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2013年8月23日 (金)

秋田書店当選者水増し事件から公益通報者保護法を考える

ネット上で大きな話題となっている秋田書店さんの当選者水増し問題(雑誌の当選プレゼントの数が、実際の当選者の人数よりも多く表示されていた問題)ですが、書店側が消費者庁から有利誤認(景表法4条1項2号)に基づく再発防止命令を受けていることは、皆様すでにご承知のとおりです(消費者庁のリリースはこちら)。

ところが問題はそれだけに終わらず、この水増し問題を外部に告発した元社員が「私が解雇されたのは水増し問題を告発したことによるものであり、不当解雇だ」とユニオン(首都圏青年ユニオン)に駆け込み、さらに書店側を相手取って解雇無効の訴訟を提起する予定であることが毎日新聞ニュースで報じられました。この毎日新聞のニュースに対しては(本日、書店側が一部事実誤認を認めて修正したものの)書店側より反論のリリースが出ています。

ところで、本日ユニオン側からの公表によりますと、この元社員の方は、解雇された平成24年3月より後にユニオンに加入したそうで、その後ユニオンが元社員の解雇を不当として書店側と団体交渉をしましたが、交渉が決裂したために(ユニオンが)平成24年の夏ころ、消費者庁へ情報を提供した、とのこと。消費者庁へ情報を提供したのはユニオンだったのですね。

そこで紛争の原因である「解雇の正当理由」ですが、書店側は「元社員がプレゼント商品を勝手に窃取したことが解雇の理由」と述べ、元社員側は「景品を窃取したことなど一切ない。解雇理由など全く存在しない。」と反論していますので、元社員の景品私物化の有無が解雇の正当理由を判断するための争点になるように思われます。毎日新聞ニュースによると、「元社員はプレゼント景品を当選者に発送せず、不法に窃取した」と解雇理由書には記載されているようなので、書店側も、このプレゼント商品の私物化ということを前提として解雇の有効性を導き出す予定だと思います。

ちなみに消費者庁が秋田書店に行政処分を下した理由とされている当選者水増しの時期は平成22年4月から平成24年5月までであり、元社員が休職していたのは平成23年9月から、解雇された平成24年3月までです。もし消費者庁が認定した水増しの発生期間に間違いがないとすれば、(元社員が会社を休んでいる間にも不正は発生していたので)上記の解雇理由書記載の解雇理由には、ほとんど説得力が欠けているように思われます。元社員の休職中にプレゼント商品の水増し表示が社内で問題となり、社内調査をしたところ、さかのぼって元社員のプレゼント商品窃取の事実が明るみになった、というストーリーでなければ書店側の主張は通らないような気がします(しかし元社員の休職中の不当な表示も問題になっているので、これも苦しいか・・・)。

本件紛争の解決のために、公益通報者保護法の要件該当性まで論点になるかどうかは今のところ不明ですが、ともかく確認しておくべきことは、元社員が公益通報者保護法で保護される要件が備わっていれば、それだけで解雇は無効となる、ということです(公益通報者保護法3条)。だからこそ秋田書店側としては「告発と解雇は全く関係がない」と主張することになります。

書店側は「不当に元社員がプレゼント商品を窃取した」と主張していますが、元社員の方は、外部告発を目的としてプレゼント商品を無断で社内から持ち出していたことが考えられます。この場合、書店側の主張するように勝手に窃取したことになりますと、窃盗罪の成立が問題となります。しかし、この点については、公益通報目的での証拠品の持ち出し、ということは窃盗罪としての犯罪行為は成立しないはずです。

その理由は、元社員がユニオンに外部告発することは公益通報者保護法第2条の公益通報に該当する可能性が高いからです。ちなみに公益通報者保護法の対象となる通報事実は、原則として違反行為について刑事罰が予定されているような犯罪事実を指しますが、当選者水増し行為(不当表示行為)には刑事罰はないものの、違反行為に関する排除措置命令に反する行為については刑事罰が規定されていますので、これも対象事実に含まれることになります(同法2条3項2号)。また、通報提供先としては「外部第三者」として労働組合も含まれると解されていますので、公益通報の通報提供先という面からも保護要件を満たす可能性が高いと思われます。

Book_110072713元社員がユニオンへ行った外部告発が公益通報者保護法上の「公益通報」に該当するのであれば、元社員の方がプレゼント商品を書店側に無断で持ち出したとしても、これは公益通報のために持ち出したことになります。したがって刑法上の窃盗罪の構成要件に該当したとしても、その違法性は阻却されます(このあたりの詳しい内容は拙著「内部告発・内部通報-その光と影-」をご参照ください)。つまり形の上では「窃取」にあたるとしても、実質的には何ら犯罪行為にはならないということですし、もちろん懲戒解雇の正当理由には該当しないことになります。もし、元社員の方が、自らの私利私欲のために告発とは無関係にプレゼント商品を持ち出したのであれば別ですが、ユニオンへの外部告発事実の正しいことを立証するために持ち出したということであれば、書店側は別の解雇理由を考えなければ解雇を正当とすることはむずかしいのではないでしょうか。

なお、これは私の個人的な推測にすぎませんが、私の内部告発代理人の経験からみますと、こういった内部告発は、元社員の方ひとりで行ったのではなく、だれか社員の中に共感者がいるのではないかと思われます。告発することを精神的に支援したり、証拠集めに協力したり、という具合に元社員の支援をしていた社員が未だ社内に存在するのではないかと考えています。そうでなければ、なかなかこれだけの企業不祥事を告発する決意を固めることはできないかもしれません。

消費者集団訴訟制度もほぼ成立することが確実となり、消費者庁としての次の目標は公益通報者保護法の改正です。まだまだ周知されていない制度であるがゆえに、公益通報制度に萎縮的な効果が出ないような運用が望まれるところです。

8月 23, 2013 内部通報制度 |

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コメント

朝日新聞にオリンパス事件に関する興味深い記事が出てますね。
http://digital.asahi.com/articles/TKY201309100029.html?ref=comkiji_txt_end

オリンパスの巨額損失隠し事件で、不正経理を雑誌記者に内部告発した同社の現役社員が、朝日新聞の取材に応じた。会社の内部通報制度の利用を考えたものの、結局あきらめざるを得なかった経緯を明かした。7年前に施行された公益通報者保護法が機能しなかった典型例で、政府内では法改正も含めた改善策の検討が進められている。
取材に応じた社員は、会社の不正経理に気づき、当初、「コンプライアンスヘルプライン」という同社の内部通報制度を使おうと思ったという。会社は、法令違反と思われる行為があれば、社のコンプライアンス室に内部通報するように社員に呼びかけていた。

 ところが、その制度を別件で利用したオリンパス社員・浜田正晴さん(52)が、畑違いの閑職に左遷されたことが09年2月末に大きく報道された。それを目にして「危ない」と思った。知人のジャーナリストに相談を持ちかけ、資料を渡すことを決意した。

投稿: 迷える会計士 | 2013年9月10日 (火) 22時42分

情報どうもありがとうございます。最近、内部告発に関する消費者庁の動きが積極的になってきましたね。おそらく、いろいろと年末にかけてまた新たな動きがあるものと思います(このあたりまでしかお話できませんが・・・・)。

投稿: toshi | 2013年9月13日 (金) 01時23分

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