KDDI不当表示事件にみる情報共有のむずかしさ
既にご承知のとおり、消費者庁はKDDI社に対して景表法違反(優良誤認)による排除措置命令を下したそうであります(消費者庁公表資料)。同社の販売するiphone5について、最大高速通信可能な人口カバー率が14%であるにもかかわらず、96%のカバー率であるかのように広告で表示をしていたことが問題とされているようです(同社のお詫びとお知らせはこちら)。
当ブログを長年ご覧になっている方ならば「ん?この事件、どこかで聞いたことがあるような・・・」とお思いになられるかもしれません。そうです、平成21年の日立アプライアンス社のエコ大賞冷蔵庫事件とそっくりであります。環境にやさしい部材が冷蔵庫に使用されているとパンフレットに書かれているのですが、実際の冷蔵庫には使われていなかったという、まったく「ありえない」事態が発生してしまった、というものです。この事件で日立アプライアンス社は「エコ大賞」を返上したものの、実際に夏のボーナスシーズンに売り上げが激減し(日経新聞記事より)、経済的損失という事実上の制裁を受けてしまいました。
あの事件のときも、ありえない不祥事がなぜ発生したか、というところで、関連部署間における情報共有ができていなかった、ということが発表されました。今回のKDDI不当表示事件でも、上記お知らせによると同じことが記載されています。
しかし「情報共有ができていなかった、情報の相互確認が不足していた」というのは、たしかにそうであるとしても、ではなぜ情報共有ができなかったのか、相互確認ができなかったのか、そこまでさかのぼって原因を分析しなければ、いくら研修をしてもまた同様の不祥事は再発すると考えております。
たとえば制作部門は経営者から「もっと品質の良いものを早く作れ」と指令が出ます。また、サービス部門には経営者から「もっとiphone5の販売を促進しろ」と指令が出ます。いずれの部門も、与えられた別々の課題に取り組むことが最重要課題であります。そうなりますと、いくら情報を共有したとしても、関心のある情報、価値のある情報は各部門で異なります。制作部門ではAという情報が、そしてサービス部門ではBという情報が最も優先的に配慮される情報です。このことを知らないで情報を正確に共有しようとしても、伝達にミスが生じるのはむしろあたりまえのことかと思います。また、すべての情報を正確に伝達するなどということは非効率であり、お客様にとって何が大切な情報なのか、そこが部門相互間で共有され、確認されなければミスはますます増えるだけだと思われます。
ちなみに日立アプライアンス社の場合は、再発防止策として、冷静に情報の価値を判断できる「第三者機関」を新たに設置して、ここで最終チェックを行う仕組みを構築していました。
さらに、会社組織は人間の組織であります。情報の送り手にとって、伝えたい情報とあまり伝えたくない情報であれば、情報伝達の正確性に差が生じます。また受け手のほうも、聞きたい情報は(耳に心地よい情報として)ほぼ正確に記憶しますが、自分たちにとって都合の悪い情報は、聞きたくないか、もしくは記憶から遠ざけようとします。これが情報の共有を困難にする最大の要因です。こういったリスクが存在することを情報の伝え手、受け手相互に理解しておくだけでも大きなミスは防止できるものと思います。今回KDDI社は「承認フロー」をルール化するとしていますが、この「ルール化」も自分に都合のよいようにルールを解釈してしまうおそれがあることは、過去の多くの不祥事が物語っているのでありまして、やはり第三者機関等による確認手続きが望ましいといえます。
今回のKDDI社の事件に関する一連の報道を読み、とてもこわい(他社でも同様のことがあるのでは)と感じたのが、「もうすぐホントにiponeでも実人口率96%が実現するのだから、まあウソにはならないのでは」という驕りであります。ちょっとおかしいのでは?と心の中で悩むコンプライアンス違反が発生したとしても、それを正当化する根拠というものを人間は常に探します。本件では、そんな言い訳を模索している中で、「あと3カ月もすれば、この表示のとおりに実現するんだから、たいしたことではない」と自分で自分を納得させてしまったのではないでしょうか。社外の人間ならば「そんな理由は通用しない」と冷静に判断できるのでありますが、いざ自分が当事者になってしまいますと、そういった理屈で自分の判断を正当化してしまう、つまり社内の常識が判断基準となってしまうわけです。意外とどこの企業においても似たような判断をされているケースに出会います。誰かの責任に押し付けられない、いわば組織の構造的欠陥に属する問題なので、こういった企業風土に誰かが気づかなければならないと思うところです。
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