みずほ問題-独立性のない社外取締役の有用性について
みずほ銀行さんが、反社会的勢力対応のための組織を検討されていることが報じられていますが、そのような施策とともにみずほFGの子会社であるみずほ銀行に社外取締役を選任することが検討されているそうです。みずほ銀行はFG(フィナンシャルグループ)社の100%子会社なので、いわば独立性のない社外取締役ということになります(たとえば産経新聞ニュースはこちら)。
私もこの問題が発覚した当初から、いくつかのコンプライアンスに関する講演で「子会社である銀行さんに(事実上は)独立性のある社外取締役を選任すべきではないか」とお話しておりました。理由は①情報伝達の流動性を高めること、②代表訴訟が子会社には届かないこと(子会社役員監視の必要性)、③金融検査の変化(モニタリングモデル)への対応、ということからです。
FGには既に3人の社外取締役さんがいらっしゃるそうですが、そもそも下から情報が上がってこなければ、なんらの対応もとれませんし、そもそもホールディングスの独立社外取締役の本来の役割は企業価値向上(グループマネジメント)にあります。コンプライアンス重視の社外取締役であれば、情報にアクセスしうる事業会社側にこそ選任されるべきです。また、このたびFGの役員(旧役員)に対して株主代表訴訟が提起される可能性が出てきましたが、子会社であるみずほ銀行さんの役員には代表訴訟は届きません(会社法改正後に制度化される多重代表訴訟も、たくさんの株式を保有していなければ使えません)ので、子会社の不正リスク管理を社外取締役に期待せざるをえません。さらに、今後は金融検査で横断的に内部監査、監査役監査、外部監査との連携状況がチェックされますので、モニタリング部門向上のためには、他社(他行)とのレベル感の比較、自社モニタリングの客観的な欠陥の指摘等について、外部の目が必要になろうかと思います。
たしかに子会社の社外取締役は、東証の「独立役員」たる地位にはないわけで、親会社少数株主とは利益相反の可能性はあります。しかし導入目的が明確であり、たとえば子会社役員規則等によって重要な役員の選解任事項を親会社(上場会社)の開示事項として規定することで親会社株主らによる監視の対象にもなろうかと思います。なお、ガバナンス問題に往々にありがちなのが、「ガバナンスの外形を隠れ蓑にする」というアリバイ工作です。社外取締役に見てもらっている、承認を得ている、何も異議が出なかったということで、子会社役員がコンプライアンス問題を思考停止に陥らせる可能性がありますので、社外取締役さんの人選がたいへん重要な課題になります。
さて、金融子会社であるみずほ銀行さんに(事実上独立性のある)社外取締役が選任されるとなりますと、そろそろ日本でも韓国と同様に「遵法支援人制度」があっても良いのではないか?という議論が出てきます。遵法支援人制度は2年前に韓国で(大規模上場会社に)導入された制度ですが、金融機関では、すでに10年ほど前から「遵法監視人」として選任が義務化されています。韓国の金融機関の日本支店などにも、年に数回、この遵法監視人が検査に訪れています。
コンプライアンス経営をモニタリングする「外部の目」というのは、日弁連でも3年ほど前から「法律参与制度」として検討され、民主党政権時代、自民党政権時代を通じて、国会議員の方々にも説明しているところです。スピート経営を維持しつつ、コンプライアンス経営にも配慮するためのひとつの施策として検討される時代が来るのではないかと。ただし経済界の大反対ということが予想されるとともに、会社法という「株主の利益最大化を図りつつ、他の関係者の利害を調整して国益に資することを目的とした規整法律」に、コンプライアンスという制度の枠組みをどう取り込むか?というところが最大の難関かと思われます。
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