切ってしまうことに抵抗があるだけで。
投稿: 運用会社の中の人 | 2013年5月 3日 (金) 11時40分
>ガバナンスを学ぶ学生様
今回の件は、ほとんどの場合で会社提案に賛成している生保をターゲットにした案件なのかと思っていました。
>katsu様
後段部分ですが、会社が具体的な規模感を開示せず、ただ単に取引があると開示していることに問題があると感じています。自己資金の運用ならともく、受託者責任を負う投資家の立場としては「取引があります」としか記載がない場合にその人物が独立していると委託者に説明をするのは困難です。
投稿: ty | 2013年5月 6日 (月) 14時05分