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2013年4月 1日 (月)

証券取引等監視委員会VS日本風力開発-バトル勃発

当ブログもいよいよ(ドリコム時代も含めて)9年目に突入いたしました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。<m(__)m>

ということで、9年目突入にふさわしい話題でございます。先週金曜日(3月29日)、証券取引等監視委員会は日本風力開発社(マザーズ)に対し、風力発電機の販売あっせん手数料が実態なく売上として架空計上されたまま有価証券報告書が提出されている、として平成21年3月期の報告書の訂正命令(訂正報告書の提出命令)を同社に発出するよう金融庁に勧告を行いました(SESCのリリースはこちら)。拙著新刊「法の世界からみた会計監査」の第2章「弁護士・会計士の守秘義務は七難隠す?」のコラムでもご紹介しているとおり、会計監査人の交代において、監査法人側が(沈黙を破って)監査契約解除に関する反論声明を出した事件として、2010年当時はかなり話題になった一件であります。

そして、この提出命令勧告を受けて、日本風力開発社は、同日「SESCの認定したところは客観的事実に反するものである、我々は当時の監査法人の無限定適正意見をもらっているし、また調査委員会報告、その他弁護士、会計士らによる(問題なし、との)意見も受領している、今後は審判で堂々と自社報告書の正当性を説明いたします」と発表(風力開発社のリリースはこちら)。SESCに対して宣戦布告であります。過去にはTTG社、ペイントハウス社等で訂正命令が発出されたことはありますが、堂々と争われることを想定して訂正命令が出るのは初めてではないかと思われます。

昨年9月28日、大阪地裁は三洋電機減損ルールの会計処理の適法性について、金融庁が課徴金処分を出したにもかかわらず、これを「違法ではない」と判断しています。その理由のひとつとして、三洋電機の課徴金処分は「(三洋電機による)妥協の産物」であり、これが審判で争われたわけではない、としています。つまり、三洋減損ルールの会計処理の違法性については、審判で争われたらどうなっていたのか、わからないとの前提があるようです。今回の日本風力開発の売上架空計上の件については、2010年7月に弁護士、会計士による調査委員会が、その会計処理は会計基準に照らして問題はない、との意見を出しております。したがいまして、もし今後、同社が審判で争うということになりますと、まさに同社の会計処理が会計基準に適合したものかどうか、という点が争点になるかもしれません。

ただし、以前「会計士と弁護士とのミゾ」としてブログで書いたのですが、会計処理が正しいかどうか、ということと法律上の虚偽記載にあたるかどうか、という点は「全く同じ、というものではない」ことを認識しておく必要があると思われます。SESCは金商法上の「虚偽記載」にあたると主張しているのに対して、会社側が「過年度決算の必要性はない」と反論するのは争点がかみ合わない可能性があります。現時点からみれば、過年度の会計処理が許容されないからこそ過年度決算の訂正を図るわけですが、これはあくまでも会計上の相対的真実の原則に基づくものであり、過去の時点では会計処理が許容されるように思えたことに相当の理由があれば、現時点では正しい決算とは言えないけれども(会計上はセカンドオピニオンは認められません)、法律上の「虚偽記載」(法令違反)には該当しない場合もありえます。この点、当局側は主に事実の存否という点で「虚偽記載」に当たるかどうかを主張し、会社側が当時の会計基準を引用して、その処理方法に問題がない、という反論をしてしまいますと、議論が成り立たない可能性があります。

会計処理の具体的な問題点のご紹介は省略いたしますが、興味深いのは、当時の(解任されたとされる)会計監査人が存在を知った(取引関係者担当者間における)合意書の評価であります。同社の最初の調査委員会は、この合意書には法的効力がないばかりか、相手方の悪意・重過失も明白なので取引的不法行為も成立しない、という前提で扱っておられますが、ちょっとここは私的には疑問が残ります(そもそも、この合意書が作成されないままでオモテの取引が成立したのかどうか、その経済的合理性こそ問題になるのではないかと)。いずれにしても、同社二番目の調査委員会の意見書を前提としますと、同社の連結子会社、取引先を含め、そのビジネスモデルの実態が示され、その中で、同社が販売あっせん手数料を受領する取引が経済的に意味のあるものと解されるかどうか、その解釈の中で合意書がどのような意味を持つのか、というあたりが争点になるのではないかと(もし真剣に争われるとすれば、この審判手続きは野次馬的におもしろいものになりそうです)。

