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2013年7月 1日 (月)

インサイダ-取引規制における重要事実の「公表」の内容について

5月28日に、エルピーダメモリの増資などを巡るインサイダー取引に関する金融商品取引法違反の事件で、東京地裁は、経済産業省元審議官の方に有罪との判決を下したそうです(なお、判決直後に被告人側は控訴されたとのこと)。

この事件では、被告人側は、2009年4~5月にエルピーダ社など2社の株を購入する前に、2社の増資や合併に関する複数の報道があったり、会社側が「増資を検討したい」と発表したりしたことから、「重要事実は既に公表されている」と主張していたのですが、裁判所はこの主張を採用しなかったようで、「検討する」という程度では、いまだ会社側が重要事実を公表したことにはならず、会社関係者と一般投資家との間における情報の格差が生じていた、として被告人側の主張を排斥したそうです。

どの程度の事実が公表されれば「公表」がなされたといえるかは、インサイダー取引規制の趣旨に照らして解釈されるべきですから、被告人側の主張を採用しなかった地裁の判断は正当だと思います。しかし、実際のところ金商法166条4項における「公表」の内容については、いったい重要事実がどの程度まで明らかにされていれば「公表」にあたるのかは明記されていません。したがって、どの程度の事実が開示されれば金商法166条の「公表」がなされた、といえるかは法律上の論点になりうるものと考えます。ちなみに金商法166条の関連条文は以下のとおりです。

第166条 次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第5号から第8号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後1年以内のものについても、同様とする。

4 第1項、第2項第1号、第3号、第5号及び第7号並びに前項の公表がされたとは、上場会社等に係る第1項に規定する業務等に関する重要事実、上場会社等の業務執行を決定する機関の決定、上場会社等の売上高等若しくは第2項第1号トに規定する配当、上場会社等の属する企業集団の売上高等、上場会社等の子会社の業務執行を決定する機関の決定又は上場会社等の子会社の売上高等について、当該上場会社等又は当該上場会社等の子会社(子会社については、当該子会社の第1項に規定する業務等に関する重要事実、当該子会社の業務執行を決定する機関の決定又は当該子会社の売上高等に限る。以下この項において同じ。)により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該上場会社等若しくは当該上場会社等の子会社が提出した第25条第1項に規定する書類(同項第11号に掲げる書類を除く。)にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。

たとえばA社とB社が合併する、という重要(と思われる)事実についても、「A社とB社が近々合併することを決定した」との事実を開示するだけでは足りず、合併の条件等も具体的に明らかにされることが必要とされています。単に合併の事実だけが開示されたとしても、一般投資家がどのような判断を下すべきかは明らかにならないからです。とりわけ会社にとって重要と思われる事実であっても、インサイダー規制の上では「軽微基準」の対象とされる場合があります。売上高基準などが軽微基準とされている場合には、合併事実によって当社の売上高にどれだけの影響が出るのか、そこまでの情報が明らかになる必要があるのではないか、といった問題も生じます(このあたりは争いのあるところです)。

実際のところ、重要事実の「公表」がなされたと認められるためには、一般投資家の投資判断に影響を及ぼすべき事実の内容がすべて具体的に明らかにされ、一般投資家において会社関係者等と対等な立場で投資判断をおこなうことができる状態にすることが必要だと考える立場がある一方で、一般投資家において会社関係者と対等な立場で投資判断を行うことができるまでの情報開示は必要とはいえない、とする立場もあります。本事件の例ではそれほど異論が出ないかもしれませんが、「公表」の内容について真剣に考えますと、取引関係者の不公平感というものをどう考えるのか、市場の秩序維持という点からみればどちらが妥当か、といったあたりの主観的な考え方によって見解が分かれるものと思いますし、かなり難しい問題を含んでいるように感じます。

7月 1, 2013 インサイダー規制と内部統制の構築 |

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