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2013年9月 4日 (水)

公表前のリコール決定の事実は、どこまで知らせておくべきか?

相変わらず不適切写真投稿に関する騒動のニュースが続いているようで、王将フードサービスさんも2件続けて不適切写真騒動に関する事件を公表し謝罪しています(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。しかしこれまでの投稿写真騒動と今回の王将さんの例では少し様子が違いますね。これまでは、投稿写真がすでに世間で騒がれた後に会社側が認識し、謝罪をするというパターンでしたが、今回の王将さんの2例は、いずれも騒ぎが大きくなる前に会社側が社内調査や通報によって把握し、騒動になる前に公表した、というものです。いわゆる「自浄能力」が発揮された事例と言えそうでして、これからは、騒ぎになる前に会社側で用意周到に調査をして、その後公表する・・・というパターンも増えるかもしれませんね。

さて、ここからが本題ですが、ひさしぶりのカネボウ「まだら美白」事件に関する話題です。本日(9月3日)の産経新聞ニュースによりますと、カネボウ社は、対象化粧品の回収を幹部会で決定した後、1週間ほど、販売店には何も知らせずに対象化粧品の出荷を継続していたそうです(産経新聞ニュースはこちらです)。つまりこの1週間の間にも、まだら美白の被害者が増えていた可能性があるということで、消費者庁幹部も「消費者を裏切る行為ではないか」と述べている、とのこと。なぜ販売店に速やかに知らせなかったのか、という点について、カネボウ社側は「決定後、苦情窓口体制を整備しなければならず、その間に情報が出回ってしまうと混乱を生じさせるおそれがあったため」と弁明されているようです。

リコール対応という企業の有事において、このリコール決定後に(公表までに)誰にどこまでの決定事実を知らせておくべきか・・・という点は本当に難しい判断です。被害が拡大するおそれがない場合には、決定後に対応が万全に整ってから関係者に事前通知をする、ということも考えられますが、今回は被害拡大のおそれが十分にあった中での発送停止や事前通知が問題となっており、消費者庁の批判もゴモットモかと思います。

一方で、公表すべき内容も明確にならない状況の中で関係者への事前通知を行う、ということは、関係者によるインサイダー取引等を助長することになります。社内や取引先に不幸な犯罪を発生させたくないとすれば、「混乱を避けるために」できるだけ公表内容が明確になってから(関係者にも)公表したいと考える企業側の対応も、なんとなくわかる気がします。ただ、混乱が生じるおそれはあったとしても、被害拡大の可能性が高い中で、カネボウ社が公表すると同時に販売店が対応できるような仕組みにしておく必要性は高いはずです。美白化粧品を購入した顧客の方々が、販売店に問い合わせる可能性のほうが本社に問い合わせる可能性よりも高いわけで、そちらの「混乱」のほうがより重大ではないでしょうか。

ちなみに私がリコール対応を経験したときには、公表と同時に販売店さんにも顧客説明に協力していただくことが不可欠だと判断し、販売店さんに事前通知をすることに決めました。情報の拡散を極力防止し、かつ各販売店さんに漏れなく正確な情報が届くように、メーカーの販売統括責任者から、全国の販売店の店主会会長さんあてに事前連絡をしてもらい、これが販売店さんの公表後の対応(顧客対応および販売店のメーカーに対する苦情対応)にとても有用でした。ふだんからの会社と販売代理店との信頼関係の構築が、いざというときに役に立った好例でした。新聞で報じられているところだけの情報しか知りませんので、もっと他にカネボウ社が斟酌すべき事情があったのかもしれませんが、公表に至るまで販売店に事前通知をしなかったというカネボウ社の対応については、どのようなバランス感覚での判断であったのか、どうしても疑義が残るところです。

ところで、最近のカネボウ社の事件報道を読んで気になるのが、カネボウ社はこの「まだら美白」被害について公表をした当初、ここまで被害が拡大するリスクについて、どれほど認識していたのだろうか・・・ということです。今回の事前通知の遅れに関する報道を読んでいても、それほどの重大な事件であるという認識が当初あったのかどうか、少し疑問を感じました。このあたり、これから明らかにしてほしいところです。

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コメント

カネボウ化粧品という一企業の問題ではなく、背景には構造的な問題があると考えられます。

一点目は、医薬部外品の副作用情報の問題です。
8月25日現在の被害者数は8678人ですが、化粧品の利用者は25万人といわれており、8678人のうち会社の相談した人数は39人とごく一部となっています。このことは化粧品に副作用が生じた場合に、その情報が会社に集まりにくいことを示しています。
利用者は、単なる肌トラブルと考えて副作用とは認識しないケースが多く、メーカーに直接相談する場合が少ないことが考えられます。
薬事法では、医薬部外品の副作用についてはメーカーの厚労省への報告は義務付られていますが、医師については医薬品と違い依頼に留まっています。そのため、利用者が医師を受診して化粧品の副作用が疑われた場合であっても、医師からメーカーへの連絡はあまりなされなかったのでしょうか。
さらに、利用者が国民生活センター等に相談してケースもあったようですので、そこからメーカーへの報告のルール作りも課題となるでしょう。

二点目医薬部外品の承認の問題です。
郷原先生のブログ(http://nobuogohara.wordpress.com/2013/08/09/%e3%80%8c%e3%82%ab%e3%83%8d%e3%83%9c%e3%82%a6%e7%be%8e%e7%99%bd%e5%8c%96%e7%b2%a7%e5%93%81%e3%80%8d%e3%80%81%e3%81%aa%e3%81%9c%e3%81%8b%e8%a9%b1%e9%a1%8c%e3%81%ab%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%aa%e3%81%84/)で知りましたが、厚労省の審議会の議事録が閲覧できますが、これを読んでみると、臨床試験では329例で実施され、高濃度の試験も実施されています。化粧品では併用されるのが通常の用法・用量であるとすると、329例のうち高濃度での試験が何例あるかが問題となります。この点について、9月2日のNHKクローズアップ現代によると、①2倍の濃度のケース②2種類の化粧品を併用するケースで、それぞれ10数件であると報じていますので、大部分の例は一種類の化粧品を使用していたことが判ります。もし通常の使用法として、併用を前提として329例をすべてこの前提で臨床試験を行っていれば、副作用を発見できた可能性があります。

承認後2年間は事後的調査が行われますが、そこで問題がなかったことからロドネロールを使用した化粧品がシリーズ化され、3種類以上の化粧品が併用されるケースが増加して、被害が拡大していったと考えられます。
(多量使用すると被害の頻度が増加すると専門家は判断しています。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2013082902000146.html)

今回ケースの臨床試験による安全性の確認は、1種類の化粧品を使用する場合の承認と考えるべきで(2種類併用の場合ではサンプル数が不十分)、3種類以上の併用が想定される場合には、新たな承認手続が必要とすべきでしょう。

会社の問題点としては、臨床試験の結果(実質的には1種類の化粧品使用の場合の安全性の確認)を過信して、化粧品の併用リスクを過少評価したことにあったと思われます。

投稿: 迷える会計士 | 2013年9月 7日 (土) 19時07分

迷える会計士さん、詳細なコメントありがとうございます。コメントというよりも、新たな情報のご提供ですね。本日もカネボウ社より新しい情報がリリースされました。ご趣旨を反映した新たなエントリーをまた書かせていただきます。厚労省と消費者庁との管轄などの問題も生じているみたいですし。

投稿: toshi | 2013年9月 9日 (月) 22時41分

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