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2013年7月18日 (木)

社外取締役は本当に「会社の一大事」に機能するのか?

直近のコーポレートガバナンス報告書を調査した結果、上場会社のうち、社外取締役が存在する会社が60%をを超えたそうですね(日経新聞調べ)。昨年と比較すると(54%)大幅に伸びているようです(ただ、増えた社外取締役さんが「独立社外取締役」かどうかは、また調査をしてみないとわかりませんが)。

さて、日経新聞「経済教室」では、二日間にわたり「企業統治を考える(上・下)」とのテーマで大杉謙一中央大学教授、砂川(いさがわ)伸幸神戸大学教授の論稿が掲載されていました。どちらの先生も普段からお世話になっている関係で、ガバナンスに対する基本的なお考えは存じ上げているつもりですが、このたびの川崎重工業の社長解任劇に法律学、経営学それぞれの立場からどうアプローチされるのか、とても興味深く読ませていただきました。

大杉先生はコーポレートガバナンスの概念を(1992年の英キャドバリ報告書の定義を引用され)統制と指揮に分けて考察され、一方の砂川先生は「部分最適」と「全体最適」に分けて考察されておられるのは、いかにも法律学と経営学の違いを感じるところでした。それぞれ「統制と指揮」、「部分最適と全体最適」の概念を用いて川崎重工業の取締役会を考察しておられますが、結構おっしゃっておられるところは近いのではないかと推察しています。

企業統治の視点から関心がありますのは「もし川崎重工業に社外取締役が存在していたら解任劇は生じたのだろうか、仮に解任劇が生じたとしても、その後の経過は変わっていただろうか」という点です。私個人の意見としては、残念ながら社外取締役が存在していたとしても、ほとんど結果は変わらなかっただろう、といったところです。当ブログで過去に何度か「社長解任劇」は取り上げましたが、岩手銀行さんのときも、そして今年1月の広島電鉄さんのときも、社外取締役さん方は、決議を全員で棄権したり、役員会に欠席されたり、といった具合です。

会社の有力な取引先からお見えになっている社外取締役さんについては、そもそも会社が迷惑をかけないようにしようとされますし(たとえば臨時役員会への欠席を勧めるとか)、独立社外取締役さんといっても、社長と個人的な関係のある方であれば、自ら議決権行使を棄権されるでしょうし、また純粋な独立社外取締役さんの場合には、そもそも情報は耳に入らない、というのが現実ではないでしょうか。海外の機関投資家の皆様方からすれば、日本の上場会社に「とりあえず」社外取締役さんが導入されることを希望されるわけですが、では実際に機能するかどうかといえば、平時にはそれなりに機能するとは思いますが、有事には機能することはあまり期待できない、というのが現状かと。

私はクライシスマネジメントと同様、もし有事に社外取締役が機能するとすれば、それは平時から社内取締役さん方と緊張関係をもって経営に関与しているかどうか、ということがすべてだと思います。つまり平時にできないことは有事には絶対にできない、平時にできることの5分の1程度なら、うまくいけば有事にもできる、という考えです。社内資源の有効配分にせよ、同業他社との競争政策にせよ、会社理念と新規開拓との整合性にせよ、社内の人間と社外の人間とでは必ず「おや?」と思うくらい、経営判断の過程に違和感を覚えることがあるはずです。そこで普段から、社外取締役がどのようなスタンスで社内の業務執行役員の方々と向き合うのか。そこに緊張関係が生まれ、モノを言えるモニタリング環境が形成されていくと思います。

社外取締役は、イザというとき腹をくくったらよい、と言われますが、そんな甘いものでしょうか。私は平時にできないことは、いくら腹をくくっても有事にはできないと思います。有事にどこから情報を入手するのか、平時から緊張関係が築けなければ嗅覚さえ生まれません。なにか知らないうちに解任劇が終わっていた・・・、そんな社外取締役だけにはなりたくないですし、株主に説明責任さえ尽くせない独立役員では悲しすぎると考えています。

