監査役の意見表明が期待される場面-ベリテ社の株主提案
昨年からガバナンス上の混乱が継続していたと思われるベリテ社ですが、5月23日のリリースにおきまして、議決権の過半数を保有する株主より①常勤監査役の解任議案、および②現常勤監査役解任決議が可決されることを条件としての新たな監査役選任議案が提出されることが明らかにされています。そして、この株主提案に対して会社側が「取締役会の意見」として、賛同意見を付記しておられます。ちなみに①の解任理由としては、
2012 年3月19 日に開始された調査委員会による調査及びその対応等により、当社に少なからず損失及び混乱が生じたところ、監査役による業務監査が日ごろから適切に遂行されていれば、かかる事態を防止することは十分に可能だったと思料されることから、当社監査役大竹章彦氏は常勤監査役として適任でないと判断し、その解任を求める。
とされております。
昨年から会社側としては「常勤監査役の交代を検討します」と述べておられたと記憶しておりますので、今回のリリースは、昨年来の騒動の終局段階ではないかと推測いたします。株主提案による解任議案、選任議案なので、法律上はとくに議案上程にあたり監査役会の同意が必要、というわけではございません。
ただ、株主提案の理由としては「監査役会が調査委員会設置を決める等の行動によって会社の信用を毀損させたが、これは日ごろの業務監査が適切になされていれば防げたものである」とのこと。つまり監査役の監査に問題があったからこそ解任する、というものですが、取締役の不祥事の疑惑について調査を決定したのは常勤監査役さん個人ではなく、「監査役会」なので(たとえばこちらのリリース)、この解任議案については他の監査役さん方がどのように考えておられるのか、これはぜひとも意見をお聴きしてみたいところです。他の監査役さん方も、会社を混乱させたのは常勤監査役個人の監査の懈怠に起因するものと考えておられるのかどうか、これは一般株主にとっては重要なポイントではないでしょうか。
あのトライアイズ社の元監査役だったF氏は「監査役としての資質を欠く」と会社側から指摘され、裁判の末(和解という形ではありますが)訂正・謝罪公告を勝ち取りました。いわば「監査役が任務を怠った」という理由で解任されることは監査役にとっては屈辱であり、名誉にかかわる問題であります。また、(記憶違いで間違っていれば訂正いたしますが)監査役会が設置した第三者委員会の報告書については、(取締役会は当初、委員会活動に全面的に協力すると発表しながら)開示することを拒否し、別の第三者委員会を設置したように記憶しています。だとすると、会社の混乱を生ぜしめたことに取締役会も寄与しているもののようにも思われますので、常勤監査役の業務監査の懈怠と会社の混乱が、どのように結びつくのか、株主提案理由だけでは全く不明です。
監査役解任には特別決議を要するとはいえ、過半数の議決権を保有している株主さんの提案ですから、可決されることはかなり濃厚ではありますが、それでも多数の個人株主さんがいらっしゃる会社なので、会社側による監査役解任議案の上程との平仄を合せるためにも、そういった配慮が求められるように思います。株主総会の招集通知には当該常勤監査役さんの意見は表明される可能性がありますが、取締役会と監査役会が対立した事例であるがゆえに、こういったリリースの段階においても、取締役会の賛成意見と合せて、監査役会(または当該常勤監査役さん以外の監査役さん)の意見表明も開示していただけたらなぁと思うところです。
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コメント
ご無沙汰しております。
本件につきましては、大変興味深く経過を見ております。
調査委員会設置時、B社さんには今回解任請求されている監査役さんの他に、
2名の非常勤監査役さんがいらっしゃって監査役会を構成していましたが、
昨年の時点でお二人は任期満了または辞任により退任されていらっしゃるので、
当時の監査役会の構成メンバーは、常勤監査役さんお一人となっていますね。
本件については、そもそも利益相反取引の承認が無いことが問題でもあり、
(当時者の取締役は、取引先の社長かつ解任請求した筆頭株主のご子息であり、
