« アイレックス粉飾決算事件と監査役の調査義務のレベル | トップページ | NPB規格変更問題からみる「不確実性」とはいえない企業不祥事 »

2013年6月14日 (金)

密室のクーデターと株主総会における信認手続き

(6月14日朝 追記あり)

私が知りうるかぎりですが、今年に入って取締役会や理事会等で代表者が解職されたのは1月の広島電鉄さん、5月の近畿産業信用組合さん、そして本日の川崎重工業さん、くらいでしょうか。きちんと調べればもっとほかにもあるかもしれませんが、ともかく報道されたものはそのくらいかと。また、果たしてそれらが「クーデター」と呼べるものかどうかは、少し検討しなければならないかもしれません。

川重さんは、社長と社長代行、そして企画本部長という、まさに経営の中核におられた3名の解職と異動が動議で決議され、当事者以外の全取締役の賛成で可決された、というのですから、その緊急動議に関する情報の機密がよく維持できたものだと驚くばかりです。定例の取締役会なら緊急動議も出しやすいのですが、今回は臨時取締役会と報じられていますので、どのように招集手続きが進んだのか、(不謹慎ですが、今後の参考として)知りたいところです。クーデターを起こす側がどのようにして社長(招集権者)に臨取の手続きを進めるように促すのか、このあたりが妙味です(会社法366条、367条あたりの問題です)。ちなみに広電さんの場合は前日にすでにクーデターについての予告がなされていたように記憶しています。→産経新ま聞のニュースによると、この臨時取締役会における議題は「三井造船との統合交渉打ち切りに関する審議」ということだったそうなので、ひょっとすると前社長さんらも、クーデターの気配は感じておられたのかもしれません

(追記)毎日新聞の14日朝刊ニュースによりますと、このあたりが少し詳しく報じられており、5月23日の取締役会において、すでに「合併交渉反対」で紛糾し、その際に臨時取締役会の招集が決まったようです。そうしますと、招集手続に関する難問はなかった、ということになりそうですね。また、前社長は臨時株主総会における議決を阻止しようと動いていた、なんとか総会後に持ち込みたいと考えていた、とありますので、反対派としては、まさにこの総会前の時期がピンポイントでねらい目だったということでしょうか。

広島電鉄さんのケースでは、社外取締役さんは欠席されておられたようですが、川重さんの場合には社外取締役さんは一人もいらっしゃらなかったようです。ただ、毎度のことながら、4名の監査役さん方は、この臨時取締役会の趣旨については事前に知らされていたのかどうか、とても気になります。緊急動議を行う側(クーデターを起こす側)としては、事前に全監査役に告げておくべきかどうか、かなり迷ったのではないかと推測いたします。

ところで5月にクーデターが起きた近畿産業信用組合さんですが、新聞(中央日報)が報じるところでは理事会の代表理事解職の決議がわずか1票差で可決されたとのこと。これって、事前に動議が漏れてしまうと、解職動議の否決につながってしまうほどの僅差です。関係者の信頼関係がなければなかなか画策できないことがわかります。いや、信頼関係だけでなく、画策を検討してから実行に移すまでの時間はかなり短くなければ成功しないのではないでしょうか。

この近畿産業信用組合さんも、6月の総代会ではいろいろと意見が出されたようですが、なんとか組合員の承認を受けて新執行部が動き出しました。5月のクーデターでは「解職」どまりだったので、総代会において「常勤理事」→「非常勤理事」の議案を通過させ、前会長の影響力を完全に封じ込めました。つまりクーデターは総代会が終了するまでは終わらないのです。

今回の川重さんのケースではどうなるのでしょうか?クーデターに伴って合併交渉という重要議案についても白紙に戻す、ということなので、とりわけ合併を推進してきたとされる(?)金融機関の承認は平穏無事に得られるのでしょうか。私はいつも、このようなクーデターが起きたときは、上場会社であれ、非上場であれ、総会の信認を得てはじめて完了するものと考えています。解職という結果はまだ通過点にすぎません。新代表者の方が、コーポレートガバナンスとコンプライアンスを理由に経営者の交代を果たしたと記者会見で説明されておられましたので、そのことが定時株主総会でどのように信認されるのか、また総会で前代表者は取締役としても選任しない、という承認を得ることによって、本当にクーデターを終了させることができるのか、これはとても注目すべきところかと思います。

|

« アイレックス粉飾決算事件と監査役の調査義務のレベル | トップページ | NPB規格変更問題からみる「不確実性」とはいえない企業不祥事 »

コメント

社長解任というのは最終手段であって、本来は取締役会で喧々諤々の議論をして、それでもという時だけ。それでもあくまでもLast Resortであるべきかと。

日経の以下のコメントですが、「デューデリをせずに(融合効果)が出ないと判断できた理由は何か」と問われた松岡京平副社長は「我々はプロであり(外部の)専門家よりも評価できる。」というのを見て、驚愕したのは私だけでしょうか?

投稿: HT | 2013年6月14日 (金) 16時45分

 このクーデター(但し、サラリーマンの出世のゴールが社長という日本的な視点が前提。会社法なら、監視監督義務の行使。)は、果たして株主のためなのか、それとも合併によりポストが減ることへの抵抗なのか、よくわかりません。事業上のシナジーもありそうだし・・・。
 こういうときに、社外取締役が客観的な立場から意見を言うことが重要ではないかと思います。

投稿: Kazu | 2013年6月14日 (金) 17時03分

サンケイビズのニュースでも出ていますが、法律チックな新たな問題が検討されているみたいですね。議決権行使書面の解釈問題。おもしろそうなので、また取り上げてみたいと思います。ただ、現在進行形はルール違反なので、もう少し後になってからということで。

投稿: toshi | 2013年6月16日 (日) 00時46分

といいますか、反対派の方々は、ひょっとするとこういった株主総会の難しい局面まで見据えて有力な弁護士を投入しているのではないか・・・と考えたりしております。

投稿: toshi | 2013年6月16日 (日) 00時58分

この件に関しては、過去の某同業他社の統合を誤報で潰したせいか、スクープをとれると取材していたのがだめになったうらみか知りませんが、日経は、かなりバイアスがかかっているように感じます(一般紙や週刊誌の方がまともという不思議な現象)。
上記のコメントは、ビジネスデューディリのレベルの話であり、法務・会計DDのことをいってるわけではないと思います(ビジネスDDについては、同業であれば、その会社の方こそ専門家であり、外部専門家に委ねるケースはまず考えられないと思います。
相手会社の経常利益率とこの会社のビジョンや中計での想定利益率を比べれば(そして売上規模からみて、その差は相当大きいものになります)、どちらが株主利益に即すのか明らかですし、市場の反応をみても、明らかです。
素人が公開資料でみてもおかしな話ですから、話をしてもやめてくれないとなれば、ここまでせざるを得なかったのかなとも思います。
それほどおかしな話でないことは、社外取締役の候補者が辞退せず就任承諾をなさったことからもわかります(本日の総会で選任されたようです。)。
むしろ推進派の方がここまでこだわった動機の方が気になりますね。

投稿: 某 | 2013年6月26日 (水) 16時37分

某さん、ありがとうございます。本日のエントリーで少しご紹介させてください。

投稿: toshi | 2013年6月28日 (金) 02時31分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 密室のクーデターと株主総会における信認手続き:

« アイレックス粉飾決算事件と監査役の調査義務のレベル | トップページ | NPB規格変更問題からみる「不確実性」とはいえない企業不祥事 »