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2013年10月31日 (木)

阪急阪神ホテルズはなぜ第三者委員会を設置しなかったのか?

先日、阪急阪神ホテルズ社のメニュー偽装(誤表示?)事件についてコメントさせていただき、最後に「このまま二次不祥事が発生しなければ収束に向かうのではないか」と(期待をこめて)述べましたが、残念ながら「内部告発によってリッツカールトンホテルにおけるメニュー偽装が発覚」という二次不祥事が発生してしまいました。その後の流れは、すでに皆様ご承知のとおりです。ひょっとすると、社長会見の際、判明していた事実をすべて公表しなかったことが「二次不祥事」であり、その結果として(憤った社員による)内部告発を招いたのかもしれません。

これは素朴な疑問ですが、阪急阪神ホテルズ社は、どうして第三者委員会を設置しなかったのでしょうか。たとえばなぜメニューと食材の不一致が生じたのか、その発生原因を調査する、といった内容で、行政当局による調査とは別に行う、というものです。社長さんが謝罪や説明のための会見を開いた時点で、いろいろと釈明するよりも、1カ月間ほど第三者委員会に調査を委ねて、それまでは一切コメントしないとしたほうが、よっぽどグループとしての企業価値を毀損しないで済んだのではないでしょうか。また、偽装か誤表示かという問題も、第三者委員会の判断にゆだねて、その結果を待って謝罪をすれば結果が変わっていたと思うのですが。

行政当局の調査が進んでいたために、もはや任意に第三者委員会に調査を委ねることができなかった、というのが理由であれば、先日のコメントで述べたように、そもそも行政当局への事実報告の巧拙が、こういった事件では重要であることが再認識されるところです。また、会社側で第三者委員会の設置を検討してみたものの、委員候補者との事前折衝の末に、これはとても設置できないとの判断に至ったとすれば危機対応としては若干問題があるように思います。

もちろん、第三者委員会はCSRの思想により、ステークホルダーへの説明責任を尽くすために設置されるわけですが、事実上は企業のリスク管理(危機管理)としても有用な面はあるはずです。阪急阪神ホテルズ社としては、第三者委員会を設置することで、冷静に第三者の意見に耳を傾ける時間的余裕もできたと思うのですが、そういった第三者の意見を聴くだけの余裕すらなかったのでしょうか。そのあたりに「社内の常識→世間の非常識」の認識を欠いてしまった原因があったのかもしれません。

今回のメニュー偽装事件の一連の流れをみて感じたことは、①子会社不正は親会社の企業価値を毀損する、②ブランド企業であるがゆえに、その不正は大きく報道され、企業価値の毀損度が大きい、ということです。本日あたりから、全国のレストランやホテルで自主的にメニュー偽装を公表するところが増えています。しかし、いちおうマスコミでも報じられてはいるのですが、ほとんど不祥事として大きく話題になることはありません。阪急阪神ホテルズという関西の名門企業による不正だからこそ「企業の品位を害する行為」として大きく取り上げらたことがよくわかります。ブランド戦略とコンプライアンスは表裏一体の関係であることの象徴的な出来事だと感じます。

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2013年10月29日 (火)

みずほ反社会的勢力融資問題-なぜ監査役は蚊帳の外?

本日のエントリーについて念のため申し上げますが、以下は特定企業の役員の行動を批判するものではなく、あくまでも制度の在り方について焦点をあてる目的での記述であることにご留意ください。

ご承知のとおり、みずほ銀行の反社会的勢力不正融資問題について、本日(10月28日)第三者委員会報告書が公表され、みずほ銀行より「業務改善計画の提出について」と題する文書がリリースされました。土日の休みなく委員および補佐の方々が調査業務を尽くされたことに敬意を表します。また、そのご尽力が報告書に凝縮されていることがわかります。第三者委員会報告書および改善計画書を読み、私自身も提携ローンのスキームをはじめ、いろいろと勉強させていただきました。とくに、みずほ銀行とオリコとの(問題解消に向けての)やりとりを報告書で読む中で、みずほが(マスコミで報道されているような)問題を放置していた、というわけではない、ということも理解できました。しかし、どうしても解せない点だけを「素朴な疑問」として掲げさせていただきます。

このたびの不正融資問題(オリコを保証会社とする販売提携ローンについて、不芳属性の人たちを相手方として金銭消費貸借契約を締結してしまった件)をみずほ首脳の人たちが知ることになるのは銀行やFGの取締役会に報告された時点だそうです。その報告された取締役会には、いずれにも多数の監査役さんが出席していたことが報告書に記されています。

反社会的勢力への不正融資問題は、銀行の法令遵守態勢に関する点において、取締役の善管注意義務に深く関わる法律問題です。つまり監査役さん方の監査の対象となります。ところが、第三者委員会報告書のどこを読んでも、また改善計画書のどこを眺めても、FGや銀行の監査役さん方がどのような行動をとったのか、また監査役のどこに問題があったのか、今後、監査役は反社会的勢力排除の課題にどう対応すべきなのか、ということが一切出てきません。また、どこにも監査役について問題点が取り上げられていないことの結果でしょうか、関係者が多数処分されているにもかかわらず、FGおよび銀行の監査役さん方は処分の対象にはなっていないようです。

これは一体どういうことなのでしょうか?金融庁は、わざわざ検査重点項目として「監査役との対話」を掲げ、監査役さん方に公益の番人としての活躍を期待しているところだと思います。ましてやメガバンク・・・ということですから、その監査役は「公益中の公益の番人」のはずです。しかしながら、第三者委員による聴取対象者リストには、元常勤監査役の方2名の聴取はあったものの、現役の監査役さん方からの聴取は一切出てきません。これは「監査役には法令遵守態勢の整備および運用のチェックなどはできっこないし、そもそも期待していない」ということなのでしょうか?そうだとすれば、モニタリングの要である監査役制度が金融機関において軽視されていることを象徴するものであり、とても悲しい気持ちになります。

それとも監査役は取締役の善管注意義務違反の有無をチェックする立場にあり、なおかつ独任制の機関なので、監査役の意見を聴取すると、取締役の法的責任論に深入りすることになりますので、第三者委員会としては、これを回避したのでしょうか。現在、みずほFGの個人株主からFG監査役の方々には提訴請求が通知されています。つまり、このままいきますと株主代表訴訟が提起されることになります。そこで、本件報告書については、そういった関係者の法的責任に影響を及ぼすような事実や判断については明確な物言いはしない、ということなのでしょうか。

あるいは(これは穿った見方ですが)金融検査の重点項目である「監査役との対話」が功を奏して、監査役のどなたかの口から、金融庁検査官に対して「当グループでは、このような問題がある」ということが伝えられ、その結果として金融検査で発覚したのでしょうか。監査見逃しに関する社内処分も問われていないというのは、何か事件発覚に監査役が貢献されたのでしょうか。もしそうであるならば、私の本日のエントリーは全く的外れ・・・ということになりますが。

銀行の改善計画書によれば、銀行に社外取締役を導入するとのことで、ガバナンス、コンプライアンス、危機管理に精通した外部有識者の就任を予定しているそうです。しかし企業価値向上や経営者業績の評価という社外取締役選任の一般的な理由ではなく、ガバナンス、コンプライアンス経営の向上という理由からであるならば、社外取締役を選任する前に、現在の監査役制度をどうするのかを先に議論することが求められるはずです。第三者委員会報告書の中に、今回の事件の原因として「役員の退任・異動による引き継ぎの不備」というものが掲げられていますが、そうであればなおさら、任期が長くかつ身分が保障されている監査役が機能していれば、このような問題は早期に解決できたのではないでしょうか。

本来、スピード経営が求められる銀行において、経営陣がリスク管理に割くことができる時間は限られていると思います(これは持株会社の役員でも同じかと)。とりわけ問題となっていた時期に、システム障害という、反社会的勢力問題と同じくらい大きな信用問題のほうに経営陣が注力していたわけですから、思考経済の上でどこかに隙ができていたとしても不自然ではありません。しかし監査役はそういった経営陣の「知見優先による思考回路」とは異なる判断が可能であり、また求められているはずです。立ち止まって、金融機関における反社リスクの大きさを改めて取締役の人たちに認識させ、別の思考回路で問題解決を図るべきことを示さなければならなかったのではないでしょうか。

