JR北海道の安全管理体制と「ほうれんそう」の極意
(9月25日午前 追記あり)
まだ調査結果も報告されていないので、貨物列車脱線事故の調査過程で発覚したレール幅修正放置に関する安全管理問題について、一言だけ感想を述べておきたいと思います。こういった不祥事が発覚すると、現場における人為ミスとして処理されることが多いのですが、今回はどうも経営体質に問題がある、と言われています。JR北海道社側の発表では、上司や補修責任者への連絡や報告体制に問題があったとのこと。つまり経営幹部は知っていながら放置していたわけではない、との弁明です(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。
私が社外取締役を務めている不動産建設・管理会社の元社長である三鍋伊佐雄氏が今月「弱者が勝つ戦略」(2013年9月4日発売 PHP研究所 1260円)というビジネス書を出版されました。この本の中で、三鍋氏は「報連相(ほうれんそう)」の極意について語っています。「ほうれんそう(報告、連絡、相談の徹底を図ること)」とはなんと上司の傲慢な言い方だろうか、上司が欲しい情報など、ルール化して部下に求めてみたところで、自分に都合の悪い情報を正確に報告してくるわけなどない、俺は聞いてないぞ、というのは、自分が部下に(何を報告すべきなのか)きちんと伝えていない証拠である、というもの。「あれはどうなったのか」と、タイムリーに上司が部下に尋ねる努力は情報共有には欠かせないとされています。
私も全く同感です。ほうれんそう、というのは情報共有の3原則が成立する上での話です。情報共有の3原則とは、①情報の送り手と受け手の間で、「何を伝えるのか」という情報選択に関する合意があること、②選択された情報について、その重要性の優先順位についての合意があること、③発信主義ではなく、到達主義による確認を怠らないことです。安全に関する情報共有は重要でありますが、なんでもかんでも共有するわけにもいかないので、平時のリスク管理として、上記の3原則程度は励行することで、とりあえずリスクを最小限度に抑えておく必要があります。
サービスの安全性確保のための「ほうれんそう」なので、単純に補修していたものと思っていた、は通用しません。もし形として「ほうれんそう」の体制が整備されていたとしても、報告がされていない場合には、経営者の側から「安全管理体制の運用」についてはきちんと報告を求めていなければ「ほうれんそう」は有効に機能しないはずです。JR北海道が赤字体質であり、北海道の周辺地域における安全管理の人的・物的資源に限界があったとすれば、なおさら経営陣による「ほうれんそう」の率先垂範が求められたはずです。おそらく経営体質が問題視されるのであれば、それは経営者の不作為による法的責任と密接に関わります。
安全管理体制の確保を怠った場合の経営者の責任は、すでにパロマ工業元社長刑事判決(確定)でも明らかです。安全確保に関する経営事項については、「予算が足りなかった」という言訳は通用しません。なぜなら人を危険に晒しながら事業を続けるような企業は社会と共生できないからです。要は、少しの努力で重大事故を未然に防止することができたのに、その努力を怠った、という点に経営者の帰責性の根拠があります(したがって、27日に神戸地裁判決が予定されているJR西日本の歴代社長の方々にとっては、福知山線事故の現場付近にATSを設置することが容易に予見できたかどうかが争点となります)。今回のJR北海道の経営陣にとっても、先の「ほうれんそう不足」も、少しの努力によって報告を受けることが可能だったのであり、もし報告を受けていれば、ヒヤリ・ハット事例を集積することができますので、問題が多い保線区から重点的に補修できたものと思われます。
以上は、未だ調査結果が出ていない段階なので、会社側の説明を信頼したうえでの感想です。しかし、最後にもうひとつだけ感想めいたものですが、社内ルール違反の放置が特定保線区に集中していた、という点は、単純に「ほうれんそう不足」で説明できるものではないと考えています(ほうれんそう不足であれば、全保線区で均等に社内ルール違反が認められる可能性が高いと思います)。なぜ、特定保線区(北海道のかなり周辺地域に集中しているようですが)だけにルール違反が放置されていたのか、それはもっと会社内部における人間力学のようなものが原因ではないでしょうか(たとえば「ほうれんそう」の励行を口に出せなかった事情等)。元社長さんが事故を苦に自ら命を落とした事件のときにも感じたところです。このあたりの不祥事体質(不祥事を発生させてしまう企業風土)は今後の社内調査できちんと理屈が通る形で説明してほしいと思います。※1
※1・・・原稿を書いていたところ、日経新聞の新しいニュースに触れました。そこでは旧国鉄時代からの労使問題が背景にあるのでは・・・といった原因分析が出ていました。しかし労使問題が安全性軽視の社内風土を形成しているということはあってはならないことだと思いますが、こういった(たとえば長年のねじれた労使関係のような)人間力学こそ本当の原因ではないかと私も想像しています。
(9月25日午前:追記)
今朝のニュースを視ておりましたら、更なる基準違反箇所が170か所も見つかり、とんでもない数字になっちゃってます。国交省は経営陣の事情聴取を開始するように報じられています。本当に「ほうれんそう」が原因だったのか、それともほかに主たる原因があるのか、きちんと究明していただきたいと思います。やはり人間力学が原因ということになりそうな気配です。
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