降圧剤不正事件とオリンパス事件の共通点-不正はいかにして発覚するか
(7月16日 朝 追記あります)
今年2月ころから、少しずつ疑惑が浮上していた降圧剤(ノバルティスファーマ社が販売)臨床研究論文疑惑の件ですが、先週、京都府立医大が元教授の論文作成にあたり(誰かによる)データ操作の事実があったことを認めました(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。そのため、一気に世間を揺るがしかねない不祥事としてクローズアップされています。データ解析に携わったノ社の元社員は、いまのところ調査に一切応じないとのことで、今後はますます大きな問題に発展していきそうな予感がします。
さて、この降圧剤不正事件、事件の全体像が未だ把握できていないため、あまり詳しく書くことは控えさせていただきますが(また、それだけの能力もありませんが)、どうして今回のように大きな問題にまで発展してきたのか、そもそもなぜ臨床研究に不正があるということが発覚したのか、というところを考えていきますと、オリンパス損失飛ばし・解消スキーム事件とよく似た構造であることがわかります(以下では、なるべく正確に客観的な情報を整理したつもりですが、事実関係に誤りがありましたらご指摘いただけますと幸いです)。
疑惑も存在しない時点で、大きな組織に不正があることを叫ぶことは、とても勇気のいることですが、単に勇気だけでは誰も取り上げてくれないのが現実です。たとえばオリンパス事件では、当時の社長であったウッドフォード氏による内部告発がありました。そして降圧剤事件では、今から約1年ほど前に、別の国立大学の教授から、府立医大元教授の臨床研究論文への疑惑声明がありました。最近「統計学は最強の学問である」と言われていますが、この疑惑も統計分析のための基礎データに関する疑惑です。
次に、オリンパス事件は、ウッドフォード氏ような経営トップが内部告発をしても日本のマスコミは静観していたのですが、海外のマスコミが大きく取り上げるようになり、これに追随して日本のマスコミも動き出しました。一方、今回の降圧剤不正事件でも、疑惑声明についてはオランダの医学雑誌「ランセット」が取り上げ、これに対して疑惑を向けられたほうが反対意見を表明しました。この反対意見に対しては、さらに疑惑を向けた医師からの更なる反論が加えられたのですが、その後は何ら反応をしませんでした。このような一連の経緯をみて、今年2月に毎日新聞がスクープし、その後フライデーが報じたことで降圧剤不正に絡む臨床研究疑惑が、日本でもメジャーな話題になり
そして一度は「問題なし」としていたところが「社内で調査したところ、おかしな事実が認められた」と公表するのはどちらも同じです。ここで若干見落としそうになるのは、不正疑惑が内外で明らかになった時点における「内部告発者」の存在です。オリンパス事件では、マスコミが騒ぎ出した時点において、週刊朝日に損失飛ばしを告発した人が存在しました。その人が誰かは外部からは不明ですが、社内の人間であることは確かだと思います。また、今回の降圧剤不正事件でも、京都府立医大の調査の時点において、やはり学校側の対応に疑問を抱いた誰かが存在したのではないでしょうか(これはあくまでも私の個人的な推測ですが)。組織として公表せざるをえないような状況に至るのは、実はこういった社内正義派のような方々の存在が大きいのではないかと。
降圧剤不正事件については、現在もノ社の元社員の供述が得られていない段階なので元教授の論文は故意によるねつ造であったといった不正が認められたわけではありません。しかし、こうやって比較してみますと、大きな組織の不正が世に発覚するというケースは、かなりレアな事情が重なることが必須の条件になるということが言えそうです。
朝日新聞の記者によるスクープが日本の検察の闇を暴く、という厚労省郵便不正事件がありましたが、あの事件も、新聞記者と内部の女性検察官という、いわば「力を持った者による告発」でした。一介の社員の勇気ある内部告発が、大きな組織を揺るがすようなコンプライアンス事件を惹起させるということは、ドラマの上では起きることもあるかもしれませんが、現実の世界では、なかなかむずかしい、ということではないでしょうか。
(追記)今朝の朝日新聞一面で「東電用地買収に裏金疑惑」という、記事が出ています。これは内部告発によるものでしょうね。この用地買収自体のコンプライアンス問題よりも、今後の原発再稼働に向けての姿勢として東電がどう対応するのかが注目されます。果たしてこういった告発モノが他紙も追随するような大事件に発展するのかどうか、今後見守りたいと思います。
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