それにしても、この騒動の発端とされた「覚書(合意書)」は、どうして当時の会計監査人が知るところとなったのでしょうか?このあたりは同社のリリース等からは明らかにされていないのですが、2010年当時の朝日「法と経済のジャーナル」の記事によると、取引先の社内調査によって合意書の存在が発覚し、これを日本風力開発社の監査人が入手したようです。もし、この記事の内容が事実だとしますと、当時の会計監査人としては、この合意書の文面から取引実態を調査するしか方法がないと思われます。仮に、こういった不正が疑われる場面において、取引先の会計監査人と連絡を取り合って合意書作成の具体的な事情について裏付けがとれるのであれば、もう少し局面が変わっていたのでしょうか?今回の不正リスク対応基準の設定にあたり、不正摘発型の監査手続き(たとえば取引先企業の監査人との意見交換等)の導入は見送られたのですが、かりに今回のバトルにおいて、訂正命令が発令されない、ということになりますと、またこういった手法が検討されることになるのでしょうか?(これは私の単なる素朴な疑問であります)

本来、会計監査人が投資家保護のために対処しなければならないところ、当局が前面に出てきた意味は大きいと思います。この事例の行く末はまたまた「市場の番人」たる会計士の役割を考えるための試金石になりそうです。ところで、解除された監査法人さんの後を引き継いだ監査法人さんは2011年に公認会計士協会から(品質管理に問題あり、として)監査事務所としての登録申請を拒否されておりますが、こういった事情もあることを念のため、申し添えておきます。

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コメント

いつもブログを楽しく読まさせていただいています。また新刊も、難しいことを平易な表現でわかりやすく、とても面白かったです。

さて、EDINETで有価証券報告書を確認したところ、現在の会計監査人は、品質管理に問題があったとされる監査人から既に交代して、昨年の日経の記事にもなった期待(?)の監査法人がつとめられておられるようです。

今後の行方を、山口先生のブログとともに、適時開示等で注目していきたいと思います。

投稿: unknown1 | 2013年4月 2日 (火) 00時08分

ご指摘ありがとうございます。そうでした。あそこの監査法人ですねwこの事例はまだまだ波乱がありそうで、一筋縄ではいかないと思いますよ。

投稿: toshi | 2013年4月 5日 (金) 18時44分

門外漢なので何が起きているのか、今後どうなるのか全く見えてきません。
 常識的に考えれば告発されたわけではないのでSESCの主張を認め課徴金を納付し、過年度の決算を修正すればいいだけです。連結ベースで見れば現在の財務にそこまで影響は出ないので。
 そうせずに争う理由を考えてみると、もし認めてしまった場合は平成21年11月の増資について金融商品取引法違反(偽計)に問われる可能性があるからということでしょうか。ならば東証は結果が分かるまで監理ポストに送るのが筋と思いますが、いまだ何の動きもなし。
 この問題のゴールがどこに落ち着くのが全く素人には分かりません。

投稿: 素人 | 2013年4月11日 (木) 16時24分

監理銘柄指定は企業側の訂正を受けてなされます。よって日風開側が現時点で訂正していない以上、東証側が動くことはないと思います。
また虚偽記載だけならばオリンパスの例から分かるように上場廃止になることもなく大した影響はないでしょう。
しかしご指摘なされるように偽計罪が絡んでくると大変です。平成21年の公募増資や新株予約権付社債は問題となっている平成21年3月期の有価証券報告書をもとになされていますからね。
ただ今のところ証券取引等監視委員会はそれについて全く追求していないので、このまま虚偽記載だけの問題で終わる可能性もあります。偽計罪を使うのは影響が大きすぎて気がひけますから。
>この問題のゴールがどこに落ち着くのが全く素人には分かりません。
SESCに直接聞きでもしない限り誰にも分からないと思いますよ。

投稿: 会計人 | 2013年4月14日 (日) 13時46分

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