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2013年7月22日 (月)

経理担当者の素直な「気づき」と会計倫理の重要性

池井戸作品といえば「半沢直樹」が絶好調のようですが、私はNHK土曜ドラマ「七つの会議」のほうを夢中で視ています。東京建電とトーメイテックの共謀による性能偽装の内容が次第に明らかになってきましたが、不正の内部通報を受けた良識派の社長さんは関係者に隠ぺいを指示してしまいます。やはり親会社から副社長を役員に迎えている企業ですから、社長としてもなんとかこのまま隠ぺいしたいという気持ちが強く働くわけで、かなりリアルです(見逃した方はNHKオンデマンドでも210円でご覧になれます)。

ところで、性能偽装事件ではなく、会計不正事件に関する話題ですが、このたび、会計学の先生方が中心となって「会計不正の論点と事例(仮題)」に関する書籍を出版されます。私も執筆者のひとりとして参加させていただいてます(会計学会、会計実務家の皆様が中心なので、法律実務家は私一人のようです)。その中で、私が担当しますのは「経理担当者と会計倫理」というパートでして、粗原稿はすでに書き上げました(ちなみに「七つの会議」では、不正を探ろうと躍起になっていた経理担当者があっという間に左遷されてしまいましたね)。

拙著「法の世界からみた会計監査」を出版して以来、何名かの経理担当者の方(もちろん実名です)からメールやお手紙、そして現在進行形の会計不正疑惑に関する内部告発をいただきました。すでにこちらで対応したものもありますが、どれも経理担当者の倫理観に由来する苦悩が滲み出ていた点では共通していました。会計不正事件に最初から取り込まれている経理担当者も苦悩するでしょうけれど、社内の会計不正疑惑に気付いたがゆえに苦悩する担当者の方も多いことがよくわかりました。

経理担当者の方々は、監査人とは異なり、ビジネスモデル(儲けのからくり)を肌身で理解しておられるので「おかしなこと、不自然なこと」に誰よりも早く気付いてしまうのですね。当社のビジネスモデルからすれば、この商品でこんなに利益が出るわけがない、商品もしくは商品の売り方におかしなところがあるに違いない、と本当に素直にビジネスの異常性に気付くことになります。

これを経理部長と共有すべく相談を持ちかけても、経理部長はテキトーに話を聴いて「じゃあ、商品部長(or 営業部長)のほうから聴いてみて」で終わり。だから経理担当取締役も「他社でも同じビジネスをしてるんじゃないの」ということで本気にはならない。次に会計監査人のところへ行き、(上司に無断で)会社の異常な兆候の徹底解明を求めることになります。会計監査人はとりあえず説明に納得したふりをして、監査法人としての対応を検討するわけですが、これが通り一遍の質問書を会社に送りつけてくるだけ。つまりこの監査法人の質問書への回答を経理部長の指示で商品部長と一緒に経理担当者が考える、というもので、調査権限には限界があるために、そのまま有効な調査も行われずに一件落着。

その後M&Aによる相手先のデューデリで「異常性」が明らかになったり、同じ商品を取り扱う同業他社の厳格な調査によって商品のいかがわしさが露呈されることになるわけですが、そのような状況に至ってはじめて経理部長も担当役員も、そして会計監査人も慌て出すということになります。まさに組織が有事であることの認識を共有することが非常に困難であることを示す典型的な例かと思います。

内部通報の外部窓口業務を行う経験から、社外の第三者からみれば「どうみても非常識」と思われることが、社内の人たちからすると非常識には思えない、だから有事ではない、という感覚に陥ってしまうことはよく認識しているところです。また、騒いだところで、本当に何も出てこなければ「人騒がせな奴」というレッテルを貼られてしまうだけに終わる恐怖があります。しかしこの恐怖感を払いのけるのが経理担当者の会計倫理ではないでしょうか。また、不正リスク対応基準が施行された今日、この経理担当者の素直な気付きに正面から対応すべきなのが会計監査人としての職業的懐疑心ではないでしょうか。

経理担当者の方々から寄せられたメールや手紙を拝見してみると、たとえ手間暇をかけずとも、自らの責任回避のために「通り一遍の質問書を送付すること」と、職業的懐疑心を発揮して不正を調査する手法とでは、監査(調査)の手法として、かなりの違いがあることも、よくわかりました。経理担当者の方々は、本当に会社に忠実な方が多いわけですが、これを受け止める監査法人がしっかりしていなければ、さらに外部に対する告発へと向かう可能性も出てくるように思います。オリンパス損失飛ばし・解消スキーム事件から本当に学ばなければならないのは、こういった点ではないのでしょうか。

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コメント

経理担当者が真っ先に気付くというのは、おっしゃる通りだと思います。
ただ、それ以降の展開に関する先生のモデルで残念なのが、内部監査や内部通報ラインが出てこないこと。真っ当な会社ならば、早い段階でどちらかに相談があるかと。
もっとも、ちゃんとした内部監査や内部通報ラインがあるような風土の会社でしたら、経理部長や営業部長の反応も全然違うのかもしれません。
となると、考えるべきは、いい加減な会社の外部監査人ということになりますが、そういう会社でしたら、普段の会計監査段階で出鱈目さはもう外部監査人にはわかっているとか?
(ちなみに私は真っ当な?会社の内部監査人の立場です)

投稿: GEM | 2013年7月22日 (月) 15時22分

GEMさん、ご意見ありがとうございます。ブログエントリーでは記載しておりませんが、本の執筆担当箇所ではその点はしっかり記載しております。とくに内部通報・内部告発の効用は実例をもとに書いておりますので、また出版された暁にはぜひお買い求めいただければ、と。

投稿: toshi | 2013年7月24日 (水) 21時03分

大変失礼いたしました。ご出版を心待ちにしております。

投稿: GEM | 2013年7月25日 (木) 08時18分

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