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2013年6月 4日 (火)

不正リスク管理は「起こさない」よりも「起きたらどうする」

いつも楽しみにしております共同ピーアール社が公表するアンケート調査結果ですが、5月31日に「企業不祥事に関する意識調査」なる調査結果が公表されました。回答者は一般の給与所得者300名ということで、同じ調査は10年前にも行われているそうです。10年前と比較すると、自分の職場でも不祥事が発生している(可能性がある)と回答している人の比率が高くなっており、逆に不祥事が起きた企業については「倒産するのは当然」という回答よりも「一部の人がやったことだから、倒産は酷だ」と考える人の比率が増えているそうです。

10年前との比較でいえば、サラリーマンの方々の間でも、自分の会社でも不祥事は発生する、といった現実的な考え方が浸透しているのかもしれません。だからこそ、いざ不祥事が発生した場合には、「一人のために会社の倒産は酷である」と会社側にやや寛容な姿勢が生まれてくるように思われます。こういった一般のサラリーマンの方々の意識からすれば、企業不正リスクを考える上でも、「不祥事を起こさないためのリスク管理」だけでなく「不祥事が発生した場合に、これを早期に発見するためのリスク管理」「不祥事の芽を不祥事に発生させないためのリスク管理」というものも社内で少しずつ浸透し始めているのかもしれません。

たしかに「一人のために会社の倒産は酷である」「不祥事企業の製品は、当分購入については様子を見る」といった不祥事企業に対して寛容な回答が多かったことについては、企業不祥事発生企業をリアルに眺めている方が増えてきたことの現れかと思います。しかし、もう少しミクロの視点で眺めてみますと、不祥事は「一人」だけが批判されるべきものかどうかは検討しなければならないと思います。たしかに不祥事発覚によって刑事、民事、そして社内処分の対象となる者は行為者一人のみかもしれません。しかし毎度申し上げますとおり、その一人の不正行為について、①不正を知りつつ何も言わない社員、②不正の疑惑があるにも関わらず、何も調査をしない社員、③最初から不正など当社では起きない、といって懐疑心すら抱かない社員といった組織構成員の意識があろうかと思われます。これらの他の社員の作為・不作為は、それ自体が不祥事とは言えませんが、不祥事を容認する体質をつくりだしている人たち、とは言えるはずです。こういった体質が不祥事の後始末において何ら問題視されなければ、また不正は形を変えて同じ会社で発覚してしまうものと思います。

本日(6月3日)、読売、朝日、産経が報じるところですが、SMBC日興証券の30代の証券マンが、認知症の老人の(他社運用にかかる)投資信託を(当該老人の弟と扮して)解約し、自らが担当する証券会社の口座に入金し、運用を継続していた、というニュースがありました(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。信じられない事実であり、高齢化社会に向けて高齢者の資産運用については機運が高まっているにもかかわらず、このような事故が発生してしまうと眠れる資産の運用に支障を来すことにもつながりかねない事件です。このニュースを子細に検討しますと、当該支店における幹部社員は、この女性が認知症の可能性があり、その取引には慎重な対応が必要だったにもかかわらず、何らの対応もしていなかったということだそうで、利益至上主義のもとでのコンプライアンスという視点からすると、営業担当者のコンプライアンス問題については構造的な不正体質が存在していた、と言えるのではないでしょうか(私は本件については、ぜひ第三者委員会を設置して、こういった不祥事を許容する体質の改善に努めるべきだと考えます)。

もうひとつ、上記アンケート調査結果の中で興味深い結果が出ています。10年前と比較すると、企業は消費者を意識しながら経営をしていることの理解が示されていますが、それでも不祥事は今後増加する、そしてその不祥事は消費者による監視などよりも、自律的な行動によって発見すべきであり、対応すべきだという意見の増加です。消費者の意識としても「不祥事は残念ながら今後も増える、しかし起きた不祥事にどう企業が自律的に対応するのか、そこが大切」というところが顕著となってきたようです。本日、東京ディズニーリゾートの景表法違反疑惑問題が報じられましたが、TDRが自ら不正の端緒をつかみ、自ら徹底的な調査をして、その結果を自ら公表する・・・、こういった姿勢が(たとえ不祥事が発生したとしても)企業の信用を支えるのものと思います。

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