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2013年7月25日 (木)

どの時点で有事と悟ることができたのか-カネボウ美白化粧品問題

7月5日のエントリー「他人事ではないカネボウ化粧品の自主回収事件-二次不祥事のおそろしさ」でも取り上げていましたカネボウ社の「美白化粧品・まだら皮膚(白斑様症状)問題」ですが、公表から20日が経過した時点で、重大な症状が残っているものと判明した使用者の急増が伝えられています(カネボウ社のリリースはこちら)。今回のカネボウ社の件は、過去の不祥事を公表する事例とは異なり、被害拡大を防止するための公表措置(リコール措置)に関する事例なので、このように症状を訴える人が急増しますと、「なぜもっと早く公表しなかったのか」と、二次不祥事への批判が高まることになります。

消費者庁長官も、本日の記者会見で「もっと早く公表すべきだった」と対応の遅れを批判し、遅くとも皮膚科の医師から異常性を指摘された5月の時点で公表していれば被害はもっと少なくて済んだのではないか、と述べています。こういった経過からか、残念ながらカネボウ化粧品の親会社である花王社の株価は6パーセントも下落(東証1部の中で2番目の下落率)したようです(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。

著名な制作コピーライターの方の言葉を借りるならば、資生堂とカネボウの化粧品が全盛だったころ、後発である花王は、販売にあたり「化粧品を売るのではなく、皮膚科学の正しい知識を売るソフィーナ」という新しいコンセプトを全面に出し、いわば美しさと健康をセットにした商法で化粧品販売の業績を伸ばしていったそうです(「発想ノート-クリエイティブの根っこ」高橋宜行著58頁以下)。お肌の健康に良い化粧品を知っている消費者にこそ使ってほしい・・・そのような販売手法で伸びてきたわけですが、その花王社が、子会社となったカネボウ社の白斑様症状問題で株価を下落させる・・・・というのは、なんとも皮肉なものです。

前回のエントリーでも疑問を呈しましたが、なぜもっと早くカネボウ社は今回の「まだら美白」症状について公表し、対応を急がなかったのでしょうか。一番可能性の高い理由は、カネボウ社の社長さんが謝罪会見で述べておられる通り、「苦情を受け付ける現場担当者が、苦情申立者は病気であった、と思い込んでいたのではないか」といったことです。しかしそうであるならば、このたびの対象商品は新製品ではないのですから、これまでもある程度の割合で苦情は発生していたはずです。それまで同様の苦情が日常的に認められなかったのであれば、なぜゆえに窓口担当者が「病気だと思い込んだ」のか、そこまで踏み込む必要があるはずです。そのあたりの情報は今のところマスコミからは報じられていません。

さて、ここからは私の勝手な推測であり、根拠となる証拠もありませんが、こういった「まだら美白問題」(白斑様症状問題)は、親会社である花王社の化粧品販売に関するコンセプトとはあまりにもかけ離れた事故であるがゆえに、子会社であるカネボウとしても親会社に適時に報告することができなかったのではないでしょうか。これまで事件が発覚してから20日が経過していますが、このまだら美白問題を、親会社の花王がいつ知ったのか・・・という点についての事実はあまり報じられていないようです。今回の公表に至るまで、親会社が一切知らなかった・・・ということであれば、これはカネボウ社のほうで親会社に知られたくなかった、という思いが公表を遅らせた要因である可能性も残ります。謝罪会見をされたカネボウ社の社長さんは花王の執行役員の方ですが、この社長さんの耳にはいつ苦情が入っていたのか、具体的にはその時期によって親会社の対応まで批判されるかどうか、分かれるのではないでしょうか。

3年前のメルシャンの架空循環取引事件でも、親会社であるキリンからやってきた社長さんにだけは知られたくない、プロバーの社員・役員だけで相談してなんとか乗り切りたい、といった気持ちがあったがゆえに、長期間にわたりメルシャンが架空循環取引を継続させてしまったと、メルシャンの第三者委員会は報告していました。

カネボウの窓口担当者も、そして報告を受けた上司も、そして経営層も、「皮膚を科学する」という花王社のコンセプトからして、皮膚に症状が出る化粧品を販売した、という事実は、到底認めることができないのであり、だからこそ有事意識が希薄のまま2年が経過してしまったというのが真相なのではないかと。カネボウ社としては、このような大事件になってしまった以上は、全社挙げて自浄能力を発揮すること(お客様の被害回復と製品回収)が最優先事項ですが、この事件を外からみる者からすれば、どうして2年間も平時の感覚が維持されたのか、どこの会社においても、同様の問題が発生すれば(組織として)有事と認めることに躊躇するのではないか・・・という点を真摯に検討すべきではないでしょうか。

7月 25, 2013 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

いつも拝読させていただいております。
この件では今朝の日経新聞の記事が興味深かったです。
既にご覧になっているかもしれませんが念のため。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO57727700V20C13A7EA1001/?dg=1

投稿: 企業の内部監査人 | 2013年7月25日 (木) 09時11分

内部監査人さん、ありがとうございます。日経の記事、拝見しました。なるほど、なかなか興味深い内容ですね。テキストマイニングについては、また続編が書けそうな気がします。

投稿: toshi | 2013年7月25日 (木) 12時00分

業界に詳しくないので、医薬部外品について調べてみました。

医薬部外品の美白化粧品の開発は次のように行われます。
(1)シミやしわができるメカニズムの研究(基礎研究)
(2)美白有効成分の探索(有効性や安全性)
(3)美白有効成分と添加物を加えての製剤化技術の開発
(4)動物試験やヒト臨床試験により、製品での安全性や安定性、有効性の確認
(5)医薬部外品としての申請業務


このように医薬部外品であっても医薬品と同様に臨床試験により安全性を確認することになっていることから、担当者としては製品は安全なものであることを前提に、問題があればそれは利用者の体質によるものとの判断をしたのではないでしょうか。
現在、6800人以上の多数の人が被害を訴えているわけですから、なぜ臨床試験の段階で安全性についての問題が発見されなかったのかという点も課題になるのではないでしょうか。

投稿: 迷える会計士 | 2013年7月25日 (木) 22時42分

「さらに首をひねるのは、問題を公表した後に200人を超す社員が同様の症状を訴え出たこと。それまでは言い出しにくい雰囲気でもあったのだろうか」
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Te201307260119.html

公表以前に気付くチャンスが、社内にあったということですね。

投稿: 迷える会計士 | 2013年7月27日 (土) 10時07分

迷える会計士さん、いつもありがとうございます。たしかに多くの社員が症状を訴えていたというのは衝撃の事実です。この事実についてはこれからもう少し掘り下げられるような気がします。

投稿: toshi | 2013年7月28日 (日) 10時41分

肌に合わない場合もあるので、個人的な症状だと思った人も多かったのでは?また、美白化粧品なので、白くなることは想定外の作用ではありません(効果がまばらに出てしまったとも見える)。多数の人に同じ症状が出ていることを知って初めて異常を認識するということもあるでしょう。

投稿: JFK | 2013年8月28日 (水) 22時26分

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