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2013年8月29日 (木)

「半沢直樹」から考える金融機関の内部統制(ご参考まで)

本日のエントリーは私が思いついたものではなく、ある方(某メガバンク出身)が某所でつぶやいておられたことを元に書かせていただいていることをご了解ください。すいません、ある方にはご了解をいただいておりませんので、「又聞き」ということでして、もちろん文責は私自身にあります。なお、先日の「破綻-バイオ企業・林原の真実」についても、数名の現役バンカーの方から有益なご意見をメールで頂戴しておりますが、こちらはちょっと公開するのは限界がありそうなので、また私の言葉に言い換えて別の機会にでもご紹介させていただきます。

いや、さすが名前が変わった(?)某メガバンクご出身の方だけあって、高視聴率「半沢直樹」を視ていても、私のようにドラマの展開にハラハラドキドキしている素人とは視方が違います(笑)。まずは半沢直樹を産業中央銀行(半沢が勤務する東京中央銀行は産業中央銀行と東京第一銀行が合併)に入行させてしまったことは旧産業中央銀行の人事部のミスである、とのご意見。

行内で不正を犯す人間の理由の第一位は「自分の人事考課に納得がいかない」というものだそうで、とりわけ銀行では「個人的な恨み」というものは内部統制上、極力回避しなければならないそうです。ドラマをご覧の方ならおわかりのとおり、半沢の父親は町工場を経営していて、融資を引き揚げられたことで父親が自殺をしてしまいます。しかしそうなりますと、その息子は入行させるべきではない、ということであり、父親が産業中央銀行と取引があったとなると、通常の銀行の事実調査からすると、容易にそのようなことはわかるそうです。なるほど。。。

次に、半沢直樹のドラマでは、合併前の産業中央銀行と東京第一銀行との間における派閥争いがとても派手に描かれているのですが、「あれは現実です」とのこと。支店長が産業中央なら副支店長は東京第一、その下の花形融資課長が産業中央なら、個人メインの取引課長は東京第一と、見事にたすき掛けが行われるのが通常であり、人事部はこのパズルを得意としなければやっていけないようです。内部告発を受領したことの行内報告書が第6話に出てきましたが、あの報告書にはたしか副支店長の印鑑がなく、課長と支店長の印鑑だけが押されていましたが、その方曰く「母体行が異なる副支店長には内密にしておきたかったのでは、と感じた」そうです。なるほど・・・さすが、そんなところまでリアルに描かれているとは(^^;;・・・・。派閥争いがないことが内部統制的には良いことなのですが、現実には派閥争いがあることが強烈なけん制機能となっているのが事実であり、「笑えない内部統制だったりする」そうです。

私なんかは、金融庁検査のような一大イベントがあれば、もう少し行内で一致団結するようになって派閥争いなど次第に解消されてしまうのではないか・・・などと考えるわけですが、まったく甘いのでしょうね。そういえば、これは別のある経営者の方からお聴きしたことですが、組織というものは、組織の信用を毀損するような大きな不祥事を隠すためには、誰かに無条件で責任をとらせる(辞めてもらう)といった小さな犠牲もやむをえない、ということで、組織の責任追及まで行く前に個人の責任追及で終わらせる、その際に派閥争いはとても役に立つそうです(こわ~(ToT)/)。最近多くの企業で「コンプライアンス部門」が法務部から切り離されて経営執行部直轄に移行している意味が少しわかってきたような気もします(汗)。

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2013年8月27日 (火)

企業のCSR活動と取締役の善管注意義務の履行

今年の株主総会シーズンの総括として、「株主エンゲージメント(株主との対話)の促進」が特徴のひとつとして掲げられています(たとえば6月28日付読売新聞社説)。株主総会における議決権行使のみならず、戦略、業績評価、リスク、報酬、コーポレート・ガバナンス等に関する目的をもった株主との対話が促進されつつあるということです。西武とサーベラス、ソニーとサードポイント等の交渉経過をみますと、ガバナンスの要求などを含め、対話といってもなかなかキビシイ交渉になるのが現実です。

株主価値の最大化こそ、受託者責任を負う取締役の責務であるとすれば、とくに社外取締役として理屈の上で株主に説明することがむずかしいと感じるテーマがあります。以前からボーっと考えたりしていたのですが、なかなかまとまらないのが企業のCSR活動の推進は取締役としての善管注意義務に反することにならないか?というテーマ。会社が本業で得た利益を社会貢献活動や寄付金に使う、とくに不祥事は発生していないけれども、将来の不祥事発生に備えて相当の管理費用に使う、といったあたりが具体的な例です。ちなみに不確実な負債の発生を回避するためのリスク管理と株主利益の最大化との関係は、 「数字でわかる会社法」(有斐閣 田中亘編著)の第3章「株主有限責任制度と債権者の保護」を読んで以来の私の疑問です。

このたび有斐閣から出版されました「株式会社法大系」(江頭憲治郎編著)の中に、一橋大学の野田博先生がお書きになった「CSRと会社法」という論文が収められていますが、この論文を読みますと、CSR活動と取締役の善管注意義務の履行との関係について、かなり頭の中が整理されます。とても格式のある本であり、内容を誤って引用するとマズイと思いますので、あえて安易な引用は控えますが、古くて新しいテーマである「CSRと会社法との関係」を、最近の学術的な到達点にまで引き上げておられ、たいへん勉強になります。

本稿は、会社法の解釈論としても、また株主に企業判断を説明する際の理屈の問題としても参考になるところが多いかと。社会の要請によって企業が自発的な行動に出る場合、短期的には株主の損失になるわけですが、その自発的行動がなぜ善管注意義務違反にならないのか、いやむしろCSRの要請に反して行動をとらなかった場合に、企業の信用が毀損されるような結果になれば、むしろ善管注意義務違反に問われるのではないか、というあたりの議論は、経営判断の意思決定の過程を株主に説明するにあたり重要なポイントだと思います。

CSRと会社法の関係などを考察してみますと、会社法が純粋な国内法であるにも関わらず、そこに国際ルールへの企業の適応といったことを考慮しなければならない時代になったことを感じます。このことは、編者でいらっしゃる江頭先生が「はじがき」で(IFRSと会社法の例を用いて)述べておられますが、さらに、企業の社会的責任に関する議論が会社法の解釈にどのような影響を及ぼすのか、ISO26000やエシックスコードの浸透などと共に関心を持っておきたいと思います。

PS:この「株式会社法大系」ですが、途中でご紹介した「数字でわかる会社法」とセットでお読みになると、理解がとても深まるのではないか・・・と(私は勝手に)感じています。

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2013年8月26日 (月)

ワルモノが徹底して悪くなければ不祥事は収まらないのか?

