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2013年8月 8日 (木)

公務員・公益事業者のコンプライアンス-うっかりミスとまさかのミス

ここのところ中国政府による贈賄規制、独禁法規制の事件報道が相次いでいます。日本企業においては、米国だけでなく、中国による経済法違反リスクについても真剣に検討しなければならない時期に来ているようなので、当ブログでも今後は海外事業展開におけるコンプライアンス問題をエントリーとして追加していきたいと思っています。本業でも時々関わるところですし、なによりもあまりマニュアルがない分野なのでたいへん興味が湧くところです(ただし、本日は全く海外不正とは関係のないお話です)。

8月5日夜のニュースによりますと、福島市がDV被害者の離婚女性の自宅に書類を送付するつもりで誤って元夫とされる男性方へ送付してしまったことで、被害女性から損害賠償請求訴訟を提起されたことが報じられています。女性は、プライバシー権を侵害されたことで、同市を相手取り、慰謝料など約112万円を求める国家賠償請求訴訟を起こした、というもの(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。福島市は記者会見を開き、誤送付を謝罪したそうです。女性は「男性が自宅へやってくるのではないかと精神的に苦痛を感じている」とのことで、このような情報漏えいはとても重大な問題です。おそらく地方公共団体における情報漏えい問題のうちでも、こういった人為的ミスによる問題が最大の課題ではないでしょうか。

公共団体や金融機関、公益事業は企業不祥事で組織が壊滅することは(ほとんど?)ありません。国民はこういった組織が不祥事を起こしたからといって、別の組織のサービスを受けることが困難です。ということで、不祥事が発生すると、組織の構造的欠陥にはあまり関心が向かず、ほとんどの場合が不祥事を発生させた役職員個人の責任追及だけに関心が向きます。つまり「二次不祥事」よりも「一次不祥事」に組織の内外から目が向けられます。だからこそ、公務員コンプライアンスは、単純に「一次不祥事はやむをえない、二次不祥事だけは避けなければならない」といった民間企業向けの提言では説得力がなく、むしろ一次不祥事こそ防止しなければならない、一次不祥事を発生させないためにはどうすべきか、という点に注力する必要があります。ただ、あまり不祥事の未然防止にだけ注力しますと、どうしても不祥事を隠す文化が芽生えてしまうという弊害が生じることも事実ですし、構造的欠陥に関心が向かないために、有効な再発防止策が実施されず、その結果、役職員の不祥事は繰り返されてしまいます。先の福島市の例も、重大なミスではあるものの、職員に重大な情報漏えい問題であることの認識が希薄であれば、また同じミスを繰り返してしまうように思います。

そもそも公務員や公益事業に従事しておられる方々の不祥事未然防止に向けた意識というものは、どうしても薄いものになってしまいます(もちろん、職業倫理観をもって誠実に職務を遂行しておられる方も多いとは思うのですが)。そこには三つの問題が横たわっているものと考えられます。それは①役職員が不祥事を起こしても組織は崩壊しない、という安心感②組織は一生懸命に利益を生む必要がない、という競争意識の欠如、そして③公務員、公益事業者は顧客を選べない、ということです。この三つは企業がコンプライアンス経営を推進するにあたって、大きな足かせとなります。「つい、うっかり」型のミスは個人的ペナルティで防ぐことはできますが、「まさか、こんなことに」型のミスは、いくら個人にペナルティを課してもなくなりません。こういった意識の希薄さは、この「まさか、こんなことに」型のミスには対処できないと思います。福島の情報漏えいの例でも、職員に処理しきれないほどの仕事が重なり、社内ルールを遵守しないことが例外的に許容されていた中でのミスだった可能性があります。

こういった情報漏えいを防止するための施策としては(どなたもご存じかとは思いますが)情報にA,B,Cといった優先順位を付けて、各部署で取り扱う情報について、各部署ごとに優先順位を議論する、といったことも有益かもしれません。しかし、私はミスを誘発する組織風土についてもプロセスチェックを検討すべきではないかと思います。情報漏えいミスが発生した場合には、なぜ発生したのか、単純にミスを犯した人を責めるのではなく、その部署に発生する不正リスクがきちんと評価されていたかどうか、そのリスクを抑制するための人的資源は足りているのかどうか、といったところです。足りていないとすればどうするのか、単純に人を増やすのか、それとも職務分掌に手をつけるのか、そのあたりまで辿って不正発生の原因を究明しなければ再発は防止できないように思います。

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