委員会報告書によると、本件の提携ローン問題に関する資料がFGの取締役会に提出された際、ひとりの社外取締役の方が、FGの取締役会で反社会的勢力排除システムについて質問をされたそうです。社外役員としては、決して見過ごすことができな問題だったはずです。同じ非業務執行役員である監査役の方々は、そこで一体何を言い、監査役会ではどのように意見形成をしていったのか、そのあたりが浮かび上がらなければ今後の法令遵守態勢がどのように整備されたとしても、また同じことの繰り返しになるように思えます。

そもそも、反社問題は法律問題だけでなく、企業倫理に関する問題を含んでいます。なぜ反社会的勢力というだけで人権が侵害されるのか、憲法上のグレーな課題が法律上はつきまとっています。しかし反社への利益供与は間違いなく社会における不正を助長することにつながるものであり、企業倫理として許容できないものです。貸付の原資は預金だからといって、最大回収率を優先し、反社への利益供与が「正常債権」であるかぎりは目をつぶるという「法律チック」な解決に説得力が乏しいのは、倫理問題(企業の品位問題)があるからです。企業倫理に関わる問題に監査役はどこまで関与するのか、それはコンプライアンス委員会の判断に任せておけばよいのか、それとも法律問題を超えて、企業倫理の問題にも監査役は積極的に関与しなければならないのか、そのあたりが明確にされなければならないと考えています。

反社問題は企業の品位に関わるのです。報告書を読むと、銀行は二度も弁護士から法律意見書を受領し、それをもって可としています。いくら法律意見書をとっても、それは役員個人の善管注意義務に関わる問題のクリアであり、企業の品位に関わる倫理問題をクリアしたわけではありません。これが、知見による思考回路とは異なる思考回路による判断が求められる理由です。このたびのことをきっかけとして、経済同友会でも社外取締役の導入義務化に賛同する意見が出されるものとマスコミで報じられていますが、社外取締役制度の義務化の前に、現在の監査役制度の在り方についても、きちんと議論されることを期待いたします。

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2013年10月28日 (月)

NPB統一球問題-もうひとつの「黙って変更」事件の行方

今年は2011年と同じように、後半になって大きな企業不祥事が報じられています。カネボウ化粧品、JR北海道、みずほ銀行、阪急阪神ホテルズ、ヤマト運輸等、いずれも名門と呼ばれる企業の不祥事です。このような不祥事の影で、少し忘れられているような話題なのが一般社団法人日本野球機構(NPB)の統一球仕様変更問題です。10月25日、NPBのHPに、第三者委員会報告書が公開されました(なお、当初は9月30日に提出されたようですが、追加調査がありましたので、その訂正報告分も含めてのリリースのようです)。社内調査の結果は信用できない、第三者委員会でやり直す・・・ということで、A4で81頁に及ぶ大作の報告書ですが、たいへん興味深い内容なので、もし企業コンプライアンスにご興味がある方にはお読みいただくことをお勧めいたします。

本日は詳細を述べるつもりはありませんが、コミッショナーの「仕様変更に関する認識」について、故意とまではいえないが、故意があったものと同程度の非難に値する重過失があったとの認定方法は、おそらくみずほ銀行の経営トップの認識問題にも通じるところがあるのではと思います。また、事務局長の「変更ではなく、微調整だ」という主張に対する第三者委員会の評価については、阪神阪急ホテルズ社長の「偽装ではなく、誤表示だ」という主張の評価にも通じるところがあると感じました。また、セリーグの球団代表者が集まる理事会での議事内容が、かなり抹消されています。そもそも理事会でも「黙って仕様は変更してしまったらいいのでは」という意見も出ていたようで、このあたりの力関係が微妙に事件に影を落としているところが読みとれます。

詳細はそちらの報告書をお読みいただくとわかりますが、たいへん驚いたのは、統一球の仕様変更問題はひとつではなかった、ということです。実はサンケイスポーツニュースが事前に報じているところだったのですが(気がつきませんでした)、NPBで議論されていたのは、反発係数に影響を与える素材の使用を30%から20%に変更しようと企図していたところ、実は(統一球の仕様を開始した)2010年ころから、ミズノ社の社内で勝手に30%が40%に変更されていた、とのこと。これは驚きの新事実です。「最近どうもボールが飛ぶよな」と選手が認識したのも、反発係数に影響を与える素材の使用が半分になったからであって、もしNPBが企図していたとおりに30%→20%であったとすれば、一気に感覚が変わるということはなかったのではないかと。つまり本件が発覚した原因は、この「もうひとつの統一球問題」が影響していたのではないかと思われます。

先のサンスポニュースによると、ミズノ社は産経新聞の取材に対して「何もお答えできません」とのことであり、また第三者委員会の委員による調査でも、このあたりのミズノ社における記録が残っていないとのことだそうです。とても関心はあるところですが、この第三者委員会の調査の限界というところだったのでしょう。ナゾはそのまま残されることになりそうです。これは余談ですが、大リーグでは、こういった統一球の仕様変更については、あまり開示されることもなく行われることもあるようで、そもそも今回の事件がどこまで悪質だと言えるのか、そこから検証する必要があったのかもしれません。

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2013年10月25日 (金)

阪急阪神ホテルズ「食品誤表示」問題をCSRとリスク管理の視点で考える

阪急阪神ホテルズ社の運営ホテルにおいて、約7年間に及ぶ食品偽装問題(念のため、「誤表示問題」といいます)が公表され、大きな問題に発展しています。今年6月に発覚した東京ディズニーリゾートの食品誤表示問題をきっかけに「当社運営レストランでも誤表示問題はないのか?」ということで社内調査を行ったところ、今回の誤表示が次々と発見されたそうです。同社が事実を把握して自ら公表に至ったことは、自浄作用が機能したものとして評価されてもよいと考えていますが、コンプライアンス意識が希薄であったことは否めません(とりあえず自浄能力を発揮したからこそ、24日の社長謝罪会見では大きなツッコミもなく終わったのだと思われます)。

毎度申し上げるところですが、どこの企業でも不正は発生します。要は発生したときに、どう対応するかということであり、このたびの阪急阪神ホテルズの対応の是非について、CSR(企業の社会的責任)の視点と、リスク管理の視点に分けて考察してみたいと思います。なお、念のため申し上げておきますが、企業における昨今のコンプライアンス経営を支えているものは、国民から与えられるレピュテーションです。阪急阪神ホテルズも、東京ディズニーリゾートも、「言語道断」の不祥事であることは確かなのです。だからこそ、そのような声が上がることがレピュテーションリスク時代の企業への「制裁」であることを、以下のお話は前提としています。決して「企業はそれほど悪いことをしたのではない」といった意見であるとの誤解をされませぬようお願いいたします<m(__)m>。

第一にCSRの視点ですが、ホテル側は営業(メニュー作成、活用)と商品担当(調達や現場)との間の情報共有に問題があった、と説明しています。経営トップからは厳しい指揮命令が、別々に営業と商品担当には向けられます。命令が下った担当部署では、それぞれのミッションが異なるわけですから、当然、重視すべき情報も異なります。したがって、情報伝達の際に関心となる情報が、各担当部署において全く違います。単に情報伝達といっても、お互いに関心のある情報が異なること(情報の優先順位が異なること)を理解していなければ、みんな自分が一番かわいいわけですから、このようなミスが何度も発生します。

また、日本の組織における情報伝達制度は、主として担当者の責任回避のためにあります。メールも電話も発信主義であり、到達主義ではありません。「伝達した」という証拠を残すことに重点が置かれ、相手が理解したかどうかまでは伝達者にとっては関心がありません。したがって、この点からも各担当部署の情報の優先順位の違いがそのまま残ってしまい、伝達がうまくいかないのです。これは2009年の日立アプライアンス社冷蔵庫(エコ大賞返上)事件、今年のKDDI社LTE利用区域景表法違反事件と全く同じ構図です。