7月 18, 2013 社外取締役に期待するものは何か |

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コメント

 社外役員制度って、有事の時に機能するために作られているものなのでしょうか? 平時において、社外取締役や社外監査役に聞かせられないような隠し事経営をしないでねという制度であり、その結果、有事が発生しずらいという機能が期待されているように思います。
 そのため、有事になったら、欠席は問題でしょうけど、詳細の情報を持っていないので、議決権行使せずというのも1つの誠意(責任の遂行)ではないかと思います。また、臨時取締役会のような形で、3日後に開催します!みたいに言われたら、他の用事をキャンセルしても参加できるかどうかは何とも言えないので、欠席も問題とはいえ、やむを得ない。すなわち社外役員制度は、平時の制度だと位置づけたほうがすっきりするように思います。

投稿: ひろ | 2013年7月19日 (金) 09時22分

ひろさん、ご意見どうもありがとうございます。
このあたりはまさに社外取締役に期待されるもの・・・というところの意見の相違が如実に現れるところではないでしょうか。日本取締役協会、CGN(コーポレートガバナンスネットワーク)法律学者など、それぞれ何を社外取締役に期待するか、というところで期待される行動にも違いが出てきます。ただ、こういったお話が、以前とは異なり、関心をもっていただける方が増えたことは歓迎しています。
なお、注意すべきは会社に黄色信号がともった場合、社外取締役にも善管注意義務義務の履行について「不作為」が法的に問題視される場合もある、ということでしょうね。

投稿: toshi | 2013年7月22日 (月) 17時47分

なるほど、不作為が法的に問題視ですね。たとえば、川重のような問題が起きた時に社外取締役がいたら、「ちょっと待て。社長解任と言うけれど、その原因が三井造船との経営統合の効果が期待できないのに強引に進めているからだというけれど、三井造船との経営統合の効果について、丁々発止の議論が取締役会でされたことがあったんですか。私が出席している限りはないじゃないですか。社長解任の前に、それについてきちんと結論を出してからでないと、私は賛成も反対もしようがない。取締役会での議論が尽くされていないから、今の段階での決議は無効だと思う。取締役の職務を監督する立場としては無視できない状況だ」とか言って、社内力学の結果なのか経営統合の是非の話だか分からない社長解任にストップを掛けなければいけないのですね。これを重厚長大産業の20人以上の重役が居並ぶ中でやるのは度胸がいりますね。もちろん、その度胸を期待して、株主は選任しているという建前なんでしょう。
で、こういうときに思うんですが、社外取締役は自分の取るべき行動について相談する弁護士とか持っておかないと危険だと思ったりします。会社が依頼している弁護士以外の弁護士さんを,です。普通は、こういうことはないから、そんな用意はしていないんでしょうけどね。

投稿: ひろ | 2013年7月24日 (水) 09時02分

ご存じかも知れませんが、アメリカのデル・コンピュータのMBOに対し、ISSがマイケル・デル氏のMBO案に賛成したにもかかわらず、独立委員会が価格が低いと反論し、かなり揉めています。
これには、アイカーンが対抗TOBを提案していて、大株主もデル氏の価格に反対しています。

仮に日本企業で当てはめるとすれば、日本電産の永守さんクラスのカリスマCEOが主導するMBOに反対しているようなものでしょう。

独立委員会は風景を見て判断しているのか、信念で判断しているのかまでわかりませんが、こうやって納得感が引き出されて行くのだ、と思いました。

投稿: katsu | 2013年8月 2日 (金) 09時12分

katsuさん、いつもご意見ありがとうございます。社外取締役制度の在り方を考えるうえで、いつも米国で進行している事例については配慮しているつもりですが、やはりそのまま日本で反映させることがむずかしいなぁと感じるところがあります。今朝の日経新聞では好意的に受け止められていましたが、米国のような機能を発揮するまではまだまだ、といったところですね。

投稿: toshi | 2013年8月 3日 (土) 13時39分

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