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2013年6月25日 (火)

ますます重要性を帯びる証券取引所ルールとその実効性

最新号(1972号)の金融法務事情「時評」欄に「ソフトローとレピュテーション」と題する小稿を掲載いただきましたが、ここのところ、ソフトローの代表格ともいうべき証券取引所の自主ルールが俄然注目されているのではないかという気がしています。

1つは本日(6月24日)金融庁HPで企業会計審議会監査部会の資料が公開されていますが、東証から提示された資料において、特別注意市場銘柄指定の弾力的運用について解説がなされています(特設注意市場銘柄の積極的な活用等のための上場制度の見直しの概要)。オリンパス事件について上場廃止にすべきかどうか、いろいろと議論もありましたし、また最近の不正リスク対応監査基準新設の議論の中でも、制度活用の提言がありました。そういった中で、この特設注意市場銘柄指定制度の拡大適用の流れは極めて興味深いところです。詳細は別途具体的な事例をもとに検討したいと思います。

2つめは、自民党のIFRSに関する提言です(国際会計基準への対応についての提言-自民党)。IFRSを適用するにあたり重要なことは、そのルールの改訂や解釈において日本がイニシアティブをとれるかどうかである、というのは私も強く賛成するところです。IFRSも最近の海外不正問題(たとえばアンチトラスト法違反やFCPA問題)と同様、相手の対応を受け身で待っていて、これを研究するという姿勢よりも、積極的にこっちから運用に関与できる体制を整えて、自国企業の利益を守る姿勢のほうが現実的ではないでしょうか。そういった日本の体制を整えるためには、たとえば任意適用を300社に増やすことが喫緊の課題だそうですが、どうやって300社に増やすのか、というところで自主ルールに期待がかかるのだそうです。でもこれはかなり困難が伴うので、東証としては任意適用につき推奨はするがルール改訂までは消極的のようです。

そして3つめが不正リスク対応基準の環境整備問題。企業内容開示ガイドラインの改訂に関する論点です。たとえば有価証券報告書の提出時期直前に重要な虚偽記載を示唆する状況が監査法人に判明した場合、監査人が意見を表明できないので、企業からは報告書提出期限の延期申請がなされるわけですが、これについて当局はどのような場合に、またどの程度の期間、延期を認めるか、という問題です。これは企業にとって上場廃止となるかどうかの死活問題ですが、この申請に対する承認判断において、当局は企業の自律的行動を審査の対象とします。その中で、たとえば証券取引所の行動規範をきちんと遵守しているかどうか、といったことも審査の対象となります。

つまりソフトローは国家権力によって実効性が担保されているわけではないのですが、これが実に巧妙にハードロー化しつつあるのではないか・・・という気がします。また、そこまで言えなくても、先の金融法務事情における拙稿のように、ソフトローに反する企業行動違反は社会的な信用を失う(レピュテーションリスクが顕在化する)という事態となり、法令違反に匹敵するような制裁を受ける時代が到来しつつあるのではないでしょうか。本日は証券取引所の自主ルールを例にあげて、抽象的なお話だけとういことで、ほんの「頭出し」にすぎないのですが、このテーマは今後も様々なソフトローの具体例を通じて、検証していきたいと思います。とくに企業の「トライ&エラー」によるコンプライアンス経営(不正リスク対応)にとってはとても重要な課題ではないかと思っています。

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コメント

 「つまりソフトローは国家権力によって実効性が担保されているわけではないのですが、これが実に巧妙にハードロー化しつつあるのではないか・・・という気がします。」というご指摘、頷いてしまいました。
 オリンパスだって、上場廃止になるのか誰もわからなかったのは、東証の判断基準が事前開示されていなかったり、決定がされた場合の判断基準の明示もなかったので、「この基準に照らして大丈夫」とか「過去の事例の判断基準と照らして、ダメ」とか一般人(当事者の企業や株主)には判断できなかったと思います。いまだにライブドアが上場廃止で、日興コーディアルやオリンパスがセーフだったのは、後者は影響が上場廃止の影響が大きいと判断されたからじゃないか・・・みたいな憶測が残るのは、その証左ではないでしょううか。

投稿: ひろ | 2013年6月26日 (水) 08時30分

 証券取引所規則は、実効性確保措置と上場廃止、またその規則の内容が金融庁との調整の上決まっている、となれば、ソフトローではなくハードローではないかと思います。NYSE規則のような、合衆国特有の法令事情からハードローになっているという訳ではないのですが。そして、上場企業側からすると、会社法、金商法、そして取引所規則(もうすぐ東証と大証が一緒に、また、名証、福証、札証も)はほとんど同じ内容となれば、もはやハードロー、特に違反した際の社会的制裁はハードローと一緒かと思います。
 巧妙にではなく、正面からハードローになっているという評価ではいけませんか?

投稿: Kazu | 2013年6月27日 (木) 20時31分

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