では、このような情報伝達手法の弱点を克服するために、メニュー担当者が食材を確認する、という手法で対応すれば万全なのでしょうか?帝国ホテルさんや藤田観光さんなどの例を出して、マスコミでも他社の不祥事予防措置が紹介されています。しかし、それでは不十分です。冒頭に掲げた東京ディズニーリゾートの件では、メニュー担当者が食材との不一致を把握しつつも「問題はないと判断した」のが食品誤表示の原因でした(2013年6月3日、4日の朝日新聞ニュースより)。つまり、確認作業を採り入れたとしても、現場担当者が「今の自分の状況は有事ではない」「この程度の違いはとくに偽装にはあたらない」と都合のよいように判断するわけです。しかし現場担当者は、全く悪意があってそのように判断するわけではない、という点に着目しておく必要があります。要するに、現場で食材とメニューの不一致に気付いたとしても、「これはたいしたことではない」と思いこみたいわけで、特に兼務等によって忙しい状況にある現場担当者にとっては、自分の知見に基づく思考回路によって瞬時に判断したくなります。したがって、現場担当者の確認作業を導入したとしても、その確認者を専業にでもしない限りは食品誤表示はなくなりません。

検討すべき改善策としては、忙しいときであっても、「おかしい」と冷静に判断できる体制作りが考えられます。平時から「有事とはどういう状況なのか」という点についてルール化しておく、食材の一致、不一致の判断基準を明確にしておく、判断基準によってわからない場合のための原則をバスケット条項として規定しておく、わからない場合に一人で考えないことを原則化する、内部通報制度を充実化するといったことが考えられます。問題が発生したら自社で解決する姿勢を社員ひとりひとりが持つ必要があります。そしてなによりも、食材とメニューの一致、不一致の判断は、お客様の視点で考えるということが大切だと思います。誤表示の発生した原因がどこにあろうとも、それは顧客第一主義が浸透していないからであり、そのことへの批判が同社に集中してもやむをえないところかと思います。

第二にリスク管理の視点からは、なぜ東京ディズニーリゾートの食材誤表示事件はそれほど大きな話題とならず、阪急阪神ホテルズはここまで大きな企業不祥事になってしまったのか、という点への考察です。食品誤表示の悪質さの違いや誤表示の数の違い、ということによるのでしょうか?私はそうではないと思います。それは後だしジャンケンの考え方であり、私はまったく別のところに原因があると考えています。結論からいえば、企業コンプライアンスの重要論点である「行政を本気にさせてはいけない」という鉄則です。

税務署、警察、検察、消費者庁、金融庁など、いずれも本格的に動けば(担当記者がいますので)マスコミにも情報が入ります。つまり行政の本格始動によって国民はマスコミから大量の事件情報が入ります。企業としては、監督官庁に恥をかかせないように、当初からきちんと正確な情報を提供して、行政権限(国民に生命、身体、財産上の侵害を未然に防止するための規制)が適正に行使できる体制をとれるように配慮すれば、情報コントロールのイニシアチブをとれます。しかし行政に不正確な情報を提供する、もしくは必要な情報を提供しない、という企業行動をとると、行政は本気で怒ります。本気で怒るということは、調査権限を含めて、企業に規制行政で臨みます。行政が表舞台で動くわけですから、担当記者のところにも毎日新しい情報が入ります。したがって、(ここは推測ですが)同じような食品誤表示が事件化されたとしても、東京ディズニーリゾートの場合には企業側からの情報提供しかマスコミは入手できないことになります。

阪急阪神ホテルズの場合、世間に公表する2週間ほど前に消費者庁に情報を提供していますが、そこで提供した情報と、マスコミが騒ぎだした後に出てきた情報に食い違いが生じたとするならば、なぜ正確な情報を提供しなかったのか・・・と消費者庁が本気で対応を検討するようになります。消費者庁が動けばマスコミも動き、その結果としてたくさんの不祥事らしき事実が報じられ、結果として大きな不祥事になってしまいます。不祥事から生じる企業の損失を最小限度に抑えたい・・・というリスク管理の視点から考えるならば、事件発覚当初における行政当局への対応という点に、本事件が大きな不祥事に発展していったポイントがあるのではないかと考えています。

いまのところ阪急阪神ホテルズ社では、本事件において目だった「二次不祥事」は出ていません。したがって、このまま事件報道は終局に向かうものと思います。ただ、行政を本気にさせてしまったがゆえに、次から次へと関連事実がほじくり返されて、その中にとんでもない「二次不祥事」が眠っていたという事件が過去にも数社ほど見受けられます。今後、そのような二次不祥事がほじくり返されないことを祈念しています。

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2013年10月22日 (火)

スターダスト社はなぜ内部告発の事実を公表したのか?

10月17日に出版社「ぴあ」(ぴあ株式会社 東証1部)が、印刷部数を印税支払い先に虚偽報告していた問題で、ももクロの所属事務所スターダストプロモーションは20日、問題発覚のきっかけが内部告発だったと明らかにしました(スターダスト社のリリースはこちら)。このリリースにより、ぴあ社の内部社員が、虚偽報告の相手であるスターダスト社に内部告発したことがきっかけで本件事件が発覚したことが明らかになりました。また、取引先への虚偽報告が、ぴあ社の取締役の承認のもとで行われていたことも明らかになりました。

しかし、10月17日付けのぴあ社のリリースには、「取引先からの問い合わせで知った」とあるだけで、内部告発のことについても、経営陣の関与についても一切触れられていません。スターダスト社の公表以降、ぴあ社からは何らのリリースも出ていないようです。このような内部告発は、すでに社内で告発者が特定されるケースがほとんどです。告発内容から、どのようなポジションの社員が告発したのかは推測できますし、また(まじめな)内部告発の場合、まずヘルプライン(内部通報窓口)に最初に通報するか、もしくは上司や同僚に相談することが多いからです。つまり、スターダスト社からぴあ社に問い合わせがあった9月の時点で、ぴあ社としては告発者がほぼ特定できていたと思われます。

スターダスト社としては、ぴあ社が上場会社であるため、おそらく自浄能力を働かせるものと期待していたと思いますが、あまりにぴあ社の対応に誠意がないものとショックを受けて、内部告発によって発覚した事実を公表したものだと思います。また、内部告発者が悪者扱いされることを防止するために、わざわざ告発文書の要約まで公表したのではないでしょうか。したがって、私的に最も関心がある事実は、この内部告発よりも前に、ぴあ社には社員からの内部通報があったのかどうか、もしくは公益通報者保護法における公益通報(たとえば上司に対する相談等)があったのかどうか、という点です。そのような通報が存在したにもかかわらず、対応していなかったということであれば、まさに自浄能力の欠如が顕著な事案かと。

今回のスターダスト社のリリースからみると、ぴあ社では取締役が不正隠ぺいに関与していたとのことですし、印税支払いを免れていた、ということは財務書類に不正があったことになります。つまり財務計算書類作成についてのコンプライアンス意識の欠如が全社的に存在していた、ということになります。たしかに決算報告の上では、量的重要性に乏しいわけで、リリースにもあるように業績には軽微な影響しかないものと思います。しかし経営陣が関与している不正ということで、これは質的重要性に問題が生じています。

取引関係における不正ということですから、投資家向けの財務報告に直ちに影響が出るわけではありませんが、このように安易に取引上の数値を改編する、ということは決算財務報告プロセスにも明らかに問題があり、これは開示すべき重要な不備に該当し、内部統制は有効とはいえないものと考えます。この点、監査法人さんはどのように考えているのでしょうか。私は、もし今回の事件がぴあ社の全社的内部統制の重大な不備ではないと言えるのであれば、この異常行動(2008年以降、このような不正は他に1件もなかったというのですから、これは明らかに「異常行動」です)が、なぜ取締役関与のもとに行われたのか、その特殊性が誰の目から見ても明らかな程度に合理的に説明できなければならないと考えています。その合理的な説明が認められない限り、ぴあ社には全社的内部統制の重大な不備が存在する、と言われても仕方ないはずです。

ぴあ社が品位ある企業として、誰からも尊敬される企業として、このような不正だけはしてほしくない、という意識で告発に至った社員は、相当の覚悟をもってのことかと思います。事実上不利益な処分を受けることにもなりかねません。それだけの覚悟をもって行った告発の結果が、ぴあ社の公表した処分内容と釣り合うのかどうか、そのあたりはお読みになった方の判断に任せるしかないと思います。ただ、調査委員会が、2008年以降の同種取引の調査を徹底しているとのことですが、これは発見的措置であり、再発防止のための予防的措置ではありません。統制環境に問題があり、全社的な内部統制に不備があるのであれば、その原因を究明したうえで、内部統制に問題が生じないような措置を講じることが必要です。

