企業グループ管理への関心の高まりと「会社法制の見直し要綱」
この月曜日に発売されました週刊エコノミスト8月6日号ですが、すでに賛否両論(?)で話題になっておりますように「食える弁護士、食えない弁護士」という見出しのついた「弁護士特集号」として構成されています。今年4月に税理士・会計士特集が組まれてよく売れたそうなので、「それでは弁護士も」という思惑で特集が組まれたものと思います(司法制度改革やロースクール制度などにも触れられていますが、企業法務関連の弁護士に焦点が当てられています)。
ご覧になられた方はおわかりのとおり、私も(第一人者ではありませんが)川崎重工の社長解任劇(代表者解職劇)を題材にガバナンスに関する論稿を2ページにわたって書かせていただきました。論稿を書きあげるよりも、あの「企業社会における解任劇の歴史」についての図表を作成するほうが時間を要しました。著名な金融ジャーナリストでいらっしゃる磯山さんや伊藤歩さんも、会計士ネタだけでなく弁護士ネタにもチャレンジングな論稿を書かれていますので、企業法務の世界を一般の方々に知っていただくにはよい機会だと思います。ぜひぜひご一読いただければ幸いです<m(__)m>。
ところでこの週刊エコノミストの中で、日経ビジネス弁護士ランキング1位の中村先生が2か所で登場されますが、企業グループ管理に関連する法律問題について、とてもシブいコメントを残しておられます。要約しますと・・・
このたびの会社法改正案(会社法制の見直しに関する要綱)においては、多重代表訴訟の活用場面が極めて限定的となり、企業結合に対するガバナンスは前進することがなかったように受け取られている。要は経済界の意見が通ったという評価である。しかしこれまで会社法規則だけに規定されていた「企業集団内部統制」が、会社法の条文に規定され「格上げ」されることになった。これは親会社の取締役の善管注意義務の解釈として、会社法の解釈にも影響を与えるものであるが、そのことに気が付いている人はいまだ少数にすぎない。
とのこと。また、昨日発売されました月刊監査役8月号では、法制審の会社法制部会委員でいらっしゃる荒谷先生(法政大学教授)が「親子会社法制に潜む課題」と題する論稿を発表されておられますが、その中で以下のように中村先生と同様のことを記載しておられます。要約しますと・・・
(「企業集団内部統制」が法文に格上げされたことについて)、これまで規則にあったものが法文化されるだけであり、何ら変わらない・・・との見方もあろうが、ここに至るまでの部会での審議内容及び「要綱」第2部第1(後注)の文言等を踏まえれば、親会社取締役等は内部統制システムを通じて、子会社の取締役等の不正行為や違法行為等を発見した場合には、これを是正するために必要な措置を講じる義務があることが従来に比べてより明確になったといえる。その意味で、親会社の取締役・監査役等は、善管注意義務違反に基づく代表訴訟のリスクが高くなるのではないかと予想され、実務に及ぼす影響は少なくない、と思われる。
とのことです。ご高名な先生方の論稿をご紹介した後で、偉そうな物言いでたいへん恐縮ですが、ここ2~3カ月の直近の私の講演を聴かれた方はご存じのとおり、私もPPTを用いて、グループ会社の内部統制構築は、これまでよりもハードローの面でも、ソフトローの面でもより厳格なものが問われる時代になる、と述べてきました。ハードローの面においては、中村先生や荒谷先生が指摘されている点に加え、そもそも経済界の方々も(企業結合のガバナンス規律の必要性は認めつつも)それは多重代表訴訟などを新設することではなく、親会社の取締役・監査役の責任を厳格に問えば足りるではないか・・・と主張されていたことによるものです。
また、ソフトローの面においては、法務省のテリトリー(会社法制)にダイレクトに手を突っ込むことができない金融庁の思惑があるからです。企業結合ガバナンスを強化することを目的に、最近は企業グループ全体におけるレピュテーションリスクを強調しています。子会社で不正が発生すれば、親会社の社会的評価に影響が及ぶことは2007年から8年にかけてのリーマンショックで明らかになりましたので、レピュテーションリスクへの関心は国際金融協調における新たな課題になりました。したがって、監督対象である金融機関に対しては「監査役(監査委員)との対話」を通じて、そして金融機関の信用リスクの指標となる一般の企業については、金融機関の信用リスク態勢のチェック(取引先会社のガバナンス状況を把握しているか)を通じて、企業グループ全体としてのレピュテーションに関心を強めているところだと思われます。なお、ここで注意すべきは「企業開示の適正」を目的としたものではなく、金融機関の信用リスク態勢の強化が目的とされているので、ガバナンスの強化が求められるのは上場会社に限られるわけではない、ということです。
たとえ企業集団内部統制の構築が取締役の善管注意義務として明確な法的義務ではないとしても、企業に求められる自律的行動(ソフトローの遵守)に注目し、その遵守姿勢の見えない企業をピンポイントで監視対象とする、という手法がとられる可能性があります(リスク・アプローチによる効率的監視手法)。遵守する姿勢があるかどうか・・・、これをチェックするモノサシがレピュテーションということになります。アベノミクス政策が進み、今後もますます「小さな政府」が標榜される中で、こういったソフトローによってコーポレートガバナンスの健全性が規律される傾向が強くなることは間違いないものと思いますし、このたびのカネボウ化粧品問題が親会社である花王の業績や将来戦略に大きく影響を及ぼしている事実をみても、子会社管理の重要性を再認識する次第です。
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