TBSドラマ「半沢直樹」の第2クール(東京営業本部)がいよいよ始まりましたが、常務との対決が先鋭化して、やっぱりおもしろいですね。しかし、先日まで視ていたNHKドラマ「七つの会議」と同じように、主人公と同期のまじめな営業マンが、会社のドロドロとした裏工作のために犠牲となり、会社を去っていく・・・というのは、なんとも視ていてつらいものがあります。

この「半沢」のドラマを視ていても感じますが、銀行というところは役職員の不正を摘発して社内処分をすることはできても、銀行に存在する構造的な欠陥を指摘して改めることはむずかしい組織なのだと思いますね。先日ご紹介した林原社の破たんを描いた本の中で、著者である林原靖氏が「こうなってしまうと、我々が徹底的にワルモノであるというストーリーが、もっとも会社の継続にとって重要なのだ、と悟った」とつぶやくところがあります。関係者の不適切な行動にも問題があった、と言訳したくてもできないということです。

不正が発生した場合、その不正を発生させてしまった要因は、もちろん不正を犯した社員個人の問題が大きいわけですが、そのような不正が容易にできてしまうような機会を与えてしまったり、その不正を見て見ぬふりしてしまったりするお組織的行動もやはり組織としての「不正」だと思います。しかし、いざ役職員の不正が発覚したり、発覚しそうになると、こういった組織の構造的な欠陥に光があたらないように、「組織は完全な被害者である」というストーリーが描かれます。社内調査委員会の外部委員などを経験していると、「そこは書かないでほしい」といったクレームがつくことがありますが、ほぼ、こういった「組織の構造的欠陥には触れないで」という趣旨のものです。

しかし不祥事が発生したときに、こういった構造的欠陥が指摘されなければ、また同様の役職員による不正を発生させることになり(もしくは不正を放置して大きな不正に発展させてしまうことになり)、なんら有効な再発防止策をとることはできないと思います。公務員や金融機関、公益事業のように「一次不祥事すら組織の信用を毀損するものであり、許されない」とする組織では、こういった傾向が特に強いように感じます。

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2013年8月23日 (金)

秋田書店当選者水増し事件から公益通報者保護法を考える

ネット上で大きな話題となっている秋田書店さんの当選者水増し問題(雑誌の当選プレゼントの数が、実際の当選者の人数よりも多く表示されていた問題)ですが、書店側が消費者庁から有利誤認(景表法4条1項2号)に基づく再発防止命令を受けていることは、皆様すでにご承知のとおりです(消費者庁のリリースはこちら)。

ところが問題はそれだけに終わらず、この水増し問題を外部に告発した元社員が「私が解雇されたのは水増し問題を告発したことによるものであり、不当解雇だ」とユニオン(首都圏青年ユニオン)に駆け込み、さらに書店側を相手取って解雇無効の訴訟を提起する予定であることが毎日新聞ニュースで報じられました。この毎日新聞のニュースに対しては(本日、書店側が一部事実誤認を認めて修正したものの)書店側より反論のリリースが出ています。

ところで、本日ユニオン側からの公表によりますと、この元社員の方は、解雇された平成24年3月より後にユニオンに加入したそうで、その後ユニオンが元社員の解雇を不当として書店側と団体交渉をしましたが、交渉が決裂したために(ユニオンが)平成24年の夏ころ、消費者庁へ情報を提供した、とのこと。消費者庁へ情報を提供したのはユニオンだったのですね。

そこで紛争の原因である「解雇の正当理由」ですが、書店側は「元社員がプレゼント商品を勝手に窃取したことが解雇の理由」と述べ、元社員側は「景品を窃取したことなど一切ない。解雇理由など全く存在しない。」と反論していますので、元社員の景品私物化の有無が解雇の正当理由を判断するための争点になるように思われます。毎日新聞ニュースによると、「元社員はプレゼント景品を当選者に発送せず、不法に窃取した」と解雇理由書には記載されているようなので、書店側も、このプレゼント商品の私物化ということを前提として解雇の有効性を導き出す予定だと思います。

ちなみに消費者庁が秋田書店に行政処分を下した理由とされている当選者水増しの時期は平成22年4月から平成24年5月までであり、元社員が休職していたのは平成23年9月から、解雇された平成24年3月までです。もし消費者庁が認定した水増しの発生期間に間違いがないとすれば、(元社員が会社を休んでいる間にも不正は発生していたので)上記の解雇理由書記載の解雇理由には、ほとんど説得力が欠けているように思われます。元社員の休職中にプレゼント商品の水増し表示が社内で問題となり、社内調査をしたところ、さかのぼって元社員のプレゼント商品窃取の事実が明るみになった、というストーリーでなければ書店側の主張は通らないような気がします(しかし元社員の休職中の不当な表示も問題になっているので、これも苦しいか・・・)。

本件紛争の解決のために、公益通報者保護法の要件該当性まで論点になるかどうかは今のところ不明ですが、ともかく確認しておくべきことは、元社員が公益通報者保護法で保護される要件が備わっていれば、それだけで解雇は無効となる、ということです(公益通報者保護法3条)。だからこそ秋田書店側としては「告発と解雇は全く関係がない」と主張することになります。

書店側は「不当に元社員がプレゼント商品を窃取した」と主張していますが、元社員の方は、外部告発を目的としてプレゼント商品を無断で社内から持ち出していたことが考えられます。この場合、書店側の主張するように勝手に窃取したことになりますと、窃盗罪の成立が問題となります。しかし、この点については、公益通報目的での証拠品の持ち出し、ということは窃盗罪としての犯罪行為は成立しないはずです。

その理由は、元社員がユニオンに外部告発することは公益通報者保護法第2条の公益通報に該当する可能性が高いからです。ちなみに公益通報者保護法の対象となる通報事実は、原則として違反行為について刑事罰が予定されているような犯罪事実を指しますが、当選者水増し行為(不当表示行為)には刑事罰はないものの、違反行為に関する排除措置命令に反する行為については刑事罰が規定されていますので、これも対象事実に含まれることになります(同法2条3項2号)。また、通報提供先としては「外部第三者」として労働組合も含まれると解されていますので、公益通報の通報提供先という面からも保護要件を満たす可能性が高いと思われます。

