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2013年5月 8日 (水)

会計監査に「セカンドオピニオン」はあるのだろうか?

4月16日に「ランド社は想定外だったのか-第三者委員会の乱」と題するエントリーをアップいたしましたが、本日(5月7日)、同社の第三者委員会は最終報告書を公表しないまま、役職員の調査非協力ということで調査続行を断念、その結果として任務を終了したことがリリースされております(なおリリースはこちらこちらをご覧ください。ただし、今後(当該第三者委員会による)最終報告要旨については作成される、とのことです)。

第三者委員会のこれまでの調査に基づく意見の概要については今回の会社のリリースの中で掲載されているところ、会社側は別の専門家委員による意見を三つ取り付け、その参考意見に基づいて第三者委員会の意見へ反論をされています。そして(なんと?)今後はさらに別の第三者による調査委員会を構成して調査対象事実に関する再調査を依頼する、とのこと。

これは全くの私見ではありますが、今後の第三者委員会制度の適正な運用のためにも、以下の3点については今後、このランド社の開示資料等を参考にしながら検討する必要があるものと思います。

ひとつは中間報告で問題になっていた会社側提出資料の「ページ抜き取り」の経緯であります。別の委員会による参考意見等では、たとえ抜き取られていなかったとしても、会社側の会計処理は誤りとまでは言えなかったとの結論になっています。しかし「重要性の原則」からすれば(会計士的発想からすれば)特に結論を左右するほどの問題なし、となるのかもしれませんが、弁護士的発想からすれば、小さな欠陥(手続き違背)は、その背後の大きな問題を表象する証拠としての価値があります。なにゆえ資料「抜き取り」という事実が起きたのか、その経緯を明確にすべきだと思われます。この点について関係者からの供述が得られなかったのかもしれませんし、また刑事立件を前提とした捜査が先行していることもあり、どこまで任意で調査できるのか、という問題も出てきていたのかもしれません。

二つめは、会社側が設置した別の専門家(弁護士および会計士)による意見が出されていますが、これについては誰による、どのような依頼に基づいた意見なのか、会社側は明らかにすべきではないか、という疑問です。先日、大阪産業大学のやらせ受験騒動において、学校法人側は、第三者委員会を設置したとしながら、誰が委員なのかは非公表としています。読売新聞に私は「誰が委員なのかはっきりしないのは、報告内容の信用性にかかわる」とのコメントを出させていただきましたが、拙著「法の世界からみた会計監査」でも強調しているとおり、弁護士や会計士が意見を述べる際には、リスクを背負わなければ、その職務の誠実性は見えないと思います。リスクというのは、ここでは実名で自ら誠実に意見を示したことを公表することです。専門家として公正独立の立場で意見を述べたのであれば実名で、そうではなくあくまでも会社側の利益のために参考意見を書いたのであれば氏名非公表で、といった区別が求められるものと思います。ちなみに、同社の第三者委員会が、鑑定書を書いた専門家にヒアリングをして、初めて「資料の抜き取り」という極めて重要な事実が発見されたことは、4月16日の前記エントリーで記載したとおりであります。

最後に、これも拙著で述べているとおり、会計処理にはオピニオンショッピングはあっても、セカンドオピニオンはない、ということです。セカンドオピニオンが存在しないからこそ、会計士の意見表明は最終判断権者の意見として投資家から高い信用を受けるわけです。セカンドオピニオンらしきものがあるとすれば、それは相対的真実を探るという会計の使命に由来する「真実の幅」の問題です。一定の幅がある以上、その範囲内であれば真実ですが、それは真実が二つあることを認めるものではありません。会計処理の正しさに「見解の相違」はありえない、というのが私の考え方です。ただし、この見解については、概念フレームワークをきちんと整理したうえであればセカンドオピニオンもありうる、という考え方など、何名かの会計実務家の方からご異論もいただいておりますことを申し添えいたします。

いずれにしましても、今回のランド社の件については、今後の第三者委員会による活動の在り方や、会計処理におけるセカンドオピニオンの問題、弁護士と会計士の事実調査の在り方の問題など、まさに法と会計の狭間を整理するうえで重要な論点を含むものであります。ぜひとも、有識者の方々によって整理検討していただきたいと思います。

Shohyo0022(お知らせ)もうそろそろ皆様方に「しつこい」とお叱りを受けそうですが、新聞で拙著が取り上げられて以来、書店さんのほうでも広報をしていただけるようになりました。左の写真は先日オープンしたばかりのグランフロント大阪の紀伊國屋書店の本日(5月7日)の様子です。ありがたいことに「書評にのりました」とポップアップがついております。(書店の皆様、ありがとうございます)

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