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2013年6月24日 (月)

密室のクーデターと株主総会における信認手続き(その3)

いよいよ今週は株主総会のピークですね。私は総会指導というよりも、当事者(候補者)として参加するだけですので、「忙しさ」と言う意味では、いつもとあまり変わりません。ただ、ここ2週間ほどのエントリーが株主総会関連の話題ばかりなので、今週のいくつかの株主総会には「単なる野次馬」として注目しています。

なかでも、やはり川崎重工社の定時株主総会(6月26日 神戸国際会館)については、社長解職劇という極めて重い出来事が株主に信認されるのかどうかということに注目しています。おそらく例年にもまして、個人株主の方々が当日出席をされるのではないでしょうか。

6月22日(土)の日経新聞朝刊では、役員13名選任議案→役員10名選任議案に修正をした定時株主総会の招集通知を各株主に再送付したことが報じられています。また実際、川崎重工社のWEB上にも再送付された内容がリリースされています(第190期定時株主総会招集ご通知の一部修正について 6月13日付)。

先日(その2)でも述べたとおり、私の個人的意見としては、議案修正までに送られてきた議決権行使書面(およびネットでの議決権行使)について、当初の13名の中に、新たな10名は包摂されていますので、10名分については有効、選任議案が撤回された3名については集計せず、という取扱いで会社法的には問題ないものと考えています。しかし、議案が撤回された以上、そのような取扱いが適法とされるためには、修正された招集通知の内容を全ての株主に知らせることは必要かと思います。したがって新聞報道のとおり、会社側の議案の一部修正に関する招集通知を発送することは適切な対応です。

さて、ちょっと疑問が生じるのは、いったん13名の役員選任議案に賛否を表明した株主に、「議案を一部修正したので、すでに議決権を行使された株主の方々も、賛否の意見を変更することができますよ」と伝える必要があるかどうか、ということになります。上記の日経の記事によると、株主側から「賛否の変更は可能なのか」と問い合わせがあれば、「できますよ」と会社側が回答していることが明記されています。しかし13日に会社側から株主に発送された招集通知の一部修正のお知らせには、上記のような記載がないようです。ということは、すでに賛否の意見を表明している株主の中には、役員選任議案の一部が修正されたことは知っているが、すでに議決権を行使してしまったのだから「もはや変更はできない」と考えている方もいらっしゃるのではないかと。

最近は「買収防衛策を導入、継続する企業の代表取締役には選任に反対票を投じる」とか「独立性のある社外取締役をひとりも選任しない企業の代表取締役の選任には反対する」といった機関投資家や議決権行使助言会社のポリシーが目立ちます。会社側の経営方針に対する意思表示を役員の選任議案への賛否という形で表現する傾向にあるとすれば、たとえば代表取締役の交代、(経営統合方針の白紙撤回といった)経営方針の転換についても同じく役員選任について株主が賛否を変更する、という意思表示も十分にありうるように思います。そうだとしますと、(法的な問題は別として)一般株主に対して「いったん行使した議決権について、締切までは内容を変更することができますよ」という会社側からの告知は、やはりあったほうが望ましいのでしょうね。

いっぽうで、6月13日に議案の修正を通知して、6月25日までに変更した議決権行使書を会社に到着させる、というのは、実質株主から信託口へ議決権行使の指図が戻ってくることを考えると時間的にほとんど困難ではないかと。手続きをきちんと踏もうとすると、今度はまた新たな手続上の問題が露呈されてしまうということになってしまうのでしょうかね。結局のところ、そういった問題が生じる可能性もあるために、変更の要望が個別になされた株主については対応するが、広く「議決権の再行使ができますよ」といった広報はされなかったのかもしれません(このあたりは、あくまでも野次馬的な推測にしかすぎません。念のため)。

株主にしてみれば、もっと実質的な経営に関する話のほうに関心が向くわけですが、実は会社側にとっては、こういった手続上の問題をクリアしなければ「信認を得た」とは言いにくいところなので、このあたりも個人的には注目しておきたいところです。

※ ※ ※ ※

なお最後にお知らせですが、本日(6月24日)のテレビ朝日報道ステーションに、私が(収録形式ですが)登場いたします。株主総会特集ということで、西武鉄道・サーベラスの事例を取り上げて解説をするというものですが、正直1分や2分程度で一般の方々に解説をするというのは至難の業です。ほとんど一般的な解説しかできておりませんが、ご興味のある方は、どうかご覧いただければ、と。。。

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コメント

個人投資家はご指摘のとおりですね。機関投資家は通常、議決権行使締切日までは賛否は自由に変更できますので、そういう意味では問題はなかったかと思います。

投稿: ty | 2013年6月24日 (月) 11時38分

tyさん、いつもありがとうございます。実務的には機関投資家にはほとんど影響はない、ということなのですね。了解いたしました。

投稿: toshi | 2013年6月25日 (火) 01時56分

ブログ拝見しています。初めてメールします。
昨日川崎重工業の株主総会に初めて出席しました。報告と感想をいくつか。
<1>
新経営陣の説明は肝心な部分はやはり逃げていたと思います。
「解任となった3人は他の取締役の意見をないがしろにしたため、コーポレートガバナンス、コンプライアンスの観点から見過ごすことができず、ああいう事態になった」と。そして、「新聞でリークされた後、『三井造船との統合を検討している事実はない』と情報開示したのも3人が中心になって行った」と。
<2>
でも聞いていて思ったのは、「前代表取締役の代表者としての権限と『ないがしろ』との境界線ははたしてどうだったのか」とか、新聞リークの1~2週間前に統合の件は聞かされていたとの説明があったので、「だったら虚偽の情報開示は3人だけの責任じゃないだろ」等等。
解任となった3人は座席は用意されていましたが、「都合により欠席」とのことで、正直欠席裁判という感じがしましたね。
問題があった3人が辞任すれば禊が済むと思っているのか?という思いを正直禁じ得ませんでした。
<3>
「取締役候補13人という最初の議案で議決権行使した株主の意向はどう扱われたのか?」との質問に対しては、「修正後の10人は13人の時から名前が代わっておらず(元々記載されており)、13人あるいは10人は一括の信任投票なので、13人で議決権行使した意見もそのうち10人については有効と考えた」という趣旨の回答でした。
何か自信なさそうな、むにゃむにゃっとした回答でしたが。
<4>
でも一番印象として残ったのは、やはり神戸には川重ファンが多いんだな、ということです。もっと野次・怒号が飛び交うかと思いきやおとなしいもので、経営陣を糾弾するような内容か、と思った意見・質問が最後には腰砕けで、「いろいろ大変でしょうが頑張って下さい」みたいな激励にすり替わったり、「クーデター後株価が上がったので今回の判断は正しかった」とか・・・。
<5>
なんだか危機感に乏しいというか、「ガバナンス上どうだったの?」という視点での意見・質問はいくつか出たとは言え、全体の雰囲気を作っていくほどの勢いはなかったですね。
むしろ、「有無を言わさない経営の独断を最後の最後にストップさせたという意味で、ガバナンスを効かせたんだ」ということなんでしょうかね。
パナソニックの株主総会ではずいぶん厳しい意見が相次いだという報道だったと思うのですが、同じ関西企業でも違いを感じてしまいました。株主にとってはガバナンス問題より数千億円の大赤字の方が悪なんでしょうね。

投稿: 川重総会出ました | 2013年6月27日 (木) 22時24分

株主総会の様子、どうもありがとうございました。本日のブログにて若干紹介させてください。

投稿: toshi | 2013年6月28日 (金) 02時34分

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