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2013年4月 5日 (金)

集団訴訟制度の創設で日の目を見るか-公益通報者保護法

(4月5日午前 追記あります)

株価、これからどうなるんでしょうね?円は100円までいってしまうのでしょうか?

本日の経団連タイムス(4月4日付け)によりますと、日米欧の経済団体が共同で「日本における集団訴訟制度への緊急提言」を3月25日に公表したことが報じられております(経団連タイムスはこちら)。先日(3月29日)の日経新聞朝刊でも日本版クラスアクションとして「乱訴の懸念、焦る企業」の見出しで大きく特集記事が掲載されておりました。差止めだけでなく、今後は消費者被害の金銭的救済という視点からも集団訴訟(集団的消費者被害救済制度)が認められることになり、これは企業経営にとっても重大な問題であります(なお遡及適用の問題については、こちらの担当大臣会見記録等から、消費者庁の温度のようなものが感じられそうです)。

今国会へ法案を提出する予定とありますが、景気回復基調に水を差すのではないか、といった危惧感から、上記のとおり経済団体は緊急提言を公表されたようです。集団訴訟の対象は消費者契約の目的物に限定される(生命、身体等への拡大損害は除外)わけですが、それでも消費者庁の立法上の考え方からみると、悪質事業者かどうかは、個々の事案ごとに判断されるわけであります。どんなにCSR経営で著名な企業であったとしても、個々の事案では「駆逐されるべき悪質事業者」として評価される可能性があるわけですから、この制度のリスクはかなり高いものがあるように思います。有価証券報告書の虚偽記載事案についても、個々の事案ごとに適用対象となるかどうか検討を要する、というのが消費者庁の考え方であります。

アメリカのクラスアクションでは、被害者側の法律事務所が社内の事情を知っている者に対して内部告発を呼び掛けることもありますが(たとえばこちらの記事など)、日本でもそのような呼び掛けがなされるかどうかは別として、消費者適格団体への内部告発の増加は十分考えられるところです。消費者適格団体への内部告発は公益通報者保護法によって保護される対象になるはずですし、通報目的による社内情報の持ち出し、情報提供行為も適法とされる可能性が高いと思われます。これまであまり認知度が高まってこなかった公益通報者保護法も、今回の集団訴訟制度の創設でかなり周知されるのではないでしょうか。

企業のリスク管理の一番大切なことは不良製品を作らない、説明義務を怠らない、不平等な取り扱いをしない、ということだと思いますが、不都合な事態が発生したとしても、これを内部できちんと把握する体制を整備運用することも大切ではないかと。こういった集団訴訟制度が施行されますと、そのリスクの大きさから「不利益事実は隠す」という風潮が生まれるかもしれません。しかし、不利益事実を隠ぺいするような行動は内部告発を誘発し、債務不履行を基礎付ける事実を認定しうる有力な証拠になってしまう可能性もあります。「ブラック企業」の仲間入りを果たさないためにも、消費者庁管轄である公益通報者保護法の運用にも関心を向けていただきたいと思います。

(4月5日午前9時 追記)

朝日新聞の朝刊に「消費者団体が代行訴訟ー企業、年最大19兆円の損失」といったショッキングな記事が掲載されています。慶応大学教授の試算によりますと、現在検討されている制度だと1兆円程度の損失見込みだが、今後訴訟を起こせる条件が緩和された場合には6兆円から19兆円の損失が企業に生じる可能性があるとのこと。企業と消費者との公平な損失の負担、といったほうが正しいかと思いますが。

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