Book_110072713元社員がユニオンへ行った外部告発が公益通報者保護法上の「公益通報」に該当するのであれば、元社員の方がプレゼント商品を書店側に無断で持ち出したとしても、これは公益通報のために持ち出したことになります。したがって刑法上の窃盗罪の構成要件に該当したとしても、その違法性は阻却されます(このあたりの詳しい内容は拙著「内部告発・内部通報-その光と影-」をご参照ください)。つまり形の上では「窃取」にあたるとしても、実質的には何ら犯罪行為にはならないということですし、もちろん懲戒解雇の正当理由には該当しないことになります。もし、元社員の方が、自らの私利私欲のために告発とは無関係にプレゼント商品を持ち出したのであれば別ですが、ユニオンへの外部告発事実の正しいことを立証するために持ち出したということであれば、書店側は別の解雇理由を考えなければ解雇を正当とすることはむずかしいのではないでしょうか。

なお、これは私の個人的な推測にすぎませんが、私の内部告発代理人の経験からみますと、こういった内部告発は、元社員の方ひとりで行ったのではなく、だれか社員の中に共感者がいるのではないかと思われます。告発することを精神的に支援したり、証拠集めに協力したり、という具合に元社員の支援をしていた社員が未だ社内に存在するのではないかと考えています。そうでなければ、なかなかこれだけの企業不祥事を告発する決意を固めることはできないかもしれません。

消費者集団訴訟制度もほぼ成立することが確実となり、消費者庁としての次の目標は公益通報者保護法の改正です。まだまだ周知されていない制度であるがゆえに、公益通報制度に萎縮的な効果が出ないような運用が望まれるところです。

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2013年8月21日 (水)

内部通報制度・最新事情2題-自浄能力の発揮に向けて

秋田書店さんの景表法違反問題(当選者の水増し問題)が大きく報じられています。消費者庁のリリースをみると長期間にわたり、相当細かく水増しの内容が特定されているので、おそらく内部告発によって発覚したものといえそうです。8月20日の こちらのNHKニュースによりますと、取材に協力しておられる元社員の証言もかなり詳細なので間違いないものと思います。さらにおそろしいのはこちらのTBSニュースでして、「他社でもやっている」との証言が出ています。

以前医薬品登録販売員試験の虚偽証明書提出事件の際にも申し上げましたが、企業がこのような悪質な不正行為をなぜ行うかといいますと「他社もやっている」という担当者の認識が規範意識を鈍麻させるからです。さて今後、同様の事例が他社からも出てくるのかどうか、これは内部通報や内部告発によって明らかになるものと予想します。

さて、本業に関する話題はあまりつぶやかないようにしていますが、内部通報制度に関する話題をふたつほど。何かのご参考にしていただければと思います。

多くの企業では、すでに内部通報制度が整備されているところも多いと思いますが、通報窓口への通報だけではうまく機能しないケースもあるかと。実際、内部通報が握りつぶされてしまうこともあります。そこで、正規の通報ルートとは異なるかもしれませんが、内部通報が一番機能する可能性が高いのは、やはり「社外監査役」しかも独立性のある社外監査役さんに直接通報することだと思います。たとえ正規のルートではないとしても、社外監査役が通報事実を知ってしまった以上は、これを握りつぶしてしまいますと法的な責任を追及されるリスクが極めて高いはずです。また監査役という立場からしても、社内調査を行いやすい立場ですし、なんといっても最悪のケースでは辞任という切り札を切ってでも社内の隠ぺいに対して反対することができます。

そしてもうひとつは、内部通報の外部窓口(たとえば法律事務所など)は、意外と中間管理職の方々に評判が良い、ということです。中間管理職の方々は、部下の苦情に対して、どうしても経営者寄りの発言になってしまうことがあります。しかし、だからといって部下達の不正不満がいきなり外部へ情報提供されたり、また管理職を飛び越して役員クラスに通報が直接飛んでしまうことはつらいわけでして、そこで中間管理職の方々は悩むわけです。このようなときに、内部通報が外部窓口に持ち込まれ、そこで常識的な審査結果を示してもらいますと、ずいぶんと気持ちが楽になるようです(パワハラ案件などが代表的な例です)。「常識的に考えても通報者の言い分のほうが分が悪い・・・」ということを通報者に認識してほしい、という願望がかなり強いようです。もちろん外部窓口の担当者が会社寄りの意見しか言わない・・・というのでは困りものですが。

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2013年8月19日 (月)

金融検査の見直しと林原の破綻

9784898314098お盆休みはなかなか本を読む時間がとれなかったのですが、この一冊だけは・・・と思い、なんとか時間を作ってじっくりと読ませていただきました。

破綻-バイオ企業・林原の真実(林原靖著 WAC 1500円税別)

著者のお名前からご推察のとおり、当事者(元林原専務取締役、社長さんの実弟)の方による林原倒産に至る経緯の告白・・・というものです。岡山の世界的名門企業がなぜ弁済率93%にも関わらず倒産に至ったのか、なぜ話し合いによる処理(銀行ADR)は奏功しなかったのか、当時の会社を取り巻く関係者の動きが克明に描かれています。私はそれほど詳しい分野ではありませんが、金融法務に従事しておられる方にとっては、著者の見解への賛否は別として、ご一読をお勧めしたい一冊です。

取引先銀行の守秘義務違反・・・というところは、私も本書を読んでとても疑問を抱いたところですし、どういった理由で社内資料を複数行で突き合わせたり、ADRの協議内容をマスコミに漏らしたのか、今後もできれば真相を知りたいところです。ただ林原事件といえば、私個人の立場からしますと、どうして長年粉飾決算を放置していたのか、これほどの名門企業が、なぜ会計監査人の欠如(会社法上の違法行為)について経営トップも含めて認識されていなかったのか、というところに関心が向きますが、そのあたりは(この本の中心テーマから離れてしまうからでしょうけれども)さらっとしか触れられていなかったのが残念でした。非上場会社として、計算書類をきちんと作ることについてのコンプライアンス意識が薄かった(きちんと作る必要もなかった)・・・と、あえて言えばそういった理由からだったような気もします。

なお、債務超過が大きく報じられていましたが、清算価格による非常時のバランスシートはたしかに「たたき売り」を前提としたものであり、それ自体はやむをえないものだと思います。ただ、林原のように無体財産を多く保有する会社の資産価値というものが、どれほどバランスシートの中で考慮されるのか、IFRSの議論などとも並行して考えるきっかけになればいいなぁ・・・との印象を持ちました。

