海外ファンドの資産運用トラブル事例は監督強化だけで防止できるか?
昨年のAIJ投資顧問事件に続き、最近ではMRIインターナショナル事件が問題となっております。AIJのような投資一任業者に対する規制強化については、先月閣議決定された金商法一部改正により、今後同種事件が再発しないための処方箋が法制化されたようであります。こういった第1種金融商品取引業者の規制については、行為規範やビジネスモデルの見直しによって規制の実効性が(ある程度は)確保されることになると思います。そこでは対象業者に対する行為規制、違反行為への厳罰化といったものだけでなく、行政当局による関与金融機関への監督強化と、金融機関の自律的行動への期待が盛り込まれております。いわば仕組み規制で再発防止を図る、というものであります。
しかしMRIのような第2種金融商品取引業者の場合には、ファンドの仕組みを規制するという形ではなく、あくまでも(ファンドという『みなし有価証券』を取り扱う)業者規制という手法がとられているために、行為規制の厳格化だけに頼って実効性を確保することはなかなか難しいようであります(消費者・投資家保護の要請とともに、一方では海外ファンドを通じた日本の海外援助、金融競争力の拡大も必要となるわけでして、そのバランスをどう図るか、という問題に直面します)。そこで行政当局としては、投資家保護のために、どのような規制手法を採用すべきか、AIJとは別の発想が必要になるものと思います。
こういった事件が発覚するたびに、「金融庁は何をしていたのか」「投資家がリスク商品に安心して手を出せる体制づくりこそ重要だ」と言われますが、私は不正調査を行う立場からみて、規制を強化するだけでは事件は防止できないと推察しております。なぜなら、頭の良い方々、勘の鋭い方々は「ちょっとおかしい」と感じても、自分たちが儲けることができる間は「おかしい」とは口に出さずに儲け続け、世間がみんな「おかしい」と知ったころには利益を確定した上で「いやいや、私たちも被害者です」といったスタンスをとるわけでして、表には出てこられません。刑事罰等の事後規制強化を図ってみても、AIJ事件や今回のMRI事件のように、そもそも社員ですら「仕組みが違法だとは知らなかった」という事態となれば、販売ノルマを果たすことに狂奔するだけであり、なんら抑止力が機能しないのではないでしょうか。
また、ホントに騙されて多大な損失を被ったた方々は、けっして最後まで「自分が騙された」とは思いたくないのです。それゆえ過去に何度か配当(らしき金銭分配)がなされた経験があれば、心のバイアスが働くためにその経験にしがみつき、「いまは損失が出ていても、かならずその分利益は出してくれる」と信じ、自ら「おかしい」とは口に出さないのであります。それゆえに、マスコミで事件が報じられた後でも、加害者が被害者に更なる詐欺行為を重ねることも可能だったりするわけです。事件が表面化しない限り、いくら監督を強化しても行政目的(被害拡大の防止)は達成できないと思われます。
真の再発防止のためには、やはり自己責任原則の周知(金融リテラシーの向上)が最も必要ではないかと。その周知方法としては、単純に業者の説明義務の拡張や啓蒙活動というだけでは到底困難であり、「独立した専門家のアドバイスを受けるには、それなりのお金がいる」ということを前提に、多くの投資助言家が日本にも出てくることではないでしょうか(すでにご活躍の方もいらっしゃると思いますが、それでも独立系の方はまだまだ少ないですよね。ただ、この専門家の助言というものも、すでに当ブログでご紹介している「AIJ事件の深き闇」を読みますと、本当に役に立つのかどうか、若干不安になったりもするのですが・・・)。また業者規制ということであれば、業界団体による自主規制のようなものを組織して、これに所属する組織かどうか、という点を確認することなども自己責任の一環とすべきだと思われます。こういった自己責任原則の徹底は、「出資金」や「有価証券」と称して登場する海外のPEファンドを精査する立場にある一般事業会社の取締役や監査役の善管注意義務を論じるにあたっても同じことが言えるのではないかと。
(お知らせ)
昨日お知らせいたしましたように、新聞に書評が掲載されるなど、拙著「法の世界からみた会計監査」の認知度も若干ではありますが、高まってまいりました。左の写真は5月6日のジュンク堂なんば店の様子です。書店の方々にも、応援いただいております!感謝です<m(__)m>。
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