また、今回のスターダスト社のリリースにもあるように、たとえぴあ社が法令を遵守する行動に出たとしても、それだけでは取引先の信頼は回復されません。社会の信用を回復するために必要な対応こそ、損害を最小限度に抑えるためのリスク管理として必要なことだと思います。

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2013年10月21日 (月)

みずほ問題-独立性のない社外取締役の有用性について

みずほ銀行さんが、反社会的勢力対応のための組織を検討されていることが報じられていますが、そのような施策とともにみずほFGの子会社であるみずほ銀行に社外取締役を選任することが検討されているそうです。みずほ銀行はFG(フィナンシャルグループ)社の100%子会社なので、いわば独立性のない社外取締役ということになります(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。

私もこの問題が発覚した当初から、いくつかのコンプライアンスに関する講演で「子会社である銀行さんに(事実上は)独立性のある社外取締役を選任すべきではないか」とお話しておりました。理由は①情報伝達の流動性を高めること、②代表訴訟が子会社には届かないこと(子会社役員監視の必要性)、③金融検査の変化(モニタリングモデル)への対応、ということからです。

FGには既に3人の社外取締役さんがいらっしゃるそうですが、そもそも下から情報が上がってこなければ、なんらの対応もとれませんし、そもそもホールディングスの独立社外取締役の本来の役割は企業価値向上(グループマネジメント)にあります。コンプライアンス重視の社外取締役であれば、情報にアクセスしうる事業会社側にこそ選任されるべきです。また、このたびFGの役員(旧役員)に対して株主代表訴訟が提起される可能性が出てきましたが、子会社であるみずほ銀行さんの役員には代表訴訟は届きません(会社法改正後に制度化される多重代表訴訟も、たくさんの株式を保有していなければ使えません)ので、子会社の不正リスク管理を社外取締役に期待せざるをえません。さらに、今後は金融検査で横断的に内部監査、監査役監査、外部監査との連携状況がチェックされますので、モニタリング部門向上のためには、他社(他行)とのレベル感の比較、自社モニタリングの客観的な欠陥の指摘等について、外部の目が必要になろうかと思います。

たしかに子会社の社外取締役は、東証の「独立役員」たる地位にはないわけで、親会社少数株主とは利益相反の可能性はあります。しかし導入目的が明確であり、たとえば子会社役員規則等によって重要な役員の選解任事項を親会社(上場会社)の開示事項として規定することで親会社株主らによる監視の対象にもなろうかと思います。なお、ガバナンス問題に往々にありがちなのが、「ガバナンスの外形を隠れ蓑にする」というアリバイ工作です。社外取締役に見てもらっている、承認を得ている、何も異議が出なかったということで、子会社役員がコンプライアンス問題を思考停止に陥らせる可能性がありますので、社外取締役さんの人選がたいへん重要な課題になります。

さて、金融子会社であるみずほ銀行さんに(事実上独立性のある)社外取締役が選任されるとなりますと、そろそろ日本でも韓国と同様に「遵法支援人制度」があっても良いのではないか?という議論が出てきます。遵法支援人制度は2年前に韓国で(大規模上場会社に)導入された制度ですが、金融機関では、すでに10年ほど前から「遵法監視人」として選任が義務化されています。韓国の金融機関の日本支店などにも、年に数回、この遵法監視人が検査に訪れています。

コンプライアンス経営をモニタリングする「外部の目」というのは、日弁連でも3年ほど前から「法律参与制度」として検討され、民主党政権時代、自民党政権時代を通じて、国会議員の方々にも説明しているところです。スピート経営を維持しつつ、コンプライアンス経営にも配慮するためのひとつの施策として検討される時代が来るのではないかと。ただし経済界の大反対ということが予想されるとともに、会社法という「株主の利益最大化を図りつつ、他の関係者の利害を調整して国益に資することを目的とした規整法律」に、コンプライアンスという制度の枠組みをどう取り込むか?というところが最大の難関かと思われます。

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2013年10月17日 (木)

法令違反が放置されている内部統制報告制度の運用

昨日(10月15日)の日経新聞ニュースによると、ベンチャー企業の上場促進策として現行の内部統制報告書の提出義務が新規上場時から3年間猶予されるような措置が講じられることになる、とのこと。ちなみに正確には経営者の内部統制報告書提出義務は残って、内部統制監査を受ける義務が免除される、ということではないでしょうかね?ともかく、J-SOXの一律適用に例外を設けるということで、上場会社の負担を少なくするもので、アメリカと同様の軽減措置(中小上場会社に対する適用除外)が設けられるようです。なお、あたりまえのことですが、J-SOXは開示規制なので、これでベンチャー企業の経営者の(上場会社レベルの財務報告作成に関する)内部統制システムの構築義務が軽減される、ということは一切ございません(上場準備会社の取締役、監査役の皆様方のために一応、念のため)。

ところで同制度に関連する話題ですが、JDQのクリーク&リバー社は、10月11日に内部統制の訂正報告書を提出しています。平成23年3月から同25年2月までの二期分について、内部統制は有効である、としていた報告書について、「間違っていました、有効ではない、と訂正します」との内容です。訂正の理由は、同社の連結子会社において、不適切な会計処理が発覚して過年度訂正をせざるをえなくなったが、内部統制において子会社役員のコンプライアンス意識の欠如、当社および子会社における全社的内部統制の不備があり、重要な欠陥(当時)がみつかったから、というものです。

あまり知られていませんが、週刊経営財務9月9日号(3129号)によると、ここのところ上場会社による内部統制訂正報告書の提出が急増しています。平成23年度は8社だったものが、同24年には23社となり、経営財務によれば「これらは、不正や不適切な会計処理が発覚し、それを契機に訂正した会社がほとんど」とのことです。一方において、内部統制報告書で「当社は開示すべき重要な不備があり当社の内部統制は有効ではない」と開示しているのは、平成24年度にはわずか7社にすぎません。「有効ではない」とする内部統制報告書を提出する企業が少なくなっていることについて、上場会社の内部統制は良好なものになっているとの評価もありますが、客観的にこの運用状況を分析すれば、「とりあえず有効と開示しておいて、何か会計上の問題が発覚したら有効ではない、と訂正報告書を出せば一件落着」という制度運用が慣行になりつつあることは明らかです。つまり、3800社ほどの上場会社の中には、内部統制が有効ではないにもかかわらず、(たまたま会計不正が見つかっていないために)内部統制は有効である、と虚偽開示している企業がかなり含まれているといっても過言ではありません。

この慣行は、どうみても金商法24条の4の4の運用において法令違反の状態にあると考えます。そもそも不適切な会計処理や粉飾決算が発覚した場合に、内部統制を有効ではないと訂正することに問題があります。「結果として重要な虚偽記載が存在する以上、そのような虚偽記載を作成するプロセスにも問題があったのだから、訂正するのは当然」という意見もあることは承知しています。しかし、内部統制報告制度はシステムが有効か、有効でないかの(経営者の)判断を表示するものであり、有価証券報告書のように相対的真実主義に裏付けられた「真実かつ公正なる概観」を表示するものではありません。要は財務報告作成のプロセスをどう評価するか、ということであり、そもそも内部統制には(粉飾発生の際に無効化される場合があるとして)限界があることは所与の前提なのですから、たとえ結果として粉飾が見つかったとしても、経営者は堂々と内部統制は有効と評価した、その評価プロセスにおいて問題はなかったと表明すればよいのです。システムは(評価基準にしたがえば)有効だったが、残念ながら限界事例だった、と表明することが求められるはずです。

そもそも金商法上の内部統制報告制度は、経営者が「リスク」を開示する制度なのですから、そのリスクが現実化したからといって、リスク評価がすべての場合に間違っていたということはないはずです。かりに「間違っていました」ということで訂正報告書を提出するのであれば、なぜ作成プロセスを有効と判断したのに、有効ではないと訂正するのか、その判断のどこに誤りがあり、これをどう修正すれば不備が解消されるのか、そこを経営者が説明しなければ訂正報告には形式上の不備があるはずです。しかし実際には、「不正が発覚したから訂正します」ということだけであり、訂正報告書についての監査法人の意見もこれを適正としています。