ところで一昨日(8月17日)の日経新聞朝刊の一面に「金融検査見直しへ」という記事が掲載されていました。今後は金融庁が銀行による査定を尊重し、不良債権処理の優先を転換する、ということのようです。これまでよりもベンチャー企業や中小企業への資金援助が容易になるとのこと。上記「林原・・・」の本の中でも、著者が「本当に会社を成長させたいと思うならば銀行からお金を借りないほうがよい」と断言しておられますが、私はこういった金融検査も林原倒産の遠因になっていたのではないか、と考えますがいかがでしょうか。

ただ、私の記憶では、たしか林原のメインバンクの銀行さんは、林原社に会計監査人が存在しなかったことについて、ほとんど関心を示していなかった、とのことでした(登記簿で確認できるにもかかわらず、そのような確認はしていなかったそうです)。これは銀行融資の姿勢自体が、非上場会社の貸借対照表、損益計算書という計算書類を重視していなかったことの証左かと思います。いわば物的担保と人的担保による信用リスク管理ということが中心だったわけで、今後「査定中心主義」の融資姿勢となりますと、比較的大きな非上場会社については会計監査をはじめ、会社法上のガバナンス体制にも留意しなければならないわけで、このあたりは(当然に銀行融資を受けている)一般企業にとっても影響が出てくるような気がします。

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2013年8月16日 (金)

企業不正に対する内部統制の役割とそれを取り巻く者の責任(日本内部統制研究学会のお知らせ)

さて、昨年は当ブログで広報させていただき、思いのほか多数の方にご来場いただき、配布資料不足を招いてしまいました日本内部統制研究学会のお知らせでございます。昨年は東京開催でしたが(日本大学)、今年は関西大学で開催ということなので、たぶん、昨年のような混乱は生じないものと安心しております。

さて、8月31日(土)に迫ってまいりました第6回日本内部統制研究学会年次大会ですが、今年の全体テーマは「企業不正に対する内部統制の役割とそれを取り巻く者の責任-ガバナンス・会計・監査-」ということでして、

本大会では、「企業不正に対する内部統制の役割とそれを取り巻く者の責任」を統一テーマとし、内部統制の整備と運用に責任を持つ経営者・監査役等の企業内部者と、外部監査人・資本市場運営者等の企業外部者が、それぞれの果たしてきた責任を踏まえ、将来の企業経営向上に向けてさらに前向きに果たすべき責任に関して、それぞれの視点からご議論頂くことに致しました。

といった概要です。準備委員会の委員長が企業実務家でもいらっしゃる伊藤先生(関西大学)なので、統一論題のご登壇者の顔ぶれも多彩です(ご登壇者の顔ぶれはこちらのHPをご覧ください)。主催者側である私自身も、今から楽しみです。

ベンチャー支援、起業家の成長支援ということで、アベノミクスは上場維持費用の緩和の方向性を打ち出しているようですが、規制緩和によって起業の自由、営業活動の自由が広くなればなるほど、企業規制はソフトローに依存することになります。

たとえば最近、社員による不適切写真の投稿が批判の対象となり、東証1部のブロンコビリーさんが謝罪と店舗閉鎖、従業員への損害賠償予告、というリリースを出しました。この対応には「当然の措置!」「やりすぎでは?」と賛否両論の意見が出ています。ブロンコビリーさんでは、ネット上での炎上という事態を受けての自律的行動でした。ではまだ炎上していない「不適切写真」の存在が御社で発覚した場合、ブロンコビリーさんと同じ行動をとるのでしょうか?まだ炎上していない(つまり世間に知られていない)以上は、コソッと本人を処分をするだけで済ませますか?それとも社内処分を社内だけで公表して済ませますか?それとも炎上前から社外にもリリースして謝罪をするのでしょうか?また、そのような対応については社内で意見は一致するのでしょうか?

このような自律的行動が、果たして企業の信用を向上させるのか、低下させるのかは、当然のことながら内部統制構築の巧拙に依拠することになるわけでして、規制緩和によるソフトロー時代の傾向が強まる中で、今後ますます企業不正に対する内部統制への関心は高まるものと思われます(だって、みなさん、ホントにリスクは背負いたくないでしょうから・・・)。

朝9時半からの自由論題は、今年も4つの会場に分かれて開催いたしますが、私もそのうちのひとつである第4会場の司会を務めさせていただきます。テーマは「法的側面からの検討」ということでして、伊勢田道仁教授(関西学院大学法学部)による「内部統制に関する経営者と会計監査人の責任」、遠藤元一弁護士による「監査における不正リスク対応基準が監査人の財務諸表監査に与える法的影響等」という、いずれもたいへん興味深い内容のご発表です。法律家、会計専門職、経理・法務担当者など、多数の方々にご聴講いただきたいので、ぜひとも朝からお越しいただければ幸いです。

内部統制がしっかりしていれば「上司のミスは部下に押しつけ、部下の手柄は上司の手柄」といったことはなくなるかも(?)しれませんよ。8月31日の土曜日は、ぜひとも関西大学の吹田キャンパスまでご参集くださいませ<m(__)m>

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2013年8月15日 (木)

PCAOB、監査報告書の改革案を可決

8月14日のウォールストリートジャーナルが「米国監査法人監査当局、監査報告書の改革案を可決」として、米国のPCAOBが大幅な上場会社向け監査報告書の改革案について全会一致で可決した旨を報じています(WSJニュースはこちら)。監査手続きの中で発見した事象について、これまでよりも詳細に投資家へ情報を提供するようになる、というもの。これまで監査報告書に加えられた改革としては過去70年の歴史の中で最大のものだそうです。拙著「法の世界からみた『会計監査』」の第4章「事後規制社会に組み込まれる弁護士・会計士」で私が提言していたことが、このたび米国で実現するようです。

リーマンショックの後、米国では職業会計士の会計倫理についての議論が盛んに行われていましたが、まさに市場の番人たる会計士の理想の姿が求められてきたものと理解しています。このたび日本でも監査における不正リスク対応基準が新設され、そこでは「職業的懐疑心」に重点が置かれていますので、「期待ギャップ」を埋めるための方策としては、今後も米国の流れを日本も追っていくのではないかと予想しています。

日本が米国の流れに追随するのではないか、と私が予想する根拠は三つあります。ひとつは拙著でも説明しているとおり事後規制社会への変遷です。本来企業開示規制は行政当局のお仕事ですが、行政による事前規制が撤廃される代わりに弁護士や会計士を「市場の番人」にふさわしい専門職として捉えています。当然に職業倫理が求められるわけであり、さらにリスクをとるにふさわしい活動を期待されます。とりわけ会計監査を担う会計監査人は、企業との守秘義務の問題や、虚偽内容の情報開示のリスクを負いながらも、実質的な依頼者である株主・投資者に対して有益な情報を提供することが求められます。

