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2013年9月 2日 (月)

「内部統制」への関心がふたたび高まる時代が到来

拙ブログも立ち上げから8年半が経過しましたが、その間に内部統制ブームが到来しました。2006年から2009年ころ、いわゆるJ-SOX(金商法上の内部統制報告制度)の施行前後の時期でした。しかしながら、最近はめっきりJ-SOXに関連する話題が登場することもなくなり、制度の簡素化ということも検討されています。

しかし20年ぶりのCOSO報告書の全面改訂、リーマンショック以降の世界の企業観や規制手法の変遷、そして安倍内閣による成長戦略の方針といった企業を取り巻く経営環境のなかで、ふたたび「内部統制の時代」が到来しつつあります。アメリカの規制改革の影響を受けていることは事実ですが、私はどうも我が国における行政による規制手法の変遷によるところが大きいものと考えています。

ひとつめは国税庁が今年から大企業向けに進めている「税務に関するコーポレートガバナンス充実に向けた取り組み」ですね。詳しいことは、税務に詳しい大手法律事務所さんの広報にお任せすることにしますが、企業の税務に関する内部統制を整備することによって税務調査が減免される(調査間隔が広くなる)、というのはインセンティブとしては大きいはずです。税務調査に関する説明責任などの問題もあるため、サポートする側にとってもビジネスになります。大手の監査法人さんも法律事務所を開設するところが出てくるようですが、こういった税務コンプライアンスも弁護士のビジネス領域になる、というところかと。

ふたつめは8月9日に施行された東京証券取引所の有価証券上場規則の改訂です。粉飾決算の疑いが強い企業に対して、監査法人は「おかしい」(不適正意見、意見不表明)と、監査報告を出しやすいようにするための取引所ルールが改訂されました。不適正意見が出たらすぐに上場廃止になるのではなく、原則として特設注意市場銘柄に指定され、そこで上場廃止にすべきかどうか、慎重に取引所が判断する、というもの。指定された企業の内部管理体制が有効か否かによって上場廃止か上場維持かが決まるわけですが、これまで3年だった審査期間が1年に短縮されました。つまり目に見える形で内部統制が変わらなければ廃止になってしまう可能性が高いということです。東証は指定銘柄については、救済措置ではない(つまり厳格に運用していく)と述べているので、まさに内部統制の構築が重点項目とされます。

そしてみっつめは消費者庁の動向です。消費者庁にとって、今回の「まだら美白問題」は相当にショックな出来事だったようです。消費者集団訴訟制度の策定がひと段落となった今、つぎの消費者制度としては企業コンプライアンスの向上による消費者被害の防止ということになりそうで、消費者の声、社員の声を企業コンプライアンスの向上にどう生かすか、というところが焦点になろうかと。当然のことながら、公益通報者保護法や企業の内部通報制度の制度運用に関心が向くことになるので、こういった施策に熱心な企業に対して何らかのインセンティブを付与する方向性もありうるかと(これはあくまでも私の推測ですが・・・)。

最後になりますが、不正リスク対応監査基準の施行によって、内部統制報告制度(J-SOX)の評価方法が見直されることもありますね。株主が短期的利益よりも持続的成長を重視するようになったことから、株主エンゲージメント(企業と株主との対話)が中心となってきた上場会社と株主との関係にとって、リスク管理の方法も株主の対話項目のひとつになりました。経営者と監査人とのコミュニケーションツールとして内部統制報告制度が活用されるようになることが予想されます。

企業の自助努力(内部統制)を活用したい行政当局のホンネとタテマエの内容、さらに、行政当局では、どういったインセンティブが考えられているか、といったことは追って検討していきたいと思います。また、本日は、とりあえず項目だけを列挙しただけですが、今後ふたたび内部統制関連のテーマが登場するときに、それぞれの項目について詳説していく予定です。最後になりますが、本文中で意見にわたる部分は私個人の意見にすぎず、どこかから公表されたものではないことを申し添えます。

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コメント

国税庁は,大企業についてはリリースを出していますが,その一方で,中小法人に対する税務調査は,もっぱら国税庁側の都合――調査官の不足と改正国税通則法により調査手続きが煩雑になったこと――により,3年に1回程度だったものが5年に1回になるのではないかといわれています。問題は5年間,証憑書類を整理して保存し,かつ,5年も前の取引内容を経営者や経理担当者が記憶しておけるかという点で,ちょっと心配しています。

投稿: Tenpoint | 2013年9月 3日 (火) 12時51分

お久しぶりです。コメントありがとうございます。なるほど、良い面ばかりではなく、調査を受ける側にも、それなりの負担はあるということなのですね。それにしても、税務コンプライアンスに関する実務、これからいろいろと話題になりそうですね。

投稿: toshi | 2013年9月 4日 (水) 10時30分

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