この運用上の誤りの由来は、そもそも真実かつ公正なる概観こそ投資家に開示しなければならないという有価証券報告書提出の制度趣旨とその監査制度の趣旨をまちがって内部統制報告制度にも適用してしまっている現状があると考えます。今のままでは、投資家にリスクを開示することによって投資判断に資する・・・という内部統制報告制度の趣旨は実務上全く機能していないと言わざるをえません。また、現状の運用では有価証券報告書とは別に内部統制報告書についても「虚偽記載に関する開示責任」の条文が金商法に別個に存在する意味も説明がつきません。また有価証券報告書の場合には、(粉飾が認められる場合に)比較可能性という意味でも過年度の決算を訂正する必要性がありますが、内部統制報告書に比較可能性を認める必要性があるならば、なおさら有効ではないと判断された過年度との比較のためにどこにプロセス判断の誤りがあったのか、開示されなければなりません。

このように考えますと、そもそもリスクを開示せよ、としている金商法の適用において、経営者も監査法人も法令違反の状態にあると言わざるを得ません。制度施行から5年が経過して、この点について誰も疑問を抱かないということは、まさに上場会社のすべてが、そして監査を担当するすべての監査法人が思考停止状態にあると言えます。ちなみに今年3月に出版しました拙著「法の世界における会計監査」の中でも、この問題について疑問を呈しましたが、これまで、この点についてはどなたからもご異論をいただいておりません。

会計処理の問題が後日発覚し、有価証券報告書を過年度にさかのぼって訂正しなければならない場合が生じたとき、では合わせて内部統制報告書も訂正すべきかどうか十分な検証が必要です。経営者として「判断当時は有効だと思っていたが、いま考えると、こういった判断プロセスに誤りがあったために、有効ではないと訂正する」といった運用、監査法人としても「このような内部統制監査の基準に従えば経営者の判断プロセスとその結果について適正と表明したが、その判断プロセスのどこにどのような誤りが認められるため、今回の訂正を適正と考える」といった運用がなされる必要があります。また、断固として内部統制は有効だったがこういった限界があったために残念ながら過年度決算修正に及んだという経営者の説明があっても良いと思います。そのような運用がなされて初めて、個々の上場会社の財務報告の信頼性を向上させるための知恵が蓄積されることになり、またそのような運用が行われないかぎり、内部統制報告制度が今後の上場会社の開示制度の向上に資する道はないものと考えます。同制度の費用対効果が問題視されていますが、その効果を減殺しているのは、まさに運用主体である上場会社と監査法人ではないでしょうか。

市場に個人投資家の資金を呼ぶための施策が打ち出されることには大賛成なのですが、このような「合法的虚偽記載」の運用がこのまま放置されてしまいますと、その被害を被るのは内部統制の有効性という開示情報を信用した個人投資家です。現状の内部統制報告制度の運用を早急に改める必要があると思いましたので、あえて問題を提起いたしました。

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2013年10月15日 (火)

コーナン社の不祥事-法令より重い企業倫理の率先垂範

私生活ではいつもお世話になっておりますホームセンター大手のコーナンさん(東証1部)ですが、このたびは創業者である社長さんと女性取締役さんとの不明朗取引により謝罪会見、四半期開示の延期という「一大事」に見舞われています(不祥事の内容については、たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。株価も一時急落とのこと。

毎日新聞が最初(10月10日)に報じたところでは、記事の詳細が「複数のコーナン関係者らが明らかにしたところによると・・・」とありますので、おそらく社内もしくは取引先による内部からの情報提供が、マスコミになされたものと思います。こういった記事に接しますと、どうしても「内部告発の前にコーナンさんの社内通報窓口に通報があったのだろうか?仮に内部通報があったとすれば、いままで会社は通報について何も調査をしていなかったのだろうか?」との疑念を抱いてしまいます。報じられるところでは、第三者委員会が設置されるそうですが、委員会には、まずそのあたりを詳しく調査していただきたいところです。

さて、ここからが本論ですが、コーナン社の社長さんは、謝罪会見において「軽く考えていた」「思慮が足りなかった」と釈明しておられます。この「軽く考えていた」というのは、私も社長さんの本意ではないかと思いますし、ひょっとすると、ほかの取締役、監査役の方々も「軽く考えていた」のではないかと推測いたします(もちろん、あくまでも私個人の推測です)。

各マスコミの記事では、会社と取締役との利益相反取引といった会社法上の問題、会計処理に関係するリベート授受の問題、取締役の資産譲り受けに関する税務上の問題等に焦点があたっていますが、コーナンほどの大きな会社にしれみれば、一店舗の駐車場用地の問題など、日常の業務執行に関する問題であり、かりに法令違反になるとしても、形だけでも取締役会の承認を得ていれば済む問題、ととらえていたのではないでしょうか(実際、女性取締役の方が就任されたのは2011年ころのことであり、取引はそれよりもずっと以前から、ということのようです)。

むしろマスコミが真正面から取り上げているわけではありませんが、このたびのコーナンさんの不祥事は企業倫理上の問題のほうがよほど大きいのではないかと。上場会社の創業家社長さんが、中途採用の女性取締役さんと個人的な支援関係にあることを裏付ける事実が表ざたになってしまったことが、企業倫理上どうなのか・・・という点です。普段、社員や取引先に対してビジネス上の倫理を率先垂範していた(であろう)経営トップが、取締役(もしくはその親族)が代表者を務める会社から賃借している固定資産の取得に関与している、というのは倫理上ちょっと説明がつきにくい問題です。

コーナンの社長さんの特殊事情というのではなく、ここで企業の経営トップの方々にご注意申し上げたいことは、法務や会計等のビジネス上のコンプライアンス判断に気を取られていると、その背後にある原則の部分、つまり企業倫理上どうなのか?という点への配慮に欠けてしまうことがある、ということです。法務や会計処理上の懸案事項については、ビジネス判断としてグレーゾーンは審議の対象となります。しかし、そこで(法令違反が軽微、会計上の重要性の原則違反はない、といったことで)「たいしたことではない」といった判断が下されると、それが免罪符になってしまいます。ではグレーゾーンに入ってしまったこと自体が上場会社の経営者としてどうなのか、ステークホルダーに説明がつくのだろうか、というところの意識が欠如してしまいます。

コーナンさんの件でも、利益相反問題については従来から(おそらく顧問弁護士さん等の意見を聴いたうえで)問題を把握されていたようで、法人登記等の虚偽申請がなされていたことも毎日新聞ニュースに掲載されています。つまり、違法の程度は軽微なので、後でなんとかすれば大丈夫、といったところかと思います。しかし、法的な問題がクリアされたことで、当事者も周囲の役員の方々も、それで一件落着と考えておられたのではないでしょうか。これは決して倫理意識が薄弱だったというわけではなく、おそらく倫理意識は高く持っていたとしても、いざ実行の段階において無意識に非倫理的行為を選択してしまう可能性がある、ということです。他社さんでも十分注意をしていなければ「うっかりコンプライアンス」にはまります。

通り一遍の倫理教育を行ったとしても、それは倫理的行動がとれるという平時の考え方に影響を与えるだけであり、実際に倫理的行動が必要な場面で、かならず期待される行動がとれるとは限りません。なぜなら法律意見書が免罪符になってしまう、といったことで無意識のうちに非倫理的行動に出てしまうケースは意外と多いからです。おそらく内部告発に出たコーナンの関係者の方々も、違法行為への憤りよりも、まず経営トップが倫理的に問題のある行動をとったことへの怒りが先に立っていたのではないでしょうか。コンプライアンスは法令遵守ということよりも、社会からの要請への適切な対応である、といわれる時代の、典型的な不祥事ではないかと考えます。今後、第三者委員会が設置されるかもしれませんが、果たしてどのような報告書が出てくるのか、注目されるところです。

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2013年10月11日 (金)