二つ目は責任回避です。リーマンショックの際には、金融規制当局が大きな批判を浴びましたが、監査法人が「市場の番人」として、行政規制の一部を担うということになれば、万が一問題が発生したとしても行政当局は責任を回避することが可能です(いや、責任を転嫁できるといったほうが正確かもしれません)。良い、悪いは別として、監査法人への監督権を上手に行使しつつ、国民からの監督責任の回避を目論む方策というのは、今後「市場のふとどき者」や「市場外で国民に迷惑をかけているアウトロー」対策に規制の重点を置こうとしている日本の行政当局の考え方としても十分ありうると思います。

そして三つ目は行政当局の国際連携の必要性です。企業活動のグローバル化に伴い、リーマンショックのような事件が発覚すれば、ひとつの企業の信用不安が他国にも飛び火することが判明しました。とくに「取り付け騒ぎ」をもたらすようなレピュテーションリスクへの関心が高まっていますので、企業情報は多少の誤差はあったとしても、正確な情報が早期に投資家へ開示されることが望ましいという点では各国の行政当局で一致しているのではないでしょうか。企業のリスク情報の分析には時間を要するのであり、いち早く正確なリスク情報を提供できるのは、なんといっても継続的に企業情報にアクセスしている監査法人をおいて他にはない、というところかと思います。

オリンパス事件を契機として、今年は監査における不正リスク対応基準が新設されたわけですが、これはご承知のとおり最終案ではなく、あくまでも通過点の施策です。「期待ギャップ」対策の微妙なバランスの上に成り立つものですので、もし今後オリンパス事件と同じような会計不正事件が発覚した場合には、そのバランスは崩れます。つまり、会計士さんに市場の番人たる役割をさらに強く要請する(たとえば不正発見的機能を強化する等)ということになるはずです。そうならないためにも、イマこそ監査法人さんの自律的行動が求められる踏ん張りどころです。

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2013年8月14日 (水)

JFAELセミナー「法と会計の思考プロセスの違い」のお知らせ

皆様、残暑お見舞い申し上げます。<m(__)m>(といっても、残暑どころか猛暑の毎日ですが・・・)さて、19日まではブログの更新はいたしませんと言いつつ、これは「更新」ではなく単なるお知らせということでご容赦ください。かなり苦しい言い訳ですが(笑)

※※※※※

さて、もう来週木曜日の8月22日ということになりますが、地元の大阪におきまして企画としては面白いセミナーを開催させていただきます。主催は一般社団法人会計教育研修機構というたいへん由緒あるところでして、主に会計専門職の方の高度教育機関だそうです。今回は特別講演会ということで、大阪で一回、東京で一回講演をさせていただく、というもの(JFAELの研修のお知らせはこちら)。

おもしろいのは東京と大阪で講演内容が違う、という点もあります。東京では会社法改正に関連する研修内容なのですが、大阪の講演は「法と会計の思考プロセスの違い」というもの。今回は、この直近の大阪講演のご紹介です。不正調査の実務において、会計士の先生方とお仕事をする中で感じたことなどをいくつかのテーマに分けて解説させていただき、後半はこのような法と会計の思考プロセスの違いを意識することにどのような実益があるのか、といったことを問題提起するものです。

講演内容につきましては上記の会計教育研修機構のHPをご参照くださいませ。3年半ほど前に、日本監査学会(西日本支部)にお招きいただき、そこでお話させていただいた内容に、このたびの拙著「法の世界からみた会計監査」で書かせていただいた内容を融和させたもので、あまり他ではお聞きになったことがないものではないかと。

不正調査という法と会計の狭間の問題だけでなく、会計ルールは法律とどう違うのか、裁判所で会計士の責任はどのように認定されるのか、そもそも裁判なんかに巻き込まれることがないようにするためにはどうすべきか、といった、かなり大胆な問題に突っ込んだお話です。マニュアルのない世界のお話なので、問題提起にすぎないところもありますが、単に弁護士や会計士の処世術を語るものではなく、弁護士や会計士がどうすれば企業社会に役に立つ存在になるのか、協働して1+1=3とするためには何が足りないのか・・・といった視点で2時間語りたいと思っています。

非会員の方も(有料にはなりますが)ご参加可能とのことなので、ぜひ一度、こういった話題についてご興味のある方はご参集いただけますと幸いです。

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2013年8月 9日 (金)

ブログ更新に関するお知らせ

いつも「ビジネス法務の部屋」をご覧いただき、ありがとうございます。さて、本日はお知らせです。これまであまり意識をしてブログ更新をお休みさせていただいたことはなかったのですが、次回のブログ更新は8月19日(月)ころとさせていただきます。

「しばらくお暇を頂戴いたします」と言いたいところですが、残念ながら全くおヒマがございません。明日から18日ころまで、次回出版予定の本の原稿、共著本や雑誌論文の原稿等の執筆、たくさんの講演資料の作成準備に没頭したいと思います。お盆休み返上にて、健康に留意しながら日々精進する予定です。

たいへん暑い日が続きますが、皆様方におかれましては良いお盆休みをお過ごしくださいませ<m(__)m>。

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2013年8月 8日 (木)

公務員・公益事業者のコンプライアンス-うっかりミスとまさかのミス

ここのところ中国政府による贈賄規制、独禁法規制の事件報道が相次いでいます。日本企業においては、米国だけでなく、中国による経済法違反リスクについても真剣に検討しなければならない時期に来ているようなので、当ブログでも今後は海外事業展開におけるコンプライアンス問題をエントリーとして追加していきたいと思っています。本業でも時々関わるところですし、なによりもあまりマニュアルがない分野なのでたいへん興味が湧くところです(ただし、本日は全く海外不正とは関係のないお話です)。

8月5日夜のニュースによりますと、福島市がDV被害者の離婚女性の自宅に書類を送付するつもりで誤って元夫とされる男性方へ送付してしまったことで、被害女性から損害賠償請求訴訟を提起されたことが報じられています。女性は、プライバシー権を侵害されたことで、同市を相手取り、慰謝料など約112万円を求める国家賠償請求訴訟を起こした、というもの(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。福島市は記者会見を開き、誤送付を謝罪したそうです。女性は「男性が自宅へやってくるのではないかと精神的に苦痛を感じている」とのことで、このような情報漏えいはとても重大な問題です。おそらく地方公共団体における情報漏えい問題のうちでも、こういった人為的ミスによる問題が最大の課題ではないでしょうか。

