この時期はどうしても定時株主総会の話題を取り上げたくなりますが、昨年来、「モノ言う監査役」「監査役の乱」として本ブログでも取り上げておりましたベリテ社(東証2部)の6月28日の定時株主総会の行方について、今年も関心を抱くところです。すでに株主向けの定時株主総会招集通知が東証にて公表されていますが、注目はなんといっても第4号議案(常勤監査役解任に関する議案)です。注意すべきは、この議案は会社提案ではなく、株主提案として上程されているもので、解任に関する理由はすでに公表されておりました。今回、招集通知には、この株主提案に対する常勤監査役さんの反対意見および監査報告についての個別意見が(全文のまま)別紙として掲載されています。さらに、この監査役意見に関する提案者たる株主さんからの反論の意見も添付されています。なお、あらかじめ申し上げますが、本エントリーは関係当事者の対応について論難するものではなく、あくまでも監査役の監査環境に関心をもつ者としての個人的な意見にすぎないものです。念のため。
昨年3月ころ、ベリテ社の常勤監査役さんは、情報提供に基づいて(おそらく内部通報かと思われます)、取締役関与による不正取引の疑惑を指摘し、監査役会が独自に第三者委員会を設置、その後この第三者委員会の報告結果に不満を抱いた取締役会が、別途第三者委員会を設置して検証し、結果として取締役会は、不正取引の疑義は解消された、むしろモニタリングに問題あり、と報告しました。その後、昨年9月には今回株主提案を出しておられる株主さんが当該常勤監査役の解任を求める臨時株主総会の開催を会社側に求めたのですが、結局12月には、会社側と株主側とで、今後のベリテ社における監査制度の在り方を協議することで、臨時株主総会の開催まではしないことで落ち着きました。
このような経緯を通じて、この6月の定時株主総会では改めて同じ株主さんから、常勤監査役の解任に関する提案が出された、というものです。監査役解任議案は特別決議が必要なので、出席株主の3分の2の解任賛成の決議が必要となりますが、当該株主さんは親会社株主であるため(議決権ベースで52%保有)、可決される可能性は高いものと思われます。ただ、かりに私がベリテ社の一般株主であり、第4号議案について賛否を判断するとすれば、もう少し判断に必要な資料がなければ企業価値向上のために監査役さんを解任するが妥当なのかどうか、それともこのような監査役さんがいるからこそ安心して経営を任せられると考えるべきなのか、判断ができないように思われます。
なんといっても、会社提案ではなく、株主提案として監査役解任が提案されたのですから、提案者は普段の常勤監査役の仕事を見ている方々ではありません。不正の疑惑(結果的にはなかったとされていますが)を自力で見つけることができなかったこと自体が監査役の任務懈怠にあたることは当然ありませんので(監査役は善管注意義務に違反したこと、つまり最善の努力を怠ったことが任務懈怠であり、結果責任は問われません)、この株主さんからも、また株主提案に賛成する取締役会からも、監査役が解任されるべき任務懈怠についての根拠事実に関する説明は一切記載されておりません。なので、私が一般株主であれば、まず監査役さんに解任する正当理由はどこにあるのか、どのような注意義務に反したがゆえに、不正の疑惑を自力で見つけることができなかったのか、というところの説明を求めることになろうかと思います。
つぎに、これは素朴な疑問ですが、株主総会の当日出席が困難な株主にとりまして、議決権行使書を発送する前提として、昨年4月に取締役会が公表しないと決めた監査役会の依頼による第三者委員会報告書の全文もしくは要旨の公表がなければ、常勤監査役さんの「とんでもない行動」は判明しないのではないでしょうか。そもそも3月の時点では取締役会はリリースにおいて、この監査役会が設置した第三者委員会に全面的に協力するとありました。にもかかわらず、この第三者委員会報告書の全文公表を監査役会が求めたにもかかわらず、これを取締役会が拒否して、別の第三者委員会を設置したわけですから、常勤監査役さんが解任されるに値するような資質が欠けていたのかどうかは、このあたりの報告書を読んでみなければ判明しないものと思います。しかしなぜ、これほどの大問題になっているのに、取締役会は最初の第三者委員会報告書を公表しないのか、素朴な疑問が残ります。それとも一般株主は会社側に要求すれば、この監査役会設置の第三者委員会報告書を読ませていただけるのでしょうか?このあたりはよくわからないところです。提案されている株主の方も、こんな委員会に2000万円も費用を出させたことはけしからん!と意見を述べておられますが、取締役会も全面的に協力するとして設置された以上は、取締役会もナットクのうえで出されたものだと思いますので、ちょっと的外れの意見ではないでしょうか。そもそも私が大株主さんの立場だったら2000万円の費用を負担させたこと以上に、「おまえのおかげで金融庁から調査が入ったではないか。この信用毀損をどうしてくれるのか!」と言うはずですが、そのようなことは一切出ておりません。ということはやはり合理的な疑いが客観的に存在したのではないか、と推測してしまうわけです。
さらに、昨年12月の会社リリースでは、当該株主さんと会社との間で今後の監査制度の在り方について協議をするとありましたが、具体的にはどのような協議があったのか、またその協議がどのような内容だったからこそ、今回の解任提案に至ったのか、そのあたりについても知りたいところです。いや、そこがもっとも大事なところではないかと思います。思いつきの提案ではなく、約半年間かけで大株主と会社側でどのようなモニタリングシステムが当社にとって有効と考えたのか、その時間軸に基づく真摯な姿勢が認められれば、会社が賛同する株主意見と、これに反対する監査役意見のどちらが企業価値向上にとって傾聴に値するものであるかを一般株主が推測しうる資料になるものと思います。
そして最後になりますが、取締役不正の疑義を知った監査役さんが、取締役に相談することなく第三者に相談したことの是非が論じられています。しかし本件で常勤監査役さんが問題視していたのは(昨年3月19日付会社リリースによると)、社内から情報提供を受けて、取締役の不正取引に関する疑義を抱いた、ということですから、軽々に取締役に相談できる内容ではなかったはずです。もし監査役さんが取締役さん方に対して不用意に相談や報告をしていれば、当該取締役さんによって証拠を隠ぺいされてしまいかねず、そのほうがよっぽど監査役として善管注意義務違反(任務懈怠)であり、資質に欠けることになってしまうのではないでしょうか。これは一昨年のゲオ社の取締役の不正取引の情報を得た監査役会が独自に調査委員会を設置した事例などからも明らかだと思われます。この点、株主側の意見については、あまり説得力のないもののように思われます。
もちろん、監査役の解任については、それほどの理由がなくても多数決(特別決議)の要件さえ満たせば可能ではあります(損害賠償については「正当な理由」の有無が問題となりますが)。しかし企業価値向上という視点からすれば、やはり一般株主は株主と監査役のどちらの意見が正しいのか、少数株主としては冷静に判断すべきだと思いますので、あえて個人的な意見を述べた次第です。なんといっても、あのトライアイズ事件では、監査役の資質に欠けると解任理由を述べた会社側が、最終的には(監査役さんに対して)名誉毀損に関する謝罪公告を出したほどの問題なのです。今回は株主提案なので、そのような事態には至らないと思いますが、株主提案による解任議案ということであれば、大株主さんに聞くこともできず、やはり会社側に一般株主として知りたいことの説明を冷静に求めてみたいところです。