消費者被害への企業対応の在り方と「安心理論」のすすめ

__昨日(10月9日)の日経新聞朝刊の記事によると、カネボウ化粧品白斑問題について、親会社の花王社は賠償責任を含め、責任をもって収束に向けて全面的バックアップしていく、と発表されていました。被害者が既に14000人を超えるという事態となり、収束のためには何年かかるのかは不明ですし、既に被害者から損害賠償請求訴訟も提起されているということなので、賠償に要する費用もどれほどなのかわかりません。しかしこの時期に、親会社が「収束に向けて支援する」と発表したこと、そして安全性が確認されるまでは美白化粧品は販売しない、という確固たる宣言をしたことは、今後の花王・カネボウの化粧品戦略において大きな意義があるものと思います。

さて、今月号の雑誌「WEDGE」では第二特集として「集団訴訟がやってくる」という記事が掲載されています。前半の制度解説や消費者vs経済団体の構図の解説は、これまでも各方面で語られてきたところであり、それほど目新しいものではありませんでした。むしろこの特集のおもしろかったところは後半の消費者集団訴訟制度によって企業にどれほどの金銭的負担が生じるか、という定量分析によるシミュレーションです。慶応義塾大学ビジネススクールの先生が、この制度が実施された場合には(中・長期的にみて)最大で10兆円ほどの企業利益が吹っ飛んでしまう可能性がある・・・というシミュレーションを統計学的手法によって発表されています。

もちろん、このシミュレーションで算定された数字にはいくつかの前提条件が付されているわけですが、2・5兆円から10兆円と、算定された数字に幅があるのは今後の司法判断の動向がわからないから、ということだそうです。制度導入後に訴訟案件の結果がどのように推移するのか、そのあたりによっても負担額が大きく変わるとのことで、まぁ当然といえば当然のように思えます。いずれにせよ、ここで関心が寄せられているのは、消費者団体制度が施行された場合の制度対応における企業負担、ということのようです。

ただ、コンプライアンス経営における安心理論を提唱する(?)私としては、そもそも消費者被害を起こした企業の対応を考えるにあたり、被害弁償に要する費用が最大の問題ではなく、被害弁償に対する企業の姿勢のほうが企業価値にとってはるかに影響を与えるのではないかと考えています。BtoCの企業の場合、商品やサービスの事故を起こしてしまい、法律に従って被害弁償をすることはあたりまえのことです。たしかに被害対応のまずさから、賠償金額に差が生じてしまうこともあると思いますが、そのあたりは企業法務の専門分野に属する問題として、専門の弁護士さんの意見を聴取しながら最小限度の損失に抑える努力を続けるしか方法はありません。

しかし製品事故を起こした企業にとって、もっと企業価値に影響を与えることがあるはずです。なぜなら、被害弁償が完全に解決したからといって顧客の皆様が戻ってきてくれるかといえば、「もうここの商品はこりごり」「この商品を見るだけで被害を想い出す」ということで当社との取引は中止されることになるのが当然の結果だからです。そうではなく、事故を起こした後も、その商品やサービスを顧客が使い続けてくれるためには、今回の事故に対する企業の姿勢により、当社製品の安心感をどれだけ保てるか、ということにかかってくるのではないでしょうか。これは被害弁償だけでなく、役員のリーガルリスク(役員に対する責任追及の可能性)についても影響が出てくるはずです(過去の有名な株主代表訴訟について、取締役が被告とされるのは、二次不祥事を発生させたからである、というのは既にブログで説明したとおりです)。

製品事故を起こした企業は、どうすれば被害弁償を最小限度に抑えることができるか、ということに関心が寄せられ、法律家の意見を聴きながら、被害者への対応を決しているのが現状かと思います。しかし、このたびの花王社のように被害弁償の先にある顧客への安心の提供まで考えて対応をしていかなければ、賠償問題を収束させたときにはもはやお客様はいなくなってしまった、という結末を迎えてしまい、これが企業の価値を毀損させてしまう最大の要因になるのではと思います。上記の花王社の社長さんの「一年、一年、被害者救済において結果を出すことが大切」という言葉は非常に重いと感じました。

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2013年10月10日 (木)

旧役員がオブザーバーとして出席する取締役会の功罪

経団連さんが「このたびの不祥事については看過できないものがある」として処分を検討中、と報じられているJR北海道社ですが、10月5日付けの北海道新聞WEBに、少々気になる記事がアップされています。すでに同社の取締役を退任されている元社長・会長のお二人が、退任後も取締役会に毎回オブザーバーとして出席されているとのこと(北海道新聞ニュースはこちら)。毎回、これらの旧役員の方々が取締役会に出席されていることについて、JR北海道側は「特に問題はないと考えている」と回答し、同社としては記者さんが懸念しているような事実上の影響力行使については問題なし、と認識されているようです。

取締役会は必ず取締役・監査役だけで開催しなければならない、というものでもなく、オブザーバーが出席することは珍しいものではありません。業務執行の責任者である社員さんから状況報告を受けることもありますし、ベンチャー企業の大株主のように、事実上影響力を発揮しうる立場の方が毎回出席している、というケースもあると思います。ただ、旧役員が取締役退任後も毎回取締役会に出席する、というのは、旧役員が依然として経営判断の意思決定に影響力を行使して現取締役らの議論の活性化を阻害するという点からみて、あまり好ましいものではない、という意見も出てきそうです(おそらくこの記者さんの問題意識も、そのようなところにあるように思います)。

なにが「好ましいものではない」かと言いますと、旧役員が出席している取締役会では他の取締役がモノが言えない、いつまでも旧役員の意見が通ってしまう、といった弊害を指すもののように推測されるかもしれません。しかし、現実問題として、取締役を退任後に取締役会で意見を述べる旧役員さんなど、創業家OB以外にはあまり聞いたことはありません。現場から離れて久しい旧役員さんが、何も知らずにいろいろと積極的に意見を述べて、現取締役らがモノを言えない状況になるというのは、考えてみると何も決まらない可能性が出てくるわけでして、現役の取締役が萎縮してしまうような影響力まで旧役員が行使するということは想定されにくいのではないでしょうか。むしろJR北海道社が回答しているように(必要に応じて)熟練の経験者に経営の知恵を授かる、ということは特に問題とすべきことでもないように思います。

むしろ懸念されるのは、「決められない取締役会」「監督できない取締役会」の存在です。いろいろと業務担当取締役から審議事項が上程されるのですが、個々の取締役が責任をとりたくないので、取締役会で十分な審議はしない、人の担当業務には口は出さない、しかし旧役員から何も文句が出なかったことをもって「役員会で承諾があった」と事実上擬制する、という事態は想定されます。つまり(影響力を持つ)旧役員の方々から何も意見が出ないことをもって、他の取締役らも安心して決議に賛成する、取締役会で審議をしたという形だけは残して、特定人の責任にはしない、ということです。こういった形で取締役会の運営がなされますと、監督機能を果たすべきモニタリングモデルとしての取締役会は活性化しなくなりますので、こちらのほうがガバナンス上では問題があるのではないかと思います。

特別顧問や相談役という方々は、(以前にも当ブログで書きましたように)、人事面での影響力を行使するといったことで社内力学を支配する立場にあることも多いようです。しかし会社法上の重要な業務執行機関である取締役会の運営に影響力を行使することは望ましいものではありません。私個人の意見としては、JR北海道のガバナンスの健全性を向上させるためには、取締役を退任され、業務執行から退かれた旧役員の方々は、取締役会には出席されないほうが良いと考えるところです。

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2013年10月 8日 (火)

監査環境に変化をもたらす(であろう)監査役・監査人の連携ガイダンスの改訂

今週から書店で発売されている中央経済社の月刊誌「企業会計」の11月号に拙稿「コーポレートガバナンスと不正リスク対応基準」を掲載いただきました(目次はこちらです。ちなみに拙著「法の世界からみた会計監査」の書評も掲載いただきました。北大の荻野先生、どうもありがとうございます<m(__)m>)このたびの論稿では、モニタリングの実効性を高めて、上場会社としての健全なガバナンスを構築するためには監査役と監査人との連携が不可欠であることを(具体的な方策とともに)強調しています。

そして本日(10月7日)、日本公認会計士協会、日本監査役協会のHPにて「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告の改正について」と題するガイダンスの公開草案が公表されました(たとえば日本監査役協会のHPはこちら)。商法(会社法)改正に合わせて「連携に関する共同研究報告」が新たに公表されたのが平成17年ですが、監査基準の改訂、監査における不正リスク対応基準の新設に合わせて、このたびの共同研究報告の改正に至りました。

