「抜かずの宝刀」金商法192条とスチュワードシップ原則
本日はあまりブログを書く時間がありませんので、最近の新聞報道から、行政の規制手法とコンプライアンスについて感じていることを一言だけ。
8月6日に第1回の日本版スチュワードシップ・コードに関する有識者懇談会が金融庁にて開催されるそうです(金融庁HPでのお知らせはこちら)。既に何度か触れていますが、スチュワードシップコード原則とは、機関投資家が資金を適切に運用する受託者責任の一環として、企業との対話を通じてコーポレート・ガバナンス(企業統治)を向上させ持続的な成長を促すための行動原則、と一般に訳されています。(たとえばロイターニュースはこちら)機関投資家の投資先ガバナンス監視の手法として、このたび官民共同でガイドラインが策定される方針だそうです。日本の企業はほとんどが真面目に経営をしているのですから、インセンティブさえあればガバナンス体制の構築は企業の自律的行動に期待できる、というのが規制する側の考え方の基礎にあるはずです。
いっぽう企業の中にはどうしようもない確信犯的行動によって国民の財産に危害を加えるところもありますので、そういった企業には不正抑止のための自律的行動は期待できません。よって金融庁としては徹底的な違法行為の防止体制と事後の厳格なペナルティで臨むことになります。厳罰は最近のインサイダー規制の厳格化、不公正取引に対する偽計取引条項の適用(金商法による刑事罰の適用)といったところであり、徹底した未然防止体制としては金商法192条の適用ということになるかと。
金商法192条の制度とは、金商法違反のおそれがあり、公益や投資家保護のために緊急の必要性が認められる場合に、裁判所が業務の差止命令(禁止命令)等を出す、という制度であり、金融庁(証券取引等監視委員会)が申し立てを行う、というものです。この制度は、対象者の救済手続きにやや問題があるために「抜かずの宝刀」と言われていましたが、最近になって6件も適用されるようになったそうです(毎日新聞ニュースはこちら)。正に悪徳業者の活動自体を防ぐための事前規制的手法ですが、平成20年の大和都市管財事件において、近畿財務局の不作為を違法とした大阪高裁の国賠事件判決が出たことも、こういった行政の積極姿勢への転換を後押ししているようです。この金商法192条による裁判所の差止命令制度について、ひところはTOBやMBOの違法性を攻撃するために、民間同士のM&Aに関する紛争解決のために行政権限の発動を促す・・・・という方向性も検討されていましたが、こういった整理をしてみると民間の紛争事案では、あまり活用されないものと思います。
規制緩和が進む中、効率的な行政を目指すのであれば、まじめな会社には自律的行動を、そしてそうでない会社には徹底した事前規制と事後規制を、というシステムは、今後金融行政だけでなく、消費者行政にも応用されていくような気がしてなりません。たとえば消費者集団訴訟制度の在り方、公益通報者保護法の改正の方針など、今後注目したいところです。
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