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2013年6月12日 (水)

DeNA元社長の「不格好経営」と経営判断原則

Nanba001以前、日経新聞に南場智子さんの実話「激やせラリー」が連載されて、とても面白かったので、さっそく南場さんの新刊「不格好経営-チームDeNAの挑戦」南場智子著 日本経済新聞出版社)を拝読いたしました(ちなみに、社内の幹部職によってダイエットを競う「第1回激やせラリー」は本書にも収録されています)。

ネタバレはまずいので、あまり内容には踏み込みませんが、本当におもしろかった(いや、社長退任後の2年間の生活については「おもしろい」という表現は失礼かもしれませんので、「ためになった」と言ったほうがいいかも)。起業後、ホントにかっこ悪いことがDeNA社に次々と起きるのですが、腹を決めて、外に向かってかっこ悪いところを正直に開示されてきたのですね。最終的には、誠実だからこそ周囲も力をなんとか貸してくれますし、また自分たちも這い上がる気力が湧いてくることがよく理解できました。

夫(もしくは妻)の看病の必要性に迫られたとき、社長を退任すべきか、それとも社長として会社を支え続けるべきか決断をするとき、私なら、どうのような選択になろうとも「自分の生き方」という哲学で判断すると思います。しかし南場さんは、逡巡した挙句、自分の哲学や生き方ということよりも、「このDeNAという会社にとって、どちらの判断がよいか」というモノサシで退任を決めたそうです。いや、これはスゴイ。「社会の公器」のトップとして当然といえば当然かもしれませんが、私ならそこまでの気持ちになれないでしょう、たぶん。

法律家や社外取締役という視点では、第7章「人と組織」がたいへん考えさせられます。とくに経営者としての重要事項の意思決定の重さです。平社員と副社長の距離よりも、副社長と社長との距離のほうが断然遠い・・・ということがよく表現されています。取締役の意思決定や業務執行の法的責任(善管注意義務違反の有無)を検討するにあたり、よく「経営判断原則」ということが言われますが、(誤解をおそれずに言えば)法律家が語る経営判断原則に則って判断をしていては、とんでもない経営上の失敗をしてしまい、かえって株主に迷惑をかけるのではないか・・・、そう思えるほど重要な(法律家にも参考になる)内容が書かれています。人材こそ会社の命、ということで「人」を大切にされる南場さんだからこそかもしれませんが、リスクを背負った人間にとって経営判断の過程がどのように映るのか、企業法務に携わる法律家は必読の一冊かと。

なお、南場さんが本当に不格好なことも素直に表現する方であることは、最後の「謝辞」に書かれてあることを読めばわかります。私も南場さんとは比較になりませんが、弁護士になって20数年、同じような経験をし、同じような思いを抱いています。しかし、未だそのことを誰にも表現することはできません。そして、これからもできないような気がします。すごいなぁと思います。

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