« 「社外取締役ガイドライン」の解説本が出ました(商事法務) | トップページ | 監査役の監査法人品質チェックと金商法24条の4(虚偽開示責任) »

2013年9月30日 (月)

みずほ銀行の反社会的勢力融資と金融検査体制転換の本気度

9月27日、みずほ銀行さんは金融庁より(銀行法に基づく)業務改善命令を受け、これに対して「深く反省している。改善に向けて鋭意努力したい」と発表しておられます。業務改善命令の理由は、①反社会的勢力との取引の存在を知りつつ2年ほど放置していたこと、②そういった取引の存在が担当役員止まりとなっていて銀行として解消に向けた抜本的な対策をとっていなかったこと、だそうです(9月27日付けの金融庁リリースはこちら)。

ところで9月の上旬に日経新聞等が報じていたように、このたび金融庁の銀行検査体制が大きく変わります。従来の不良債権処理を目的とした定点的な検査から、企業への貸し出しを増やすために金融機関に一部融資先の審査を委ねる方針に検査方針が転換されます。「(融資審査ついては)金融機関の判断を尊重する」と検査方針に明記されます。今回の検査方針の転換が安倍首相のもとでの成長戦略に合わせて、成長企業への融資を増やすことに寄与することは間違いありません。

しかし、銀行が融資判断を自由にできるとなりますと、そこで問題となる点が「融資先の反社チェック」の甘さ、ということになります。当然のことながら、金融庁としては銀行の自浄能力の向上に期待することになるわけでして、今回のみずほ銀行さんに対する反社会的勢力チェックの甘さについては、まさにこのタイミングでの「金融機関に対する警鐘」としての意味が強いのではないでしょうか。とりわけ「担当役員止まり」「経営責任の明確化」という点は、ガバナンスや内部統制システムの甘さを指摘しているところであり、当局が、組織として反社会的勢力排除に向けて取り組むことを強く求めていることのあらわれかと思います。

ちなみに金銭消費貸借契約としての問題案件は合計230件、金額にして2億円程度、ということで、個々の案件はとても小さな金額です。しかし金融庁がなぜ大きく取り上げるかといえば、ひとつは反社会的勢力との癒着が極めてフィナンシャルグループのレピュテーションリスクを毀損するからということでしょう。反社勢力との接触という事実だけでも大きな信用問題となりますが、それだけではなく、反社会的勢力との接触問題はさらに多くの「二次不祥事」の温床となります。オリンパス事件において、最初に海外のマスコミが大きく取り上げて大騒ぎになったのが反社会的勢力問題だったことは記憶に新しいところです。これだけ大きく取り上げられる不祥事である以上、隠したり、裏取引をしたり、利益を供与するといった更なる不祥事につながることになります。したがって額の多少に関わらず、断絶の努力は必要になります。

それともうひとつが「公益の番人」たる銀行の地位です。規制緩和の時代が進む中で、ますます金融機関は公益性の発揮を求められることになります。たとえば口座開設時のチェックだけでなく、取引先が反社会的勢力と取引を開始しないよう監視することなどが期待されます。そういった取引先企業を監視すべき立場に立つ銀行が(しかも今回は国際決済を業務とするメガバンク)反社に寛容となってしまえば規制緩和の制度基盤が揺らいでしまうことになります。公益の番人たる金融機関には、一般企業以上に厳格な反社会的勢力排除のための体制整備が求められます。

反社会的勢力との癒着問題は、(一般的に)社内における自由な情報流通の確保と情報管理の厳格性という二つのジレンマと戦う経営判断が求められることになります。また、反社問題特有の「担当役員止まり」といった、明らかに会社法違反(たとえば会社法357条2項違反)が認められることから、役員らの法的な責任も問題になります。いろいろと本件でも検討すべき法律問題がありそうですが、まずなんといっても、今回の業務改善命令の発出は、金融検査体制の転換は、単純に金融機関に甘いものではなく、金融機関に自浄能力を強く求める、という厳しい面もあることを示したものとして留意すべきではないかと考えます。

|

« 「社外取締役ガイドライン」の解説本が出ました(商事法務) | トップページ | 監査役の監査法人品質チェックと金商法24条の4(虚偽開示責任) »

