みずほ銀行の反社会的勢力融資と金融検査体制転換の本気度
9月27日、みずほ銀行さんは金融庁より(銀行法に基づく)業務改善命令を受け、これに対して「深く反省している。改善に向けて鋭意努力したい」と発表しておられます。業務改善命令の理由は、①反社会的勢力との取引の存在を知りつつ2年ほど放置していたこと、②そういった取引の存在が担当役員止まりとなっていて銀行として解消に向けた抜本的な対策をとっていなかったこと、だそうです(9月27日付けの金融庁リリースはこちら)。
ところで9月の上旬に日経新聞等が報じていたように、このたび金融庁の銀行検査体制が大きく変わります。従来の不良債権処理を目的とした定点的な検査から、企業への貸し出しを増やすために金融機関に一部融資先の審査を委ねる方針に検査方針が転換されます。「(融資審査ついては)金融機関の判断を尊重する」と検査方針に明記されます。今回の検査方針の転換が安倍首相のもとでの成長戦略に合わせて、成長企業への融資を増やすことに寄与することは間違いありません。
しかし、銀行が融資判断を自由にできるとなりますと、そこで問題となる点が「融資先の反社チェック」の甘さ、ということになります。当然のことながら、金融庁としては銀行の自浄能力の向上に期待することになるわけでして、今回のみずほ銀行さんに対する反社会的勢力チェックの甘さについては、まさにこのタイミングでの「金融機関に対する警鐘」としての意味が強いのではないでしょうか。とりわけ「担当役員止まり」「経営責任の明確化」という点は、ガバナンスや内部統制システムの甘さを指摘しているところであり、当局が、組織として反社会的勢力排除に向けて取り組むことを強く求めていることのあらわれかと思います。
ちなみに金銭消費貸借契約としての問題案件は合計230件、金額にして2億円程度、ということで、個々の案件はとても小さな金額です。しかし金融庁がなぜ大きく取り上げるかといえば、ひとつは反社会的勢力との癒着が極めてフィナンシャルグループのレピュテーションリスクを毀損するからということでしょう。反社勢力との接触という事実だけでも大きな信用問題となりますが、それだけではなく、反社会的勢力との接触問題はさらに多くの「二次不祥事」の温床となります。オリンパス事件において、最初に海外のマスコミが大きく取り上げて大騒ぎになったのが反社会的勢力問題だったことは記憶に新しいところです。これだけ大きく取り上げられる不祥事である以上、隠したり、裏取引をしたり、利益を供与するといった更なる不祥事につながることになります。したがって額の多少に関わらず、断絶の努力は必要になります。
それともうひとつが「公益の番人」たる銀行の地位です。規制緩和の時代が進む中で、ますます金融機関は公益性の発揮を求められることになります。たとえば口座開設時のチェックだけでなく、取引先が反社会的勢力と取引を開始しないよう監視することなどが期待されます。そういった取引先企業を監視すべき立場に立つ銀行が(しかも今回は国際決済を業務とするメガバンク)反社に寛容となってしまえば規制緩和の制度基盤が揺らいでしまうことになります。公益の番人たる金融機関には、一般企業以上に厳格な反社会的勢力排除のための体制整備が求められます。
反社会的勢力との癒着問題は、(一般的に)社内における自由な情報流通の確保と情報管理の厳格性という二つのジレンマと戦う経営判断が求められることになります。また、反社問題特有の「担当役員止まり」といった、明らかに会社法違反(たとえば会社法357条2項違反)が認められることから、役員らの法的な責任も問題になります。いろいろと本件でも検討すべき法律問題がありそうですが、まずなんといっても、今回の業務改善命令の発出は、金融検査体制の転換は、単純に金融機関に甘いものではなく、金融機関に自浄能力を強く求める、という厳しい面もあることを示したものとして留意すべきではないかと考えます。
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