公共団体や金融機関、公益事業は企業不祥事で組織が壊滅することは(ほとんど?)ありません。国民はこういった組織が不祥事を起こしたからといって、別の組織のサービスを受けることが困難です。ということで、不祥事が発生すると、組織の構造的欠陥にはあまり関心が向かず、ほとんどの場合が不祥事を発生させた役職員個人の責任追及だけに関心が向きます。つまり「二次不祥事」よりも「一次不祥事」に組織の内外から目が向けられます。だからこそ、公務員コンプライアンスは、単純に「一次不祥事はやむをえない、二次不祥事だけは避けなければならない」といった民間企業向けの提言では説得力がなく、むしろ一次不祥事こそ防止しなければならない、一次不祥事を発生させないためにはどうすべきか、という点に注力する必要があります。ただ、あまり不祥事の未然防止にだけ注力しますと、どうしても不祥事を隠す文化が芽生えてしまうという弊害が生じることも事実ですし、構造的欠陥に関心が向かないために、有効な再発防止策が実施されず、その結果、役職員の不祥事は繰り返されてしまいます。先の福島市の例も、重大なミスではあるものの、職員に重大な情報漏えい問題であることの認識が希薄であれば、また同じミスを繰り返してしまうように思います。

そもそも公務員や公益事業に従事しておられる方々の不祥事未然防止に向けた意識というものは、どうしても薄いものになってしまいます(もちろん、職業倫理観をもって誠実に職務を遂行しておられる方も多いとは思うのですが)。そこには三つの問題が横たわっているものと考えられます。それは①役職員が不祥事を起こしても組織は崩壊しない、という安心感②組織は一生懸命に利益を生む必要がない、という競争意識の欠如、そして③公務員、公益事業者は顧客を選べない、ということです。この三つは企業がコンプライアンス経営を推進するにあたって、大きな足かせとなります。「つい、うっかり」型のミスは個人的ペナルティで防ぐことはできますが、「まさか、こんなことに」型のミスは、いくら個人にペナルティを課してもなくなりません。こういった意識の希薄さは、この「まさか、こんなことに」型のミスには対処できないと思います。福島の情報漏えいの例でも、職員に処理しきれないほどの仕事が重なり、社内ルールを遵守しないことが例外的に許容されていた中でのミスだった可能性があります。

こういった情報漏えいを防止するための施策としては(どなたもご存じかとは思いますが)情報にA,B,Cといった優先順位を付けて、各部署で取り扱う情報について、各部署ごとに優先順位を議論する、といったことも有益かもしれません。しかし、私はミスを誘発する組織風土についてもプロセスチェックを検討すべきではないかと思います。情報漏えいミスが発生した場合には、なぜ発生したのか、単純にミスを犯した人を責めるのではなく、その部署に発生する不正リスクがきちんと評価されていたかどうか、そのリスクを抑制するための人的資源は足りているのかどうか、といったところです。足りていないとすればどうするのか、単純に人を増やすのか、それとも職務分掌に手をつけるのか、そのあたりまで辿って不正発生の原因を究明しなければ再発は防止できないように思います。

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2013年8月 6日 (火)

「抜かずの宝刀」金商法192条とスチュワードシップ原則

本日はあまりブログを書く時間がありませんので、最近の新聞報道から、行政の規制手法とコンプライアンスについて感じていることを一言だけ。

8月6日に第1回の日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者懇談会が金融庁にて開催されるそうです(金融庁HPでのお知らせはこちら)。既に何度か触れていますが、スチュワードシップコード原則とは、機関投資家が資金を適切に運用する受託者責任の一環として、企業との対話を通じてコーポレート・ガバナンス(企業統治)を向上させ持続的な成長を促すための行動原則、と一般に訳されています。(たとえばロイターニュースはこちら)機関投資家の投資先ガバナンス監視の手法として、このたび官民共同でガイドラインが策定される方針だそうです。日本の企業はほとんどが真面目に経営をしているのですから、インセンティブさえあればガバナンス体制の構築は企業の自律的行動に期待できる、というのが規制する側の考え方の基礎にあるはずです。

いっぽう企業の中にはどうしようもない確信犯的行動によって国民の財産に危害を加えるところもありますので、そういった企業には不正抑止のための自律的行動は期待できません。よって金融庁としては徹底的な違法行為の防止体制と事後の厳格なペナルティで臨むことになります。厳罰は最近のインサイダー規制の厳格化、不公正取引に対する偽計取引条項の適用(金商法による刑事罰の適用)といったところであり、徹底した未然防止体制としては金商法192条の適用ということになるかと。

金商法192条の制度とは、金商法違反のおそれがあり、公益や投資家保護のために緊急の必要性が認められる場合に、裁判所が業務の差止命令(禁止命令)等を出す、という制度であり、金融庁(証券取引等監視委員会)が申し立てを行う、というものです。この制度は、対象者の救済手続きにやや問題があるために「抜かずの宝刀」と言われていましたが、最近になって6件も適用されるようになったそうです(毎日新聞ニュースはこちら)。正に悪徳業者の活動自体を防ぐための事前規制的手法ですが、平成20年の大和都市管財事件において、近畿財務局の不作為を違法とした大阪高裁の国賠事件判決が出たことも、こういった行政の積極姿勢への転換を後押ししているようです。この金商法192条による裁判所の差止命令制度について、ひところはTOBやMBOの違法性を攻撃するために、民間同士のM&Aに関する紛争解決のために行政権限の発動を促す・・・・という方向性も検討されていましたが、こういった整理をしてみると民間の紛争事案では、あまり活用されないものと思います。

規制緩和が進む中、効率的な行政を目指すのであれば、まじめな会社には自律的行動を、そしてそうでない会社には徹底した事前規制と事後規制を、というシステムは、今後金融行政だけでなく、消費者行政にも応用されていくような気がしてなりません。たとえば消費者集団訴訟制度の在り方、公益通報者保護法の改正の方針など、今後注目したいところです。

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2013年8月 5日 (月)

スクープは規範意識を麻痺させる-関西TVインタビュー偽装事件

すでにご承知の方もいらっしゃると思いますが、関西テレビの夕方のローカル番組『スーパーニュースアンカー』が2012年11月30日に放送した「大阪市職員 兼業の実態」という特集企画で、市職員に禁止されている「兼業」について証言した内部告発者のモザイク映像が、取材スタッフを使って偽装した映像であり、さらに新聞報道で発覚するまで3か月余りも視聴者に説明していませんでした。この事案について、放送倫理検証委員会が8月2日に委員会決定を公表しています(BPOのリリースはこちら)。決定報告書はとても読みやすく、コンプライアンス経営を学ぶ上で参考になるところが多いものであり、(それほど長いものではありませんので)ご一読をお勧めします。