コメント

反社会的勢力の排除に関する状況、特に行政の態度については、正直いって如何なものかと思います。
反社会的勢力の排除について、確かに国家権力による強制のみで達成できるものではないのは事実ですが、民事ベースで解決を図らせることを企業に義務付け、しかも排除するべき反社会的勢力自体は、事の性質上止むを得ないとはいえ、外延が不明瞭であり、後だしじゃんけん的な要素が強くあります。

レピテーションの毀損にしたところで、そもそも、その毀損を拡大させているのが監督官庁ではないか、という皮肉めいた見方すらできるかと思います。勿論、みずほが放置した点については擁護の余地はないのですが、レピテーショナルなリスクを言われると、行政が公表しなければ別に発生しないでしょ、とも言いたくなります。

こう批判めいたことを書きたくなるのは、反社会的勢力との隔絶というのは、単に企業に義務付ければ良いというものではなく、法体系・法制度といった点で整理も付けられず、碌な判断基準、碌な武器もないままに押し付けられているといった感が、特に現場においては強いからです。

特に反社会的勢力の認定については、一見明白な暴力団構成員などではなく、末端者になればなるほど、難しい判断を迫られますし、その判断の巧拙については、行政、いや司法すら、結局は自己責任になっています。
前科者の取扱いや、逮捕報道だけが記録され後追い報道のない場合の取扱い、そもそも反社会的勢力自体の人権問題など、クリアするべき点は多々あるなかで、実務だけが先行する警察庁のやり方には、疑問が多くあるところです。

投稿: 場末のコンプライアンス | 2013年9月30日 (月) 11時34分

今回の公表は見せしめのように思えますが、見方によってはこれが事後規制社会のやり方なのかもしれません。

投稿: 倫理オタク | 2013年9月30日 (月) 20時21分

場末のコンプライアンスさん、倫理オタクさん、コメントありがとうございます。場末のコンプライアンスさんは、意見がブレませんね(笑)本日の読売朝刊に私の(顔写真付きで)意見が掲載されておりますので、またお時間がございましたら参考にしていただければと。

投稿: toshi | 2013年10月 3日 (木) 09時52分

みずほFGが担当役員までしか報告はあがっておらず頭取は知らなかったという当初の説明を覆し、当時の頭取(と現在の頭取)も知っていたことを認めました。現時点での報道を見る限り、この件は単なる不祥事から、経営トップの関与を組織的に隠蔽しようとした「不祥事隠し」に発展してしまったように思えます。
記者会見によれば取締役会で報告をされていたということですから、取締役会議事録を確認されれば一発でばれるような「嘘」をなぜついたのかが気になります。

#すみません、カネボウの記事に間違って投稿してしまいました。

投稿: ty | 2013年10月 8日 (火) 19時08分

ご意見ありがとうございます。ご指摘のとおり、焦点は①頭取が認識していたのかどうか、②かりに認識していなかったとして、認識することは容易だったのかどうか、という点に絞られてきたものと思います。第三者委員会も、こういった点に調査目的を絞らないと、28日までに報告書を提出することはできないのではないか、と思いますが、いかがでしょうかね。

投稿: toshi | 2013年10月15日 (火) 01時34分

本件では株主から提訴請求がなされ、代表訴訟が予想される展開になってきていますが、報道を見る限り、監査役は損害賠償請求の対象になっていないようです。ただ、取締役会に報告がなされていたのであれば、監査役も「知りうる立場」にあったということになるはずです。この場合、同じように「知りうる立場」にあった取締役と監査役の責任には違いがあるのでしょうか。考えてみてもよく分かりません。toshi先生はどうお考えでしょう。

投稿: 駆け出し監査役 | 2013年10月25日 (金) 12時11分

駆け出し監査役さん、ご意見ありがとうございます。私もまったく同じ疑問を抱いています。ところが新聞をくまなく読んでみても、監査役は何をしていたのか?という批判が全く出てきません。取締役会の無機能であったことは批判されていますが、監査役というのは批判されないのでしょうかね。責任という意味においてはほとんど変わらないと思います。ただ、残念ながらそれだけ世間では(いまでも)監査役制度への関心がないのでは・・・と考えてしまいます。

投稿: toshi | 2013年10月27日 (日) 00時16分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: みずほ銀行の反社会的勢力融資と金融検査体制転換の本気度:

« 「社外取締役ガイドライン」の解説本が出ました(商事法務) | トップページ | 監査役の監査法人品質チェックと金商法24条の4(虚偽開示責任) »