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2013年7月 2日 (火)

コーポレートガバナンスとキャリアとしての監査役ポスト

本日(7月1日)の日経新聞朝刊のサーベイ欄にて、企業統治に関するインターネットアンケートの結果が公表されています。5年前と比べて、日本企業のガバナンス(企業統治)が「よくなった」と回答された方が21%(悪くなったと回答された方が11%)ということだそうで、その理由としては「社外取締役が増えてきた」ことを挙げた方が最も多かったようです。

ただ、グラフを良く読みますと、「よくなった」と回答された方も、「悪くなった」と回答された方も、今後のガバナンス向上のために必要なものは?との問いに対して「独立した取締役の選任」「社外取締役の増員」よりも、圧倒的に「監査役の機能強化」を挙げておられます。少しだけガバナンスが良くなった印象があるのは「社外取締役制度の効果」かもしれないけれども、本格的なガバナンス向上には、やはり監査役制度の向上ということが期待されている、ということなのでしょうか。

しかしその割には、あまりガバナンス問題の典型例である「監査役の乱」が話題になることは少ないように思います。今年も当ブログではベリテ社の事例を何度か取り上げました。ブログ右のコメント欄をご覧の通り、当ブログにお越しになる方の間ではとても注目された案件でしたが、株主総会の結果も報じられず、世間的にも関心を寄せられることはありませんでした(監査役の監査環境の整備、向上を願う者のひとりとして、とても残念ではありますがこれが現実なのでしょう)。

ガバナンス向上に必要なものとして「監査役の機能強化」が期待されていることはアンケートの結果でわかりましたが、私は前から申し上げるとおり、ガバナンス向上のためには、監査役の機能強化よりも監査役の監査環境の整備のほうが重要だと思います。監査環境が整備されなければ、いくら機能を強化しても監査役の権限は「宝の持ち腐れ」「絵に描いた餅」にすぎないからです。(以下、本題に入りますが、本日のエントリーは少しムッとされる方もいらっしゃるかもしれません。あくまでも私の個人的見解でありまして、推測にわたるところも多いことをあらかじめ申し上げます。)

ところで、これは監査環境という問題とは離れますが、実際に監査役が機能している企業とそうではない企業との見分け方のひとつとして、監査役のキャリアに関する企業慣行のようなものが挙げられるものと思います。監査役制度を重視する傾向にある企業では、それなりに監査役さんのキャリアにも影響が出ているのではないか、といったお話です。

すなわち、監査役というポストが、当該企業の執行部においてどの程度重視されているかという点は、常勤監査役(常任監査役)のポストにどのようなキャリアの方が座るか・・・というところである程度わかる、というものではないかと。たとえば取締役執行役員だった方が監査役に就任するのが慣行だとすると、違法性監査を超えて妥当性監査にまで積極的に踏み込む方が多いようで、執行部も監査役の意見を尊重する傾向にあります。また、監査役が「上がり」のポストではなく、その後親会社の取締役や重要子会社の代表者に就任するような慣行のある会社も結構ありますが、こういった会社でも、監査役さんには「大過なく過ごす」ことよりも「積極的に職務をこなす」ことが期待されているようで、執行部のメンバーも監査役の意見には真摯に耳を傾けることが多いように思われます。

いっぽう、重要な取引先から監査役として迎えられる方は、4年の任期も満了せずに、派遣先の人事政策によって辞任に至るケースも多いので、どうも積極的な監査権限の行使は期待できない傾向があるように思います(もちろん推測です、そうでない方もいらっしゃいますので、これは一般論として、ということで)。監査役キャリアに関する会社慣行によって、結局のところ、執行部は監査役に対してどのような意識を持つのか、かなり変わってくるのではないでしょうか。また、これが監査環境の整備状況にも影響を及ぼすのではないかと考えています。

最後になりますが、10年ほど前までの、いわゆる事後監査中心主義による監査役監査が主流の時代の感覚を持った執行部の方々がまだまだ多いのには驚きます。2000年前後から、日本の監査役監査もリスク・アプローチが主流となり、いわゆる事前監査の手法を採り入れた監査となりました。海外の思想による影響からかもしれませんが、リスク管理は後ろ向きの仕事ではなく、経営判断と密接に結びついた前向きの仕事に変わりつつあります。このことにいち早く気づいた会社は監査役さんのキャリアにも配慮するようになってきたように思います。

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コメント

 山口先生の、今までの企業の歴史への鋭い突っ込みに敬意を表します。そう思っていても、なかなか言えない「監査役が上がりのポスト」とか「重要な取引先からの監査役は取引先の人事に影響される。]など、なかなかこうした表では指摘できないことかと思います。

 私としては、更に、監査役が持つ「監査費用」の予算についても、触れてほしいと思います。某監査役による訴訟でも、この点が争点だったわけですし、こうした弁護士費用でなくともいろいろ予算が必要かと思います。

投稿: Kazu | 2013年7月 2日 (火) 18時27分

 ベリテ社の件は、有報を見る限り支配株主とその関係者で2/3を確保しているようですし、臨報では98%超の賛成ですから、結論は決まっていてニュースバリューはなかったのでしょうね。先生、雑誌等の媒体に投稿されてはいかがでしょうか?監査役協会での講演はいかがでしょうか?

投稿: Kazu | 2013年7月 2日 (火) 18時32分

kazuさん、コメントありがとうございます。たしかに監査費用も同様に重要ですね。でも、なかなか監査費用の点について知ることはむずかしいようにも思いますが、なにか良い方法があれば教えてください。監査役の職歴パターンなどは、過去の有価証券報告書を5年分ほど見ればなんとなくわかりそうですね。

投稿: toshi | 2013年7月 3日 (水) 19時24分

日本監査役協会が「役員等の構成の変化などに関するアンケート」を毎年実施しており、その中に「社内監査役の前職」という項目があります。2012年は、(全体に占めるシェアは小さいものの)「前職:社長」という方が上場企業では18人→36人と倍増しております。

個人的には「任期途中で辞任した監査役の辞任理由」に注目しております。
(日本監査役協会のHPで閲覧可能です)

投稿: skydog | 2013年7月 4日 (木) 18時34分

skydogさん、情報どうもありがとうございます。前職社長ですか。重要子会社の社長さんという方が増えているのですね。これは目に見える形で監査役制度を重視する会社が増えているといってもいいのではないでしょうかね。マネジメントをやられた方が監査役になるというのは、とても監査環境の整備という意味では大きいのではないかと。

投稿: toshi | 2013年7月 8日 (月) 00時59分

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