同委員会は、社内でのチェックが機能せず問題のインタビュー映像を放送してしまったこと、問題発覚後これを視聴者に伝えない決定をしたことの2点について、放送倫理に違反すると判断しました。そのうえで、今回の問題の本質は、関西テレビがいう「不適切な映像表現」ではなく、テレビを信じてモザイク映像の放送を視ている者の信頼を裏切るような「許されない映像」が放送されたことにあると指摘しています。このあたりはなかなか厳しい決定内容です。

取材スタッフの後姿を(あたかも告発者本人であるかのように)撮影したカメラマンが、この問題を社内で報告した後、報道関係の責任者も交えて公表の有無が議論されたわけですが、結局のところ公表の必要性なし、というのが関西テレビ社内での決定だったそうです。この点は、関西テレビの組織独特のものではなく、こういった有事に至った組織ではすべての関係者の心にバイアスが働くものと思います。平時に冷静な頭で考えれば「これは視聴者の視点であれば裏切り行為だ、すぐに謝罪し、説明のための番組を編成すべきだ」ということになると思います。しかしながら有事に直面し、「これが表沙汰になったら、『あるある大事典事件』の二の舞になってしまう。これまで以上に批判されてしまう」という気持ちが組織の構成員の心を支配するようになると、冷静な判断を欠き、どうしても公表しないでよい理由ばかりに重きが置かれます(どのような正当化理由に重きが置かれたかは報告書をお読みいただければおわかりになると思います)。これは(毎度申し上げるところですが)関西テレビ特有の悪しき組織風土ではなく、有事に至った組織であればどこでも起こりうる集団心理のなせる業です。

さらに、委員会決定の報告内容によると、なぜこのようなインタビュー偽装を現場社員(P記者)が決行してしまったのか、という点について、委員会は以下のように指摘しています。つまり、現場を任されたのは入社5年目の若い社員であり、報道関係者としてのあるべき行動規範や「別人を撮影するこわさ」について、ベテランから十分な知見を受けていなかったがゆえの出来事だったと結論つけています。若さゆえの経験不足に焦点をあてているようです。だからこそ、番組収録から放送日までの社内におけるチェックシステム(社内のサポート体制)を問題視しているようです。

しかし、このインタビュー偽装事件は本当に現場社員であるP記者が経験不足であるがゆえに起きたのでしょうか?私はこの偽装事件が起きた本当の理由は、もっと他のところにあるように感じました。というのも、この「大阪市職員、兼業の実態」という企画は、関西テレビにとってスクープだったからではないかと。だからこそ、番組収録後、報道責任者はこの企画を(ローカル番組だけではなく)全国ネットで放映する価値がある、と判断し、実際に全国ネットで放送されています。

つまり、この若手社員にとっては、日々の普通の取材における普通の収録であれば、「いくら声が本人でも、他人を撮影するのはマズイだろう」ということで、他の手法を考えていたのではないでしょうか(現に、今回もこの現場社員は番組収録直後から悩んでいます)。社会正義に由来するマスコミ人としての気持ちからか、あるいは自分自身の仕事の名声を上げるためだったのかはわかりませんが、自身が手掛けた企画が「スクープ」として大きな価値があったからこそ、心の規範意識が曇ったのではないでしょうか。そうであるならば、これは若いがゆえに、経験不足であるがゆえに、というものではなく、ベテランの社員であっても十分に起こりうる不祥事ではないかと思います。

許される演出と許されない誇張表現・・・・、この境界は極めてあいまいです。現場の記者にとっては、全国ネットで取り上げられるほどのスクープネタであったことが、心の規範意識を緩めてしまい、「許される演出」と「許されない誇張表現」の境界線を超えてしまった・・・というのが本当の原因ではないでしょうか。こういった心の動揺があれば、同じ人間でも、この境界を超えてしまうことは、かつてのあるある大事典事件でも番組制作会社が経験したところです。もし過去の教訓が生かされていなかったとすれば、むしろこういったところにあるのではないでしょうか。

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2013年8月 2日 (金)

反トラスト法違反事件の摘発は組織の構造的欠陥に向けられる

最近、法律雑誌や新聞報道でアンチトラスト法違反事件の脅威について警鐘が鳴らされています。先日もパナソニックと三洋電機の自動車部品納入に関するシャーマン法違反事件の有罪答弁合意についてリリースされていました。法人に限っていえば、米国司法省に対する有罪答弁合意(司法取引)→民事制裁金、欧州におけるペナルティ、関係者からの民事賠償請求といった流れが延々と続くわけで、たとえばフジクラ社はついに(自動車部品関連では初の)納品先であるフォード社から懲罰的損害賠償請求訴訟を提訴されています。このような膨大なリスクは対象当事者になってみなければ、その大きさが理解できないのではないでしょうか。この大変なリーガルリスクを平時の経営者に理解してもらうにはどのような説明が効果的なのか、ちょっと私にもわかりません。私は完全な国内案件弁護士ですが、そんな私でさえ、海外不正事案の処理に関わらざるをえない時代となってきたことは脅威です。

法廷できちんと闘うのであれば米国のアンチトラスト法違反の被疑事実とは一体どんな行為なのか特定できることになります。しかし米国で価格合意等が捜査対象とされた場合に、司法取引で処理しようとするわけですが、一体どのような犯罪行為が現地で被疑事実とされているのか、日本の企業にはなかなか理解できないようです。実際に日本企業が有罪を認めてしまえば、あとは当局が後だしジャンケンで被疑事実を特定してしまうような気もします(これは私の個人的な感想にすぎませんが・・・)。一体なにが起こったのか日本の本社では詳しくわからないまま、高額な弁護士費用と高額な捜査協力費用・・・、上場会社の数年分の利益がふっとぶこともあるわけですが、ここに(分割は認められるとしても)ペナルティや損害金が上乗せされることになります。

結局のところ、アンチトラスト法違反とは、組織をひとつの不正行為者とみなして、社員の不正行為を許容している組織風土へのペナルティが課されている・・・というのが実情ではないかと。メール調査ひとつとっても、社内メールはたくさんの「CC」が付いて送られているので、一体だれが決定権限者なのか、メールを調査しただけではわかりません。だから延々と捜査協力要請が続き、英訳費用だけが膨大にかさみます。外から見て疑わしい社員の行動をマッシロだと反証できないような組織体制であれば、その体制自体がアウト。再発防止策だけでなく、ペナルティの量刑判断にもコンプライアンスプログラムの整備状況が斟酌される理由がよくわかります。

