反トラスト法違反事件の摘発は組織の構造的欠陥に向けられる
最近、法律雑誌や新聞報道でアンチトラスト法違反事件の脅威について警鐘が鳴らされています。先日もパナソニックと三洋電機の自動車部品納入に関するシャーマン法違反事件の有罪答弁合意についてリリースされていました。法人に限っていえば、米国司法省に対する有罪答弁合意(司法取引)→民事制裁金、欧州におけるペナルティ、関係者からの民事賠償請求といった流れが延々と続くわけで、たとえばフジクラ社はついに(自動車部品関連では初の)納品先であるフォード社から懲罰的損害賠償請求訴訟を提訴されています。このような膨大なリスクは対象当事者になってみなければ、その大きさが理解できないのではないでしょうか。この大変なリーガルリスクを平時の経営者に理解してもらうにはどのような説明が効果的なのか、ちょっと私にもわかりません。私は完全な国内案件弁護士ですが、そんな私でさえ、海外不正事案の処理に関わらざるをえない時代となってきたことは脅威です。
法廷できちんと闘うのであれば米国のアンチトラスト法違反の被疑事実とは一体どんな行為なのか特定できることになります。しかし米国で価格合意等が捜査対象とされた場合に、司法取引で処理しようとするわけですが、一体どのような犯罪行為が現地で被疑事実とされているのか、日本の企業にはなかなか理解できないようです。実際に日本企業が有罪を認めてしまえば、あとは当局が後だしジャンケンで被疑事実を特定してしまうような気もします(これは私の個人的な感想にすぎませんが・・・)。一体なにが起こったのか日本の本社では詳しくわからないまま、高額な弁護士費用と高額な捜査協力費用・・・、上場会社の数年分の利益がふっとぶこともあるわけですが、ここに(分割は認められるとしても)ペナルティや損害金が上乗せされることになります。
結局のところ、アンチトラスト法違反とは、組織をひとつの不正行為者とみなして、社員の不正行為を許容している組織風土へのペナルティが課されている・・・というのが実情ではないかと。メール調査ひとつとっても、社内メールはたくさんの「CC」が付いて送られているので、一体だれが決定権限者なのか、メールを調査しただけではわかりません。だから延々と捜査協力要請が続き、英訳費用だけが膨大にかさみます。外から見て疑わしい社員の行動をマッシロだと反証できないような組織体制であれば、その体制自体がアウト。再発防止策だけでなく、ペナルティの量刑判断にもコンプライアンスプログラムの整備状況が斟酌される理由がよくわかります。
最近は有罪答弁合意に関する開示資料に、適用除外の対象となる役職員の氏名が公表されなくなったので、法人についてはホッと一息でも、役職員の個人的処罰の手続がどこまで続くのかわかりません。弁護士については現地弁護士(法人と社員は別に)、現地弁護士と日本本社をつなぐ弁護士(日本の独禁法に強い弁護士の場合が多い)、日本の体制整備や開示情報管理を担当する弁護士、といったように少なくとも三層形式で必要となるはずですし、損害賠償請求事件などが発生すれば、また新たに別途弁護士が必要になります。いずれにしても、平時から「疑われないための体制作り」をしていかなければとんでもないリーガルリスクを背負うことになります。中国も同様のリスクが顕在化しそうですし、時代は変わりつつありますね。
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