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2013年5月10日 (金)

会計監査人の過失は「会社の過失」と評価される?

おかげさまで拙著「法の世界からみた会計監査」が本日(5月9日)第4刷の発行(3回目の増刷)が決定いたしました。どうもありがとうございます。<(_ _)>

さて、あまり大きく報じられておりませんが、昨日(5月8日)の日経ニュース、時事通信ニュース等で、名古屋鉄道から出向していた社員が、出向先である愛知高速交通社の会社資金を横領した事件に関する判決が出ております。

この出向社員は、愛知高速交通の会社資金6,360万円を横領したそうですが、愛知高速と出向元の名古屋鉄道との間では、もし出向社員が不正によって出向先企業に損害を与えた場合には、その補償を行う旨の合意が締結されていたようです。刑事事件に発展した横領事件により、愛知高速交通さんは名古屋鉄道さんに6,260万円の損害補てんを求めて提訴したところ、名古屋地裁は損失補てんに関する両社の合意の存在は認めたものの、愛知高速鉄道さんにも「監査を怠り、会計監査人にも落ち度があった」として、結局は請求額の半分の3,150万円程度の損害賠償のみが認容されたそうです(時事通信ニュースはこちら

ニュース記事だけでは、どのような法的構成によって請求額の半分だけが認容されたのかはわかりませんが、おそらく契約責任として、法人である名古屋鉄道さんの責任が認められたように読めます(ちなみに日経ニュースのほうでは、裁判官が判決理由の中で、元社員は愛知高速交通における実質的な出納責任者としての立場を悪用した、名鉄の責任については、出向中の社員が損害を与えた場合補償するとした契約の有効性を認めたが、愛知高速交通にも「経理業務を元社員に任せ、十分な監査を行わなかった」と過失を認定した、と報じています)。

(時事通信と日経のニュースを併せ考えまして)愛知高速交通さんの過失の内容として、会計監査人の過失が認められたとすると、会計監査において、社員の横領の事実を見逃したことが、会計監査人の過失とされているようです。これが会計監査人の過失(落ち度)ということになりますと、愛知高速交通さんとしては、「ちゃんと会計監査をしてくれていれば、満額の損害賠償が名古屋鉄道さんからとれたではないか」といった主張につながり、今度は愛知高速交通さんが会計監査人を訴えることになるのではないでしょうか?(もちろん、愛知高速交通さん自身の監査にも問題あり、ということですから、全額求償、というわけではありませんが)。

愛知高速交通さんは非上場大会社(資本金29億円)なので、会社法上の会計監査人設置会社(会計監査人を設置しなければならない株式会社)にあたります。プロの会計士さんがリスク・アプローチによって計算書類の監査を担当されていたわけですが、この裁判の中で、ご自身の注意義務違反の有無について、防御の機会が与えられていたのかどうかは不明です。ひょっとすると、当事者だけが裁判に関与して、その攻防の中で会計監査人のミスが指摘された、という構図なのかもしれません。いずれにしても、会計監査人は社内の人間ではありませんが、過失評価の対象としては会社の過失と同等に評価される、というのはこれまであまり考えてこなかったところではないかと。

私的な意見ですが、契約責任を論じるにあたり、会計監査人のミスは会社のミス、と評価することには、やや違和感を覚えるところもございます。会計監査人というのは社内の従業員でもないし、会社の機関といえるかどうかも微妙です。ちなみに江頭先生の「株式会社法」第4版560ページでも、「会社法は会計監査人を『機関』とみているようでもある(会社法326条2項)」と記されており、うーーん、どっちなんだろう?といった印象が残ります。講学上の興味からではありますが、この名古屋地裁の判決、どなたか関係者の方が当ブログをご覧になっておられましたら、こそっと見せていただけないかと(まぁ、無理でしょうね・・・笑)

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コメント

当時の記事では、「同社では主幹が出納責任者として通帳と印鑑を管理し、毎月末に総務部長が引き出し額をチェックする決まりだったが、部長はチェックせず、主幹に一任していた。4月28日に行われた年度末の定例監査で多額の使途不明金が発覚し、同社が調査していた。」と報じていますので、会社の内部統制に相当の問題があったということになります。内部統制が適切に運用されていれば、不正は防止されていた事案です。

ちなみに、会計監査人は個人の会計士ですね。
http://www.linimo.jp/kaisya/kessann/23_kessann_koukoku.pdf

投稿: 迷える会計士 | 2013年5月10日 (金) 12時02分

コメントありがとうございます。なるほど、そこまではチェックしておりませんでした。たしかに特にむずかしい統制をせずとも、普通に内部統制が効いていれば防ぐことができた(元々発生しなかった)と言えそうですね。ところで、本文中の時事通信ニュースでは会計監査人にも落ち度があったとされていますが、会計監査人としてはどのあたりが「落ち度」になるのでしょうね。

投稿: toshi | 2013年5月10日 (金) 21時50分

銀行預金の残高を確認するに当たり、本来は会計監査人が直接入手しなければならない銀行確認状を送付せず、会社から入手した残高証明書で代用していたのかもしれません。
今回のケースは、不正の手口が稚拙(普通、残高照合により不正が発覚することを逃れるため、なんらかの偽装が行われます)なため、容易に不正が発見できましたが、会社から入手する残高証明書では不正の実行者に残高証明書の偽造の機会を与えることとなるため(大和銀行事件で不正が長期間発見できなかったのはこのパターン)、会計監査人は銀行の残高証明書を直接入手するものとされています。

投稿: 迷える会計士 | 2013年5月12日 (日) 12時17分

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