最近は有罪答弁合意に関する開示資料に、適用除外の対象となる役職員の氏名が公表されなくなったので、法人についてはホッと一息でも、役職員の個人的処罰の手続がどこまで続くのかわかりません。弁護士については現地弁護士(法人と社員は別に)、現地弁護士と日本本社をつなぐ弁護士(日本の独禁法に強い弁護士の場合が多い)、日本の体制整備や開示情報管理を担当する弁護士、といったように少なくとも三層形式で必要となるはずですし、損害賠償請求事件などが発生すれば、また新たに別途弁護士が必要になります。いずれにしても、平時から「疑われないための体制作り」をしていかなければとんでもないリーガルリスクを背負うことになります。中国も同様のリスクが顕在化しそうですし、時代は変わりつつありますね。

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2013年8月 1日 (木)

企業グループ管理への関心の高まりと「会社法制の見直し要綱」

Image90814この月曜日に発売されました週刊エコノミスト8月6日号ですが、すでに賛否両論(?)で話題になっておりますように「食える弁護士、食えない弁護士」という見出しのついた「弁護士特集号」として構成されています。今年4月に税理士・会計士特集が組まれてよく売れたそうなので、「それでは弁護士も」という思惑で特集が組まれたものと思います(司法制度改革やロースクール制度などにも触れられていますが、企業法務関連の弁護士に焦点が当てられています)。

ご覧になられた方はおわかりのとおり、私も(第一人者ではありませんが)川崎重工の社長解任劇(代表者解職劇)を題材にガバナンスに関する論稿を2ページにわたって書かせていただきました。論稿を書きあげるよりも、あの「企業社会における解任劇の歴史」についての図表を作成するほうが時間を要しました。著名な金融ジャーナリストでいらっしゃる磯山さんや伊藤歩さんも、会計士ネタだけでなく弁護士ネタにもチャレンジングな論稿を書かれていますので、企業法務の世界を一般の方々に知っていただくにはよい機会だと思います。ぜひぜひご一読いただければ幸いです<m(__)m>。

ところでこの週刊エコノミストの中で、日経ビジネス弁護士ランキング1位の中村先生が2か所で登場されますが、企業グループ管理に関連する法律問題について、とてもシブいコメントを残しておられます。要約しますと・・・

このたびの会社法改正案(会社法制の見直しに関する要綱)においては、多重代表訴訟の活用場面が極めて限定的となり、企業結合に対するガバナンスは前進することがなかったように受け取られている。要は経済界の意見が通ったという評価である。しかしこれまで会社法規則だけに規定されていた「企業集団内部統制」が、会社法の条文に規定され「格上げ」されることになった。これは親会社の取締役の善管注意義務の解釈として、会社法の解釈にも影響を与えるものであるが、そのことに気が付いている人はいまだ少数にすぎない。

とのこと。また、昨日発売されました月刊監査役8月号では、法制審の会社法制部会委員でいらっしゃる荒谷先生(法政大学教授)が「親子会社法制に潜む課題」と題する論稿を発表されておられますが、その中で以下のように中村先生と同様のことを記載しておられます。要約しますと・・・

(「企業集団内部統制」が法文に格上げされたことについて)、これまで規則にあったものが法文化されるだけであり、何ら変わらない・・・との見方もあろうが、ここに至るまでの部会での審議内容及び「要綱」第2部第1(後注)の文言等を踏まえれば、親会社取締役等は内部統制システムを通じて、子会社の取締役等の不正行為や違法行為等を発見した場合には、これを是正するために必要な措置を講じる義務があることが従来に比べてより明確になったといえる。その意味で、親会社の取締役・監査役等は、善管注意義務違反に基づく代表訴訟のリスクが高くなるのではないかと予想され、実務に及ぼす影響は少なくない、と思われる。

とのことです。ご高名な先生方の論稿をご紹介した後で、偉そうな物言いでたいへん恐縮ですが、ここ2~3カ月の直近の私の講演を聴かれた方はご存じのとおり、私もPPTを用いて、グループ会社の内部統制構築は、これまでよりもハードローの面でも、ソフトローの面でもより厳格なものが問われる時代になる、と述べてきました。ハードローの面においては、中村先生や荒谷先生が指摘されている点に加え、そもそも経済界の方々も(企業結合のガバナンス規律の必要性は認めつつも)それは多重代表訴訟などを新設することではなく、親会社の取締役・監査役の責任を厳格に問えば足りるではないか・・・と主張されていたことによるものです。

また、ソフトローの面においては、法務省のテリトリー(会社法制)にダイレクトに手を突っ込むことができない金融庁の思惑があるからです。企業結合ガバナンスを強化することを目的に、最近は企業グループ全体におけるレピュテーションリスクを強調しています。子会社で不正が発生すれば、親会社の社会的評価に影響が及ぶことは2007年から8年にかけてのリーマンショックで明らかになりましたので、レピュテーションリスクへの関心は国際金融協調における新たな課題になりました。したがって、監督対象である金融機関に対しては「監査役(監査委員)との対話」を通じて、そして金融機関の信用リスクの指標となる一般の企業については、金融機関の信用リスク態勢のチェック(取引先会社のガバナンス状況を把握しているか)を通じて、企業グループ全体としてのレピュテーションに関心を強めているところだと思われます。なお、ここで注意すべきは「企業開示の適正」を目的としたものではなく、金融機関の信用リスク態勢の強化が目的とされているので、ガバナンスの強化が求められるのは上場会社に限られるわけではない、ということです。

たとえ企業集団内部統制の構築が取締役の善管注意義務として明確な法的義務ではないとしても、企業に求められる自律的行動(ソフトローの遵守)に注目し、その遵守姿勢の見えない企業をピンポイントで監視対象とする、という手法がとられる可能性があります(リスク・アプローチによる効率的監視手法)。遵守する姿勢があるかどうか・・・、これをチェックするモノサシがレピュテーションということになります。アベノミクス政策が進み、今後もますます「小さな政府」が標榜される中で、こういったソフトローによってコーポレートガバナンスの健全性が規律される傾向が強くなることは間違いないものと思いますし、このたびのカネボウ化粧品問題が親会社である花王の業績や将来戦略に大きく影響を及ぼしている事実をみても、子会社管理の重要性を再認識する次第です。

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