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2013年10月31日 (木)

阪急阪神ホテルズはなぜ第三者委員会を設置しなかったのか?

先日、阪急阪神ホテルズ社のメニュー偽装(誤表示?)事件についてコメントさせていただき、最後に「このまま二次不祥事が発生しなければ収束に向かうのではないか」と(期待をこめて)述べましたが、残念ながら「内部告発によってリッツカールトンホテルにおけるメニュー偽装が発覚」という二次不祥事が発生してしまいました。その後の流れは、すでに皆様ご承知のとおりです。ひょっとすると、社長会見の際、判明していた事実をすべて公表しなかったことが「二次不祥事」であり、その結果として(憤った社員による)内部告発を招いたのかもしれません。

これは素朴な疑問ですが、阪急阪神ホテルズ社は、どうして第三者委員会を設置しなかったのでしょうか。たとえばなぜメニューと食材の不一致が生じたのか、その発生原因を調査する、といった内容で、行政当局による調査とは別に行う、というものです。社長さんが謝罪や説明のための会見を開いた時点で、いろいろと釈明するよりも、1カ月間ほど第三者委員会に調査を委ねて、それまでは一切コメントしないとしたほうが、よっぽどグループとしての企業価値を毀損しないで済んだのではないでしょうか。また、偽装か誤表示かという問題も、第三者委員会の判断にゆだねて、その結果を待って謝罪をすれば結果が変わっていたと思うのですが。

行政当局の調査が進んでいたために、もはや任意に第三者委員会に調査を委ねることができなかった、というのが理由であれば、先日のコメントで述べたように、そもそも行政当局への事実報告の巧拙が、こういった事件では重要であることが再認識されるところです。また、会社側で第三者委員会の設置を検討してみたものの、委員候補者との事前折衝の末に、これはとても設置できないとの判断に至ったとすれば危機対応としては若干問題があるように思います。

もちろん、第三者委員会はCSRの思想により、ステークホルダーへの説明責任を尽くすために設置されるわけですが、事実上は企業のリスク管理(危機管理)としても有用な面はあるはずです。阪急阪神ホテルズ社としては、第三者委員会を設置することで、冷静に第三者の意見に耳を傾ける時間的余裕もできたと思うのですが、そういった第三者の意見を聴くだけの余裕すらなかったのでしょうか。そのあたりに「社内の常識→世間の非常識」の認識を欠いてしまった原因があったのかもしれません。

今回のメニュー偽装事件の一連の流れをみて感じたことは、①子会社不正は親会社の企業価値を毀損する、②ブランド企業であるがゆえに、その不正は大きく報道され、企業価値の毀損度が大きい、ということです。本日あたりから、全国のレストランやホテルで自主的にメニュー偽装を公表するところが増えています。しかし、いちおうマスコミでも報じられてはいるのですが、ほとんど不祥事として大きく話題になることはありません。阪急阪神ホテルズという関西の名門企業による不正だからこそ「企業の品位を害する行為」として大きく取り上げらたことがよくわかります。ブランド戦略とコンプライアンスは表裏一体の関係であることの象徴的な出来事だと感じます。

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コメント

飲食店のメニューに関しては、日本全国、相当ぐだぐだな様相を呈してきましたね。まあ最初から予想しえた状況ですが。それだけに、自社や業界全体の状況を調査してからでもよかったのかもしれません。しかし、発表を遅らせても批判されますので、難しい判断だったと思われます。

ちなみに、「芝海老」は小エビの総称として使われてきた面があることは否定できません。コックさんの説明を全面的に支持いたします。

投稿: JFK | 2013年10月31日 (木) 23時41分

JFKさん、いつもご意見ありがとうございます。阪急阪神ホテルズ社がこれだけ叩かれた後なので、「出すなら今だ」と他社が考えるのはもっともなことだと思いますね(あくまでもリスク管理の視点ですが)。なお、こういった場合のリスク管理としては、アメリカの実状というものを関係者の方から聞いてきましたので、それをまた別エントリーにてご紹介したいと思います。

投稿: toshi | 2013年11月 1日 (金) 00時37分

JFKさんのコメントに違和感を感じていましたので。

スーパーでは、「芝海老」とは表示していないエビ(「バナメイエビ」と表示しているかは知りませんが、原産国は表示しているはず)なのだと思うのです。おそらく、小売店で、「芝海老」ではないのを「芝海老」と表示して販売すると、不当表示として法に触れると考えます。

そうなると、小売店と飲食店で表示が異なると、混乱するのは消費者であり、一般に広く認識されている食品名で、区別すべきであり、残念ながら私は、飲食店関係者が自分たちは、これを「芝海老」と呼んでいると言っても、それを消費者に対する表示に使用すれば、不当表示であると考えます。

昔は、小海老のXXXとして、高級レストランに行っても、正しく表示されていたように思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2013年11月 1日 (金) 20時35分

今回のケースは、調査スコープが広範囲に亘るもので、系列ホテルの全てについて全メニューに使用されている食材について、仕入先からの納品書などの原始証憑に遡って調査する必要があるわけで、実際会社の調査も時間がかかっていますので、第三者委員会ではマンパワーや専門知識が不足するため、調査は会社に委ね第三者委員会は会社の調査範囲や調査方法が妥当であることを検証するといった、現行の内部統制監査のような方式を採用することが、第三者委員会を有効に、効率的に機能させるためには適切であると思われます。

投稿: 迷える会計士 | 2013年11月 1日 (金) 21時25分

産地の偽装等とちがって、芝海老の件は一部業界の慣習をひきずったもので、また、芝海老という用語がエビの固有名詞であることが一般に知られていたかどうかは直ちに割りきれないと思うのです。そういう意味で、わたしは不当表示と断定はできないという意見です。また、仮に不当表示だとしても、酌量の余地が大きいと考えます。その程度の意見と思ってくださいませ。

ほかにも、「手作り」とはなにか、「鮮魚」の限界など、形式論理では解決できない用語の問題があり、これらが今回の事件の本質的な部分だと思います。

投稿: JFK | 2013年11月 1日 (金) 21時52分

皆様のご意見への感想ではありませんが、新しい社長さんが第三者委員会を設置して広く再検証を行う旨、記者会見で明らかにされたようですね。

投稿: toshi | 2013年11月 2日 (土) 01時08分

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