本日のエントリーについて念のため申し上げますが、以下は特定企業の役員の行動を批判するものではなく、あくまでも制度の在り方について焦点をあてる目的での記述であることにご留意ください。
ご承知のとおり、みずほ銀行の反社会的勢力不正融資問題について、本日(10月28日)第三者委員会報告書が公表され、みずほ銀行より「業務改善計画の提出について」と題する文書がリリースされました。土日の休みなく委員および補佐の方々が調査業務を尽くされたことに敬意を表します。また、そのご尽力が報告書に凝縮されていることがわかります。第三者委員会報告書および改善計画書を読み、私自身も提携ローンのスキームをはじめ、いろいろと勉強させていただきました。とくに、みずほ銀行とオリコとの(問題解消に向けての)やりとりを報告書で読む中で、みずほが(マスコミで報道されているような)問題を放置していた、というわけではない、ということも理解できました。しかし、どうしても解せない点だけを「素朴な疑問」として掲げさせていただきます。
このたびの不正融資問題(オリコを保証会社とする販売提携ローンについて、不芳属性の人たちを相手方として金銭消費貸借契約を締結してしまった件)をみずほ首脳の人たちが知ることになるのは銀行やFGの取締役会に報告された時点だそうです。その報告された取締役会には、いずれにも多数の監査役さんが出席していたことが報告書に記されています。
反社会的勢力への不正融資問題は、銀行の法令遵守態勢に関する点において、取締役の善管注意義務に深く関わる法律問題です。つまり監査役さん方の監査の対象となります。ところが、第三者委員会報告書のどこを読んでも、また改善計画書のどこを眺めても、FGや銀行の監査役さん方がどのような行動をとったのか、また監査役のどこに問題があったのか、今後、監査役は反社会的勢力排除の課題にどう対応すべきなのか、ということが一切出てきません。また、どこにも監査役について問題点が取り上げられていないことの結果でしょうか、関係者が多数処分されているにもかかわらず、FGおよび銀行の監査役さん方は処分の対象にはなっていないようです。
これは一体どういうことなのでしょうか?金融庁は、わざわざ検査重点項目として「監査役との対話」を掲げ、監査役さん方に公益の番人としての活躍を期待しているところだと思います。ましてやメガバンク・・・ということですから、その監査役は「公益中の公益の番人」のはずです。しかしながら、第三者委員による聴取対象者リストには、元常勤監査役の方2名の聴取はあったものの、現役の監査役さん方からの聴取は一切出てきません。これは「監査役には法令遵守態勢の整備および運用のチェックなどはできっこないし、そもそも期待していない」ということなのでしょうか?そうだとすれば、モニタリングの要である監査役制度が金融機関において軽視されていることを象徴するものであり、とても悲しい気持ちになります。
それとも監査役は取締役の善管注意義務違反の有無をチェックする立場にあり、なおかつ独任制の機関なので、監査役の意見を聴取すると、取締役の法的責任論に深入りすることになりますので、第三者委員会としては、これを回避したのでしょうか。現在、みずほFGの個人株主からFG監査役の方々には提訴請求が通知されています。つまり、このままいきますと株主代表訴訟が提起されることになります。そこで、本件報告書については、そういった関係者の法的責任に影響を及ぼすような事実や判断については明確な物言いはしない、ということなのでしょうか。
あるいは(これは穿った見方ですが)金融検査の重点項目である「監査役との対話」が功を奏して、監査役のどなたかの口から、金融庁検査官に対して「当グループでは、このような問題がある」ということが伝えられ、その結果として金融検査で発覚したのでしょうか。監査見逃しに関する社内処分も問われていないというのは、何か事件発覚に監査役が貢献されたのでしょうか。もしそうであるならば、私の本日のエントリーは全く的外れ・・・ということになりますが。
銀行の改善計画書によれば、銀行に社外取締役を導入するとのことで、ガバナンス、コンプライアンス、危機管理に精通した外部有識者の就任を予定しているそうです。しかし企業価値向上や経営者業績の評価という社外取締役選任の一般的な理由ではなく、ガバナンス、コンプライアンス経営の向上という理由からであるならば、社外取締役を選任する前に、現在の監査役制度をどうするのかを先に議論することが求められるはずです。第三者委員会報告書の中に、今回の事件の原因として「役員の退任・異動による引き継ぎの不備」というものが掲げられていますが、そうであればなおさら、任期が長くかつ身分が保障されている監査役が機能していれば、このような問題は早期に解決できたのではないでしょうか。
本来、スピード経営が求められる銀行において、経営陣がリスク管理に割くことができる時間は限られていると思います(これは持株会社の役員でも同じかと)。とりわけ問題となっていた時期に、システム障害という、反社会的勢力問題と同じくらい大きな信用問題のほうに経営陣が注力していたわけですから、思考経済の上でどこかに隙ができていたとしても不自然ではありません。しかし監査役はそういった経営陣の「知見優先による思考回路」とは異なる判断が可能であり、また求められているはずです。立ち止まって、金融機関における反社リスクの大きさを改めて取締役の人たちに認識させ、別の思考回路で問題解決を図るべきことを示さなければならなかったのではないでしょうか。
委員会報告書によると、本件の提携ローン問題に関する資料がFGの取締役会に提出された際、ひとりの社外取締役の方が、FGの取締役会で反社会的勢力排除システムについて質問をされたそうです。社外役員としては、決して見過ごすことができな問題だったはずです。同じ非業務執行役員である監査役の方々は、そこで一体何を言い、監査役会ではどのように意見形成をしていったのか、そのあたりが浮かび上がらなければ今後の法令遵守態勢がどのように整備されたとしても、また同じことの繰り返しになるように思えます。
そもそも、反社問題は法律問題だけでなく、企業倫理に関する問題を含んでいます。なぜ反社会的勢力というだけで人権が侵害されるのか、憲法上のグレーな課題が法律上はつきまとっています。しかし反社への利益供与は間違いなく社会における不正を助長することにつながるものであり、企業倫理として許容できないものです。貸付の原資は預金だからといって、最大回収率を優先し、反社への利益供与が「正常債権」であるかぎりは目をつぶるという「法律チック」な解決に説得力が乏しいのは、倫理問題(企業の品位問題)があるからです。企業倫理に関わる問題に監査役はどこまで関与するのか、それはコンプライアンス委員会の判断に任せておけばよいのか、それとも法律問題を超えて、企業倫理の問題にも監査役は積極的に関与しなければならないのか、そのあたりが明確にされなければならないと考えています。
反社問題は企業の品位に関わるのです。報告書を読むと、銀行は二度も弁護士から法律意見書を受領し、それをもって可としています。いくら法律意見書をとっても、それは役員個人の善管注意義務に関わる問題のクリアであり、企業の品位に関わる倫理問題をクリアしたわけではありません。これが、知見による思考回路とは異なる思考回路による判断が求められる理由です。このたびのことをきっかけとして、経済同友会でも社外取締役の導入義務化に賛同する意見が出されるものとマスコミで報じられていますが、社外取締役制度の義務化の前に、現在の監査役制度の在り方についても、きちんと議論されることを期待いたします。