« 不正リスク管理は「起こさない」よりも「起きたらどうする」 | トップページ | 企業不祥事における「成功体験」のおそろしさ・・・について考える »

2013年6月 7日 (金)

不正リスク対応監査基準の理解のためにお勧めの一冊

Kansakijun0023企業会計審議会というところは、単に会計や監査の専門家の方だけが集まって会計インフラについて議論する場ではなく、広く国民の意見を集約して、よりより会計監査制度を構築していこうとの意図でメンバーが選出されているそうです。監査部会の議論も同様なのですが、出来上がった(改訂された)監査基準を読みますと、会計監査の素人からは、何がどう変わったのか、そもそもなんで改訂されたのか、ということを理解するのは至難の業です。そこで企業会計審議会(監査部会)における議論の経過を基に、新たな監査基準を一般の方向けに解説された本がどうしても必要になります。

ということで、私もこのシリーズは監査基準の改訂がなされるたびに買い替えておりましたが、今回はとくに監査基準の改訂だけでなく、不正リスク対応基準の新設もあり、発売と同時に読ませていただきました。(逐条解説で読み解く監査基準のポイント 八田進二・町田祥弘 著 同文館出版 3,200円税別)しかしどんどん分厚くなっていきますね(^^;

ご承知のとおり、企業会計審議会の委員でいらっしゃる八田・町田両先生の対談形式による逐条解説です。もはや私のような門外漢が紹介するまでもない本かもしれません。しかし今後、金融商品取引法監査を受けておられる会社の担当者の方々にとっては、これを「有事」になってから読み始めては遅すぎるのではないかと思い、また「平時」にこそ、本書によって(リスク対応基準の)基本的なところは押さえておかれることをお勧めしたいので、あえてご紹介する次第です。会計監査上の不正リスクなるものについて、監査法人さんと会社との相互理解を深めることが大切であり、とりわけ今回の改訂版は、不正リスク対応基準に関する総論的な解説と逐条解説に分かれており、ときどき両先生の個人的な意見も含まれていますが、審議会で議論された論点がほぼ網羅されています。

不正リスク対応監査基準や改訂監査基準として、明文化された部分の解説は、すでに会計雑誌等でも学ぶことができますが、本書のおススメは、なんといってもこのような監査基準が出来上がった背景事情に細かく触れることができる点です。「こんな議論があったけれども継続審議になった」「この議論は今回は立ち消えになった」「こういった事情から、このような文言になった」といったところの解説はとても重要です。なぜなら、今回の不正リスク対応基準はこれで完結したのではなく、これからの運用状況をチェックしながら、改良され、完成形へと向かっていく通過点にすぎないからです(これは両先生の対談の最後でも触れられています)。

私の個人的な意見でいえば、会計不正の早期発見のためには、財務諸表の利用者、会計監査人、そして当局と、それぞれが努力をしなければならないと考えています。たとえば拙著「法の世界からみた会計監査」で述べたように、投資家や株主は自己責任によって(監査制度に対する)リテラシー向上を図る必要があり、監査人はより「市場の番人」に近い立場で、職業的懐疑心をもって監査に臨む必要があり、そして当局は企業に対する開示規制を工夫して、投資家や株主がおかしな会社にはそれなりの風評が立つような(レピュテーション効果)仕組みを考える、といったところです。

著者の八田先生が、本書の中で「もっと専門家を活用すべきである」とされ、CFE(公認不正検査士)の活用なども推奨していただいておりますが、我々CFEとしても、何もないところでいきなり不正調査を始めるわけにはいきません。やはり企業や監査法人、もしくは大株主から「どうもおかしいから調べてくれ」といった活動の端緒がなければ意義のある活躍の機会もなかなか付与されないので、関係者の方々が、不正防止、不正早期発見に向けた努力を実践していただけますと、それぞれが有機的に動き出せるのではないでしょうか。

企業会計審議会の中でも議論されておりましたが、不正リスク対応基準が(基本的には)上場会社の監査のために適用されるものなので、今後は監査の種類に応じて、監査のレベル感にも差が生じてもよいのではないか・・・という方向性も、本書において触れられています。これは法律家にも興味深いところでして、監査基準が変わると(もしくは監査制度の区別に応じて適用される監査基準が異なると)、どのように会計監査人の注意義務のレベルにも影響が生じるのか、そもそも監査基準というものが出来上がった歴史的背景との関係からみても、関心を抱くところです(ただ、このあたりは拙著の中で「リスク・アプローチを法的に考える」の章が、会計専門職の方々からご批判をいただいているのと同じように、あまり法的に云々・・・という議論は会計専門職の方からみれば反感を持たれるかもしれませんが。。)。いずれにしましても、監査法人の引き継ぎや連携問題、監査法人全体としての品質管理の問題など、中には会計士さんにとっては耳の痛い内容も含まれていますが、著者の方々の不正会計事件撲滅に向けての熱い思いが伝わってくるもので、ご一読をお勧めいたします。

6月 7, 2013 本のご紹介 |

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/104680/57538116

この記事へのトラックバック一覧です: 不正リスク対応監査基準の理解のためにお勧めの一冊:

コメント

コンプライアンス違反倒産が過去最高になったようです。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130609/mca1306091003002-n1.htm

投稿: 迷える会計士 | 2013年6月 9日 (日) 12時20分

迷える会計士さん、こんばんは。いつもありがとうございます。

この記事、毎年のようにブログで取り上げていたのですが、どうも因果関係がわからないので逡巡しています。業績が悪化しているからこそコンプライアンス違反を犯してしまっているのではないか、ということでして、本当にコンプライアンス違反が原因といえるのかどうか。ホントのところどうなんでしょうね?

投稿: toshi | 2013年6月11日 (火) 02時15分

倒産した会社でコンプライアンス違反を原因とするものという方向で見ているわけですが、逆にコンプライアンス違反をした会社で倒産にいたったものという方向で見なければ判然としないと思われます。
業績が同じく悪化している会社で、コンプライアンス違反があった群とコンプライアンス違反がなかった群で、倒産に至ったものに統計的に有意な差があれば、コンプライアンス違反が倒産の原因となったといえるでしょう。

投稿: 迷える会計士 | 2013年6月13日 (木) 22時33分

なるほど、たしかにそうですね。倒産というのは複合的な要因が多いので、なかなか条件の立て方がむずかしそうですね。

投稿: toshi | 2013年6月16日 (日) 00時49分

コメントを書く