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2013年7月 8日 (月)

オリンパス事件刑事判決にみる「不祥事発生企業の自浄能力」の重み

先週7月3日、東京地裁第三民事部にて、被告オリンパス(法人)及び元役員ら(個人)に対する虚偽有価証券報告書提出罪被告事件に関する有罪判決が下されました。法人たるオリンパスには過去最高額の罰金7億が課せされましたが、元役員ら3名には執行猶予付の判決が言い渡されました。

本事件については未だ確定しておりませんが、朝日「法と経済のジャーナル」にて判決要旨がアップされましたので、判決内容をある程度知ることができました。元役員らに執行猶予判決が出たことについては賛否両論あるとは思いますが、私はこの東京地裁判決を高く評価したいと思います。なぜなら、刑事判決というペナルティの世界において、オリンパスのような大規模公開会社の社会的責任が力説され、企業および役員の不祥事発生時における自浄能力の発揮を司法裁判所も支援する姿が明確に示されているからです。

特徴的なのは、オリンパスの弁護人、オリンパス元役員の弁護人いずれの主張も、この裁判所は排斥し、独自の視点から情状酌量している点です。法人であるオリンパスの弁護人は、今回の事件はごく一部の役員による個人的な犯行であったと主張しましたが、裁判所はこれを否定し、従来より幹部職員や外部コンサルタントを巻き込んだ組織的犯行だったと認定しています。取締役会の形骸化、監査役会の機能不全をはじめ、誰かの責任だけを追及して終わるようなものではなく、組織自体が非難されるべき企業風土であったことに強い批判が向けられています。つまり法人としての犯行態様を(やむをえなかったもの、として)斟酌して刑が減軽されているわけではありません。

その代り、犯行発覚後の法人としてのオリンパスの動きは最大限に評価されています。第三者委員会を設置して事実解明に積極的に対応し、自ら元役員に対して訴訟提起をしています。また外部から社外取締役を招へいしてガバナンス体制の一掃を図りました。当該裁判所は、こういった一連の行動を斟酌したうえで7億円という罰金額を決定しています(求刑10億円の罰金)。企業犯罪に適用されるアメリカの連邦量刑ガイドラインではありませんが、不正発覚後にどれだけ自浄能力を発揮したかによって、我が国の刑事処分の量刑にも影響が及ぶことが明確にされた点は高く評価できると思います。

次に、オリンパス元役員らの弁護人は、会社が倒産することを防止し、社員の生活を守るためにやむをえない対応であったと主張しましたが、これも裁判所は「大規模公開会社の役員として、社会的責任を果たす立場にあるのだから到底許容できる理由ではない」と一蹴しています。つまり犯行態様の視点からの刑の減軽はありえない、粉飾を最初に考え出した者が他にいたとしても、被告人らは実刑に相当するとまで述べられています。

しかし、ここでも裁判所は経営者らの自浄能力の発揮を評価しています。損失飛ばしや解消スキームを継続している際に不正を公表しようと模索していたこと、不正発覚後は有価証券報告書の訂正を速やかに行ったこと、第三者委員会の事実解明に積極的に協力していたこと、公判廷において謝罪をしたこと等、元役員らが法人としての自浄能力の発揮に寄与したことで、裁判所が「実刑とすることに躊躇をおぼえる」こととなったようです(ただし、海外メディアがウッドフォードの告発を取り上げていたときに、元役員らが本当に自浄能力を発揮することに寄与していたかどうかは、若干懐疑的にならざるをえないように思いますが.....)←7月3日付けの法と経済のジャーナルにおける別記事に、Y被告人とK被告人の公判における証言の食い違いが報じられていますが、まさに懐疑的であることを裏付けています。

行政処分である課徴金処分や証券取引所における上場廃止処分の判断であればわかりますが、法人や役員の不祥事発覚後の対応が、事後規制(制裁)としての意味を持つ刑事処分にどれほどの影響があるのか、正直私にはわからないところがありました。しかし今回の東京地裁の判決では、堂々とこの不祥事発生後の自浄能力の発揮を刑事処分の量刑に斟酌しています。刑事処分に自浄能力の発揮が反映されないとなりますと、「どんなにいい子ぶっても、やったことへのペナルティは同じ」と会社が考えることとなり、大規模公開会社における多くのステークホルダーの利益が回復されないままとなってしまいます。そのあたりを裁判所も十分に考慮したのかもしれません。いずれにせよ、今回のオリンパス事件の刑事判決が、不祥事発生企業における自浄能力発揮のための「強いインセンティブ」としての意義を持つことになることを期待いたします。

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