企業利益という目的から乖離する可能性を当然強く警戒すべき構図かと。)
そういった典型的に不正の発生しやすいケースに対する調査のはずが、
取締役会設置の調査委員会では、取引の実在性だけに問題の所在が集中され、
承認の有無については、意図的に論点から外されているように見えます。
まあ、利益相反に当たる取引の実在性について、取締役会は肯定する側であり、
当該取引に対しての承認の有無は、取締役会議事録等から明らかでしょうから、
積極的に論じても取締役会には何のメリットも無いことは確実ではあります。
ただ、調査時には当該取引にかかる代金の回収が完了していなかったりと、
不正の存在につき「確証に至らず」とは言え、相当に疑わしい点がありますが。
そして、不正取引の有無について「明らかにすること」が調査の目的なのに、
調査の経緯については、監査役会の強い主張を無視する形で秘匿したまま、
不正取引の確証に至らないという結果論をもって調査の必要性を全否定し、
不正取引関与の可能性を疑われる取締役自身が、臨時株主総会まで請求して、
監査役を侮辱的なまでに糾弾し、今回の解任請求に至っています。
「監査役による業務監査が日ごろから適切に遂行されていれば、
かかる事態を防止することは十分に可能だったと思料されることから」
会社法の手続違背を犯した取締役会自身が言うことでしょうか。
同社の資本関係を見れば、パワーバランスがどうなっているかは明白ですが、
(新しい監査役候補の方の経歴を見ても「なるほどね」といった印象です)
少なくとも一般株主もいる上場企業において、こんな暴論がまかり通るなら、
会社法の精神など、本当に画餅に過ぎないものと考えざるを得ません。
日本の企業統治に関心を持つ者として、見ていて本当に悔しいです。
投稿: 無銘 | 2013年5月30日 (木) 12時05分
度々恐縮です。
B社(V社?)の監査報告書およびプレスリリースの内容として、
本件に関して重要と思われる事項を箇条書きで整理してみました。
1.本件は、取締役の不正ないし著しく不当な行為の疑いにつき、
昨年2月に情報提供を受けたことを端緒として調査が開始された。
2.本件は、B社とD社の間で行われた商品委託取引であるが、
B社取締役のK氏は、取引相手であるD社の代表取締役を兼務しており、
本件取引は、取締役会の承認を要する利益相反取引にあたる。
3.D社はB社の親会社(持分約61%)であるDH社の完全子会社であり、
親会社であるDH社の代表は、B社取締役を兼務するC氏である。
4.C氏とK氏は親子関係にある。
5.本件取引開始にあたり、事前に取引内容についての明示的合意がなく、
取引を開始することにつき取締役会による承認手続は行われなかった。
6.本件取引は、目的物が取引額に満たない品質の低いものを含み、
差額が発生している(会計監査人は額の僅少を理由に問題視せず)。
7.平成24年4月27日時点において、本件取引の代金回収は未完了である。
(同日のプレスリリースでは「回収予定」としている。)
8.監査役は本件取引を、実質的に融資目的で行われた架空取引と考え、
調査委員会も強い疑念を抱いているが、確証までは至らなかった。
このような状況下で、結果として確証までに至らなかったとしても、
調査委員会を設置したことが不必要とは到底言えないと考えますが、
(むしろ、調査をしないことが任務懈怠に当たる、と思っております。)
一般論としてで結構ですので、先生のお考えも伺えましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
投稿: 無銘 | 2013年5月30日 (木) 17時49分
無銘さん、ご意見ありがとうございます。事例の詳細についてご解説いただき恐縮です。とりあえず、調査委員会当時の監査役さん方が、すでに退任されていたとのこと、開示情報をきとんと調べておらず、申し訳ございませんでした。
私自身の考えは、本文で述べた疑問以外には、ただちに表明することはできませんが、今後の会社側の正式な開示情報次第では、無銘さんのコメント欄でのご意見を参考にして別エントリーで述べる機会があるかもしれません。引き続きヨロシクお願いいたします。
投稿: toshi | 2013年6月 3日 (月) 01時22分