アイレックス粉飾決算事件と監査役の調査義務のレベル
当ブログをご覧の皆様にとりましては、もうすでにご関心が薄れてしまっているのではないかと思いますが、拙著「法の世界からみた『会計監査』」の4回目の増刷が本日決まりました。本当にたくさんの方にお読みいただきまして、感謝しています。以下本題。
6月10日、システム設計・開発を手掛けるJDQ上場のアイレックス社は、幹部社員による架空の締め後売上の計上による不適切会計処理を調査した第三者委員会報告書を公表しています(リリースはこちら)。本委員会報告書では、内部統制における重要な不備について指摘するとともに、不適切な会計処理を実行したのは幹部職員だが、営業担当取締役、管理担当取締役も加担していたと言わざるを得ないと判断しています。また会社側も、リリースにおいて、この第三者委員会報告書の判断を認めているようです。
ところでこの事案では、親会社(56%支配)から派遣されたものではなく、ほぼプロパーといえる常勤監査役さんが活躍されていたようです。監査法人による(取引の実在性の疑義に関する)指摘を受けて(就任からわずか5か月後)、代表取締役社長に監査法人からの指摘事項の改善状況を質問しています。ところがなかなか改善状況が明確にならないことから、常勤監査役さんは、親会社の社長さんのところへ状況を報告し、相談をしたようです。そこで親会社の社員6名が中心になって調査委員会が立ちあげられ、今回の不適切会計処理が発覚、第三者委員会の設置という流れとなりました。
つまり、アイレックス社の常勤監査役さんの「親会社への状況報告および対応に関する相談」がなければ、この不適切会計処理は監査法人さんの監査結果を待たなければ発覚しなかったのではないかと思われます。親会社に子会社の不正の兆候を報告し、対応を求めるという行動がどうなのか、という点はありますが、監査役実務を考えますと、ずいぶんと評価される行動ではないかと。
しかし、アイレックス社の第三者委員会は、こういった常勤監査役さんの一連の行動にはある程度の評価をする一方で、監査法人から架空売り上げ計上に関する疑問点の報告を受けた段階で、なぜもっと早く自分で調査をしなかったのか、具体的な調査方法も容易に認識しうるところであったにもかかわらず、不正実行者らの虚言を信じ、決算年度末まで担当者らの修正を見守っていたのは、監査役としての職務執行が不十分であったと言わざるを得ないと判断されています。なるほど、なかなか厳しいご意見です。
たしかに「子会社監査役」という立場であれば、第三者委員会が指摘するように、子会社取締役の職務執行の適法性をチェックするための調査権限を十分に行使する必要があったと思います。ただ、親会社が子会社の営業戦略に絶大な力を誇るようなケース(本件も、そのようなケースであると第三者委員会報告書に記述されています)では、子会社監査役がどこまで独立性をもって子会社取締役の監査ができるか、という点はなかなかむずかしいというのが実務的な感覚です。子会社取締役が直接的に不正に関与しているのであればなおさらだと思います。むしろ子会社監査役が親会社監査役や(今回のように)親会社の経営トップに不正を報告できるような体制を整えておいたほうが、未然防止や早期発見ということからすれば効果的ではないかと思います。
もちろん会社法の解釈からすれば、子会社監査役は独立した立場で子会社経営陣の行動を監査すべきであり、そのための調査権限を行使すべき、というのが正当なものです。しかし内部監査部門に専業者もいないような組織において(本件ケース)、監査役監査が孤立した状況になってしまわないか、益々監査役としての職務執行が困難な状況となるのではないかという懸念が残るのも事実です。このあたり、現役の常勤監査役の皆様はどのようにお考えになるのでしょうか。
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