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2013年10月11日 (金)

消費者被害への企業対応の在り方と「安心理論」のすすめ

__昨日(10月9日)の日経新聞朝刊の記事によると、カネボウ化粧品白斑問題について、親会社の花王社は賠償責任を含め、責任をもって収束に向けて全面的バックアップしていく、と発表されていました。被害者が既に14000人を超えるという事態となり、収束のためには何年かかるのかは不明ですし、既に被害者から損害賠償請求訴訟も提起されているということなので、賠償に要する費用もどれほどなのかわかりません。しかしこの時期に、親会社が「収束に向けて支援する」と発表したこと、そして安全性が確認されるまでは美白化粧品は販売しない、という確固たる宣言をしたことは、今後の花王・カネボウの化粧品戦略において大きな意義があるものと思います。

さて、今月号の雑誌「WEDGE」では第二特集として「集団訴訟がやってくる」という記事が掲載されています。前半の制度解説や消費者vs経済団体の構図の解説は、これまでも各方面で語られてきたところであり、それほど目新しいものではありませんでした。むしろこの特集のおもしろかったところは後半の消費者集団訴訟制度によって企業にどれほどの金銭的負担が生じるか、という定量分析によるシミュレーションです。慶応義塾大学ビジネススクールの先生が、この制度が実施された場合には(中・長期的にみて)最大で10兆円ほどの企業利益が吹っ飛んでしまう可能性がある・・・というシミュレーションを統計学的手法によって発表されています。

もちろん、このシミュレーションで算定された数字にはいくつかの前提条件が付されているわけですが、2・5兆円から10兆円と、算定された数字に幅があるのは今後の司法判断の動向がわからないから、ということだそうです。制度導入後に訴訟案件の結果がどのように推移するのか、そのあたりによっても負担額が大きく変わるとのことで、まぁ当然といえば当然のように思えます。いずれにせよ、ここで関心が寄せられているのは、消費者団体制度が施行された場合の制度対応における企業負担、ということのようです。

ただ、コンプライアンス経営における安心理論を提唱する(?)私としては、そもそも消費者被害を起こした企業の対応を考えるにあたり、被害弁償に要する費用が最大の問題ではなく、被害弁償に対する企業の姿勢のほうが企業価値にとってはるかに影響を与えるのではないかと考えています。BtoCの企業の場合、商品やサービスの事故を起こしてしまい、法律に従って被害弁償をすることはあたりまえのことです。たしかに被害対応のまずさから、賠償金額に差が生じてしまうこともあると思いますが、そのあたりは企業法務の専門分野に属する問題として、専門の弁護士さんの意見を聴取しながら最小限度の損失に抑える努力を続けるしか方法はありません。

しかし製品事故を起こした企業にとって、もっと企業価値に影響を与えることがあるはずです。なぜなら、被害弁償が完全に解決したからといって顧客の皆様が戻ってきてくれるかといえば、「もうここの商品はこりごり」「この商品を見るだけで被害を想い出す」ということで当社との取引は中止されることになるのが当然の結果だからです。そうではなく、事故を起こした後も、その商品やサービスを顧客が使い続けてくれるためには、今回の事故に対する企業の姿勢により、当社製品の安心感をどれだけ保てるか、ということにかかってくるのではないでしょうか。これは被害弁償だけでなく、役員のリーガルリスク(役員に対する責任追及の可能性)についても影響が出てくるはずです(過去の有名な株主代表訴訟について、取締役が被告とされるのは、二次不祥事を発生させたからである、というのは既にブログで説明したとおりです)。

製品事故を起こした企業は、どうすれば被害弁償を最小限度に抑えることができるか、ということに関心が寄せられ、法律家の意見を聴きながら、被害者への対応を決しているのが現状かと思います。しかし、このたびの花王社のように被害弁償の先にある顧客への安心の提供まで考えて対応をしていかなければ、賠償問題を収束させたときにはもはやお客様はいなくなってしまった、という結末を迎えてしまい、これが企業の価値を毀損させてしまう最大の要因になるのではと思います。上記の花王社の社長さんの「一年、一年、被害者救済において結果を出すことが大切」という言葉は非常に重いと感じました。

10月 11, 2013 民事系 |

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コメント

「そもそも消費者被害を起こした企業の対応を考えるにあたり、被害弁償に要する費用が最大の問題ではなく、被害弁償に対する企業の姿勢のほうが企業価値にとってはるかに影響を与えるのではないかと考えています。」というところは、前園氏暴力問題への対応が参考になると思いますが,先生の感想はいかがですか?

投稿: Kazu | 2013年10月15日 (火) 11時38分

kazuさん、おっしゃるとおりだと思います。そのあたりはあの事件の後のMさんの対応をみると、ご本人もよくおわかりではないかなと思いますね。Mさんの場合は、マスコミへの露出も多いので、一般の企業以上にそういった対応が求められるのではないでしょうかね。

投稿: toshi | 2013年10月20日 (日) 14時34分

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