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2013年7月 9日 (火)

「会計基準と法」-なぜ法は会計ルールのすべてを決めないのか?

9784502070808_240日本の企業会計法の第一人者といえば、やはり弥永真生氏の顔がすぐに思い浮かぶわけですが、その弥永先生の渾身の一冊が発売されました。なんと総ページ数1000ページの大作です。

会計基準と法 弥永真生著 中央経済社 10,000円税別

ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、弥永先生は東京大学在学中に司法試験と公認会計士試験のいずれも合格され、まさに「人間コンピュータYANAGAちゃん」の異名をほしいままにされている大先生です(すいません、この異名は私が勝手に付けさせていただいたものです)。昨年は大阪弁護士会のシンポでたいへんお世話になりました<m(__)m>。

弥永先生は、21世紀はじめまでは毎年1冊のペースで新刊書を出版されていたのですが、ここ10年ほどは(会社法の教科書、計算規則のコンメンタール以外は)一切ご出版はされずに、この新刊書のご執筆に注力されたそうです。つまり本書は、弥永企業会計法の10年の研究活動がすべて詰まったものです。

なにしろ帯の副題がすごい。「なぜ法は会計ルールのすべてを決めないのか?」まさに私の関心事とピッタリ一致します。第1部は日本における会計ルールの沿革と現状。なんといってもこの第1部の最大の読みどころは「企業会計基準法構想」でしょう。会計学者の方々はご承知かと思いますが、日本でも企業会計基準法を制定する動きがあったのですね。企業会計制度対策調査会が発足し、企業会計基準法要綱案、同法案まで作成されながら、最終的に会計ルールが法として定められなかったところまでの歴史をGHQ文書、国立公文書館所蔵文書を資料として解説されています。つまり会計ルールはソフトローというよりもハードローとして法律化する動きがあったということです。この話がなぜ終焉を迎えたのかは、お読みになればわかります。

※・・・ちなみに戦後の縦割り行政の中で会計士制度と税理士制度がバラバラに出来上がってしまった歴史というものは、「対談 わが国会計監査制度を牽引する会計人魂」(川北博・八田進二対談 同文館出版)の中で川北先生が解説されています。しかし「企業会計基準法制定の動き」については触れられていません。

第2部は、本書で最もページ数が割かれているところですが、海外諸国における会計基準制定の歴史と現状の会計基準の運用です。比較法的研究、といってしまうと、なんだかとても退屈なもののように感じるのですが、私はこの本が今後最も参考にされる(引用対象となる)のは、この第2部ではないかと確信しています。前にも当ブログでご紹介したように、江頭先生は、関西のご講演において、次の会社法改正のテーマは「おそらく会社法のIFRS対応ではないか」と解説されました。国際会計基準が我が国の上場会社に強制適用される場合、ルールとしての正当性をどのように説明するのか、日本の法人に強制力を持つルールを制定する権限は唯一、国会だけですが、なにゆえ海外のプライベートセクターが制定するルールが日本で強制力を持ちうるのか、そのあたりは法律家と会計学者との間で検討する機会が必要です。実はEU諸国においても、IFRSを適用するにあたっては同じような悩みを各国が持っていたのですが、各国がどのように、この難問を克服していったのか、そのあたりを知る上では貴重な研究資料となります。IFRSと商事法、IFRSと憲法、行政法との関係を整理するうえでは、この第2部における諸外国の整理はたいへん参考になるはずです。

そして第3部は私も当ブログで様々な角度から検討しております法と会計との関係についての弥永説の大系です。私自身、すべて弥永説に賛同するわけではありませんが、会社法、金商法と会計基準との関係、公正妥当な会計慣行の考え方、罪刑法定主義と会計ルールなどについて、関連する論点がほぼ網羅されており、法と会計の狭間に横たわる諸問題を検討するにあたって、たいへん参考になるところです。まさに「法はなぜ会計ルールのすべてを決めないのか」その論理的な道筋が、ここに現れています。有価証券報告書の虚偽記載、違法配当など、不適切な会計処理が刑事上も民事上も、そして課徴金処分等の行政上も問題となる場面は今後ますます増えてくるでしょう。会計監査人が矢面に立つ場面も当然増えるはずです。その際に、会計ルールは法と同等に扱われるべきなのかどうか、さまざまな角度から検証が必要になりますが、本書第3部の弥永先生の意見が現実の解決において有益なものとなるでしょう。

しかし法律を制定する、しないという経緯というのは、なんと人間臭いものだろうと、本書(企業会計基準法制定に向けての経緯)を読むと今更ながら感じます。また、時々招かれて講演をさせていただく産業経理協会というところも、スゴイ歴史があることを知りました。弥永先生ご自身、冒頭で「採算性の乏しい書籍」と謙遜されていますが、IFRSの強制適用場面における権力の正当性根拠のお話はたいへん重要だと思います。これは弥永先生だけでなく、会社法学者の先生方にとっても難問だと推測します。私もすべてを読むことは困難ですが、今後、企業会計法関連の研究や実務に携わるにあたり、常に参考にさせていただきます。

7月 9, 2013 本のご紹介 |

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