大きな会計不祥事が発生するたびに「連携」という言葉が周知されていない現実に虚しさを感じておりましたので、どこまで改正されるのだろうか・・・と期待はしておりましたが(まだザッと目を通しただけですが)、私が予想していた以上に「不正対応」というところに焦点は合っており、「連携の本気度」は高いように見受けられます。改訂された監査基準が「各段階に応じて」監査役と連携せよ、とあるので、契約締結時、監査計画時、四半期レビュー時、期末監査時と、それぞれ平時のコミュニケーションの重点項目が詳細に例示されているところは評価できます。また有事のコミュニケーションは「随時項目」として、これもまたかなり詳細に例示されており、行為規範性が高まっているものと思います。

もちろん、これはモデル例であり、個別の企業の連携方法はそれぞれの企業で協議されることになります。しかし個別企業の連携方法を協議する際にも、この共同研究報告は参照されることになりますので、その運用にあたっては双方の法的義務(善管注意義務)の履行としての行為規範になりうるものではないでしょうか。つまり監査人・監査役双方の監査環境の整備にとってもかなり有益なものになるように思います。とりわけ会社法上の存在である監査役さんにとっては、「連携」を通じて情報開示に関与することになるわけで、監査役制度の有用性を海外の機関投資家の方々に理解してもらうためのツールとして機能することが期待されます。

本ガイドラインは企業集団の監査にも適用されるものであること、コミュニケーション不全が双方の監査の結果にも影響しうるということが明記されたこと、監査法人の重要事項(第三者による監査法人の品質に関するレビュー結果、当局による検査結果等)が監査役の審査対象たりうることなど、いろいろと話題になりそうな論点も含まれております(ちなみに日本公認会計士協会から10月4日に「レビュー結果等の開示について」という通知が出ていますが、この研究報告の公表に合わせて、ということだったのですね)。これらの論点につきましては、また10月下旬から始まる監査役協会(大阪、名古屋、福岡)でのセミナーのときに解説をさせていただく予定です。

上場当時から粉飾決算が行われていたプロデュース社の株主損害賠償請求訴訟では、監査法人の品質管理の法的責任、そして監査役の粉飾見逃し責任が追及されているようです。今後も大きな会計不正事件が発覚した場合には、モニタリングの不全が厳しく問われることは間違いないと思います。被告として訴訟で訴えられること自体がリーガルリスクになるわけで、冒頭の拙稿でも述べているとおり、こういったガイドラインは単に監査役・監査人の方々が理解するだけでは市場の健全性に役立つというわけではないと思います。

機関投資家をはじめとする投資家・株主の皆様方が理解をし、「連携」を後押ししなければ監査環境までは変わるには至りません。市場関係者の皆様には、粉飾決算が露呈してから「監査役・監査法人はいったい何をしていたのだ」と怒るのではなく、平時から「いったい監査役・監査法人は不正を見逃さないように何を議論しているのだ」と質問をしていただきたいのです。期待ギャップは関係者(経営者、モニタリング、投資家、そして当局や取引所)全員によって埋めていく努力が求められるのでして、それが過剰な規制によって効率性を阻害せず、健全に成長する証券市場を形成していくことに寄与するものと考える次第です。

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2013年10月 7日 (月)

銀行を責める前に考えるべきこと-「もしかして反社」への対応は?

今年7月19日、全銀協(全国銀行協会)にて、コンプライアンスに関する講演をさせていただき、その際、以下のような(概要)講演をさせていただきました。金融機関の皆様方には講演録がございますので、そちらをご参照いただければと思います。

皆さん方の銀行は、何か不祥事が発見されたときに、それを早く摘める銀行なのか、それとも「彼は社長から好かれているから、彼はとても有能だから、ここの稼ぎ頭だから、見て見ぬ振りをしておかなければしょうがない」と考え、不正が大きくなるまで黙っている組織なのか、どちらだろうか。私はそれが知りたい。何かあったら、自分の同期で仲が良くても「それは駄目だ、告発する」と言える組織なのか。それとも「やっぱり言えない、誰かが言ってくれるだろう」という組織なのか。私はそこが知りたい。それがコンプライアンスの要諦である。
・・・・・我々が言う「組織の構造的欠陥」があるかないか、安全思想、安心思想が如実に現れてくる。最近、上場企業を見ていると、ここではっきりと実力の差が出始めている。駄目なものは駄目と、はっきりしている企業が増えている。つまり、マスコミ報道になる前に同じように不正は起きているのに、早期の段階で、不正行為を行っている役職員が、親しくても、優秀でも、自浄能力を発揮して止める企業と、「やっぱり彼のことは言えない。誰か言ってくれるだろう」と言っているうちに、結局隠ぺい、放置にまでつながっていくような大きな問題に発展する企業がある。最近はこの差がはっきりと出てきている。これからのコンプライアンス問題は、こういったところに対応していく必要がある。

銀行や公務員、公営事業会社は不祥事を発生させること自体で信用を落としてしまう組織なので、どうしてもコンプライアンス経営は不正予防主義(一次不祥事を発生させないための仕組み作り)が中心となり、不正発見主義(不祥事はどうしても発生してしまうが、これを早期に発見して自浄能力によって解決し公表すること)にウエイトを置くことがありません。なので、実際に不祥事が発生すると、発生させたこと自体が社内(部署内)でペナルティの対象(人事問題を含む)となりますので、どうしても不正は隠す方向にインセンティブがはたらきます。隠しきれない不正であったとしても、不正を報告することで間違いなくペナルティが課せられるのだから、隠しきれる可能性に賭ける・・・という発想になってしまいそうです。

みずほ銀行さんの提携ローン不適切融資放置問題は、(本当に頭取に問題を報告していなかったのかどうか、若干疑義も残りますが)マスコミの報道が真実だとすれば、担当役員自身のペナルティになることをおそれて、コンプライアンス担当役員としても頭取に報告できなかったのではないかと推測されます(コンプライアンス委員長が頭取、ということなので、このあたりは担当責任者が取締役であっても、執行役員であっても「報告を怠っていたこと」には変わりません)。銀行のコンプライアンスの発想も、そろそろ不正予防主義から不正発見主義に切り替えてもよいのではないでしょうか?「金融機関でも不正は起きる」ということを素直に認めて、起きたときにどうすべきか?という視点からコンプライアンス対応を考えなければ、いくら役員の交代で責任を全うしたとしてもまた同様の「放置、隠ぺい」という二次不祥事はなくなりません。ただし一般事業会社の場合も同様ですが、不正発見主義を中心に据える場合には、「敗者復活戦」や「報告者に対する報奨」が認められることが前提となります。

さて、このように不正発見主義によって反社会的勢力への利益供与(取引関係の維持も立派な利益供与です)を排除することを考えた場合、相手が反社会的勢力であることが明白ならば対処の仕方もあります。今回のみずほ銀行さんの件でも、反社会的勢力であることが明白であったとすれば「放置」は厳しく責められるのは当然かと。しかし、もし明白ではない場合、どうすべきか?というリスク管理方法は考えておかなければなりません。反社会的勢力への対応を厳格に行うということは、反社会的勢力ではないのに、「反社」というレッテルを張って商売の息の根を止めるリスク(名誉毀損、信用毀損で訴えられるリスク)が生じることになります。

これは銀行だけでなく、一般の事業会社でも問題になるかもしれません。明白ではないからそのまま放置しておいてもよい、という考え方は、おそらく一般常識からみたら問題ではないでしょうか。もしこういった考え方が許されるのであれば、反社会的勢力はコワイ、ということで放置することの正当理由として使われてしまうことになります。たとえば属性要件が不明な場合には行為要件が明白になったところで対応する、ということになるのか、それとも富士通元社長損害賠償請求訴訟事件の判決で示されたように、組織としてできる範囲で調査をすれば、たとえ相手が反社会的勢力かどうか明確にならなくても取引断絶は違法行為にならないという方針を貫くべきなのか、という問題です。

みずほ銀行さんは、今後(提携ローンについて)事前審査にも関与する、とのことですが、それでもグレーな相手方(もしかして反社)への審査ということはかならず生じることですし、結果として反社会的勢力もしくは密接関連者との取引を開始してしまう可能性もあります。まず、この可能性を認めたうえで、では疑わしい場合に、名誉毀損などで銀行が訴えられるリスクを承知のうえで、どのように取引を中止させるか、ということを検討しておくべきだと思います。キレイごとでは済まない課題であり、だからこそ起きた時の行動を検討して「思考停止」に陥らないような体制を構築すべきだと考えます。いつまでも担当役員の交代という形で経営責任をとっていては、まさに実効性に乏しい対応として反社会的勢力のオモウツボであり、ホッと胸をなでおろすだけだと思います。

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2013年10月 3日 (木)

田辺三菱製薬に業務改善命令⇒二度あることは三度ある?

