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2013年5月27日 (月)

役員報酬改革=高度なガバナンス改革(だと思う)

会社法上の論点として、トレンドなのが役員報酬改革の話題ですね。ESG投資、リーマンショック後の長期業績向上についての株主の関心、グループ企業管理の在り方(海外子会社の役員報酬と国内本社の役員報酬との比率問題等)などが背景とされ、法律雑誌や新刊書でも最近よく取り上げられています。また、日本では役員報酬の個別開示が(一部高額報酬の方を除き)不要であるために、そのまま適用されることはありませんが、米国のドットフランク法による株主総会の承認手続きについても話題になっているようです。

会社役員、とりわけ経営トップの役員報酬については、固定制+業績変動制として、業績変動制の報酬を金銭とするか、エクイティとするか、短期と長期の業績どちらにウエイトを置くか等、その制度設計は各社各様です。企業価値を向上させるために、会社役員にどのようなインセンティブを付与するべきか、という視点は理解できるのですが、では具体的にどのように設計すればよいのか、これを決定することはかなりの困難を伴います。

世間的には、この役員報酬制度の制度設計の在り方に関心が高いものと思いますが、すでに役員報酬制度を工夫されている企業のHPなどを閲覧しても、設計された役員報酬制度をどのように運用するのか、その運用方針についてはあまり記載されていないようです。つまり業績をどのように評価するのか、この評価方針についても明らかにされないかぎりは役員報酬改革は成功しないのではないでしょうか。まさか業績評価の判断基準がすべて客観的な数値によって明確になるものだとは思えませんし(だからこそ長期的な業績向上の視点が取り入れられる)、評価の対象となる経営トップ自らが、その業績の自己評価をされる、というものでもないと思われます。

結局のところ、役員報酬改革を経営者の業績向上のインセンティブ付与に結び付けるためには、取締役会をできるかぎりモニタリングモデルに近づける、業績評価の客観性・公正性を確保するために複数の独立社外取締役を導入する(指名報酬委員会の過半数を社外取締役で構成する)といったこととリンクさせて考えなければ、そもそも制度の運用自体が説明できないように思われます。いまいろいろと議論されている報酬改革の議論というのは、そのあたりまで検討されているのでしょうかね?

以前、当ブログでも一度取り上げた行動経済学の実証研究として、株主は企業行動の方針が開示されたときには関心を持つが(つまり株価に影響を与えるが)、その企業行動が適切に運用されたかどうかにはあまり関心を持たない(つまり株価には影響を及ぼさない)といったことが「開示リスク」として指摘されておりました。株主総会において役員報酬の承認を受ける(報酬金額の大枠を決める)、という最低限の株主との約束事を超えて、実際に業績連動性の役員報酬がどのような評価手続きを経て具体的に決定されるのか、そのあたりについて取締役が「わかりやすく」株主へ説明責任を尽くすためには、上記のような本格的なガバナンス改革が並行して行われることが必要ではないかと思います。

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