昨年10月、試験データの改ざんにより業務停止および業務改善命令を受けていた田辺三菱製薬社と子会社バイファ社ですが、その後、匿名社員からの内部通報により、製造の承認書に記載されていない成分が含まれていたことが判明し、このたびまたまた田辺三菱社には業務改善命令が下された(子会社には業務停止命令)ことが報じられています(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。

当ブログでは過去に何度か申し上げているとおり、一度企業不祥事が発生しますと、これを機会に内部通報や内部告発が一気に噴出することがあります。そしてそういった告発は、同じ不祥事に関連するものもありますが、全く別の事件に関するものもあります。田辺三菱社は昨年10月以前にも、大きな不祥事を発生させていますので、これは類似のパターンであり、「二度あることは三度ある」という典型例のようにも思われます。

しかし今回のケースでは、今年2月に通報があり、4月には親会社・子会社合同での社内調査が行われ、その結果として不適切行為の事実を確定し、自ら厚労省に届けています。その後の厚労省の調査にも積極的に協力しているようです。さらに多くの製品が患者さん方に利用されていたそうですが、これまでのところ健康被害が認められたケースはありません。こういったケースでは、匿名の内部通報事実ですから、もし社内で公表しないという選択肢を採用した場合、通報は外部への告発に代わり、「隠匿した」と評価されるリスクはあります。

そのあたりは、はたして田辺三菱社が自浄能力を発揮したといえるのか、それとも「バレる前に公表してしまおう」といったやむをえず届出に踏み切ったのかは明らかではありません。ただ、通報事実を認知した時点から社内調査の結論が出るまでにわずか2カ月しかかからなかったということは、ほとんど躊躇することなく自社で不正を認識して自社で公表する、つまり以前の不祥事とは異なり、田辺三菱社としては過去の教訓を生かしてまさに自浄能力を発揮したものと評価できるのではないでしょうか。前回までの不祥事と、今回とではマスコミの取り上げ方が全く異なる(今回はニュース価値が乏しい)というのも、これを裏付けるものではないかと。

たしかに患者への思いやりに欠ける、というご批判もあるかもしれませんが、今回の田辺三菱社の一連の行動は「不祥事は起こさない」ということよりも「不祥事が起きるかもしれないけど、起きたとしても逃げない」という思想のもとでの対応です。これまでとは異なり、不祥事はもし起きた場合には自分で調査をして、自分で届出・公表に走る姿勢が垣間見えたものと思いたいところです。「二度あること三度ある」ではなく、「今度こそ、三度目の正直」としてコンプライアンス経営の精神が具備されてきたものと期待しています。

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2013年10月 1日 (火)

監査役の監査法人品質チェックと金商法24条の4(虚偽開示責任)

月刊監査役の最新号(618号)に、公認会計士・監査審査会事務局の方(審査検査室長)執筆による論稿「監査事務所検査結果事例集の公表について」が掲載されています。CPAAOB(公認会計士・監査審査会)の職務のひとつに監査法人の立ち入り検査を行うことがありますが、その具体的な検査によって監査法人の品質管理上の問題点などが明らかになります。そのような検査結果事例を集めたものが「検査結果事例集」としてCPAAOBから公表されており、監査法人の品質管理上で指摘された事項等が(どこの監査法人の問題なのかは特定できませんが)一般の方にもわかるようになっています。今回の月刊監査役の論稿は、こう検査事例集の一部を監査役さん向けに紹介したものです。

なぜこのような事例集の一部が月刊監査役において紹介されたのか、という点につきましては、月刊資本市場2013年9月号に掲載された金融庁検査局審議官兼CPAAOB事務局長の(あのレオン風ちょい●おやじこと)S氏の講演録を読むとおわかりになろうかと思われます。監査役は(会社法上)会計監査人の内部統制をチェックすべき立場にあり、さらに今回の会社法改正では会計監査人の選任者たる地位にあるわけですから、「当然のこととして」監査法人の品質管理についてきちんと理解しておかなければならないということで、今回の事例集紹介ということになったものと推測されます。ただ、ホンネで言わせてもらえば、

「これ、当監査法人の品質管理レビューの要約ですわ」

「なんでんの?これ。お宅のような大手の監査法人やったら監査の品質なんてなんにも問題ないでしょ」

「いやいや、最近は当局もうるさいんですわ。ま、いちおう読んどいてくださいな」

・・・といった会話が監査法人と監査役さんの報告会でつぶやかれているとかいないとか。実際のところ、監査法人の品質になど、ほとんど関心を示さない監査役さんもいらっしゃるはずです。しかし大手監査法人といえども、上の検査事例集を読みますと、すべての現場の担当社員による監査の品質にまで管理が行き届いていないケースとか、それなりに管理をやっていても、現場の監査担当者が「俺には関係ないよ」という風情でまったく管理事項を無視している状況なども掲載されています。つまり大手は大手なりに、また中小は中小なりに監査法人さんの品質管理に問題が生じることは十分に考えられるわけです。このような問題点に何ら気を留めることもなく監査役さんが監査報告書にサインをすることは、いざというときにリーガルリスクを背負う可能性が高まる、ということです(上記S氏の講演録参照)。

もちろん監査法人側も、会計士協会からの品質管理レビューの結果報告書やCPAAOBによる改善勧告書については、第三者に開示すべき文書ではない、ということで逐一開示することまでは求められないとは思います。昨年10月ころ、このあたりの取り扱いは会計士協会から各監査法人宛に広報されています。しかしこれだけ監査人と監査役との連携が必要とされる時代、不正会計事件に巻き込まれたときのリスク管理の一環として、金商法24条の4等による虚偽開示に基づく賠償責任から免れるための行動くらいは考えておいたほうがよろしいのではないでしょうか。監査役と監査法人では若干法律の文言は異なりますが、要するに「私はきちんと注意義務を尽くして有価証券報告書の開示をチェックしました」ということが立証できなければ多額の賠償責任を負担することになります

また、これは最近の私の関心ですが、(会社法上の機関である)監査役も(金商法上で期待される)「市場の番人」としての活躍が注目され、監査役の平時における監査環境整備のために、監査法人の内部統制をチェックする姿勢が求められるものと考えています。上場会社の監査役さんの場合、「株主との対話」がガバナンス上で強く求められる中で、取締役の業務執行としての開示統制システムの構築は、監査役さんにとっても監視・検証の重要なテーマとなりつつあり、さらに新設された不正リスク対応基準の運用によって不正会計の抑止・早期発見が求められる中で、監査法人の品質管理も開示プロセスの重要なポイントとして留意すべきだからです。つまり開示統制システムの構築についての監査役さんによるチェック自体が金商法24条の4における「相当な注意を怠らなかったこと」の根拠事由となるはずです。

アーバンコーポレイション株主損害賠償事件の第一審判決(東京地裁平成24年6月22日)では、有価証券報告書の中身を決定する役員会に出席していた監査役には金商法24条の4に基づく責任が認められ、たまたま欠席していた監査役には認められませんでした。つまり職務に熱心な監査役さんほど責任が認められやすく、そうでない監査役さんほど免責される可能性がある、というのは(理屈の上ではその通りかもしれませんが)感覚的には非常におかしな結論です。そういったアンバランスを回避するためにも、今後は「相当な注意を怠らなかった」かどうかは、平時における開示統制システムの構築や、これに対する監査という職務遂行の度合いを認定していくべきだと思います。そういった考え方に立ちますと、監査役と会計監査人との連携にも、今後関係者の熱が入っていくことが期待できるのではないでしょうか。

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