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2013年10月 7日 (月)

銀行を責める前に考えるべきこと-「もしかして反社」への対応は?

今年7月19日、全銀協(全国銀行協会)にて、コンプライアンスに関する講演をさせていただき、その際、以下のような(概要)講演をさせていただきました。金融機関の皆様方には講演録がございますので、そちらをご参照いただければと思います。

皆さん方の銀行は、何か不祥事が発見されたときに、それを早く摘める銀行なのか、それとも「彼は社長から好かれているから、彼はとても有能だから、ここの稼ぎ頭だから、見て見ぬ振りをしておかなければしょうがない」と考え、不正が大きくなるまで黙っている組織なのか、どちらだろうか。私はそれが知りたい。何かあったら、自分の同期で仲が良くても「それは駄目だ、告発する」と言える組織なのか。それとも「やっぱり言えない、誰かが言ってくれるだろう」という組織なのか。私はそこが知りたい。それがコンプライアンスの要諦である。
・・・・・我々が言う「組織の構造的欠陥」があるかないか、安全思想、安心思想が如実に現れてくる。最近、上場企業を見ていると、ここではっきりと実力の差が出始めている。駄目なものは駄目と、はっきりしている企業が増えている。つまり、マスコミ報道になる前に同じように不正は起きているのに、早期の段階で、不正行為を行っている役職員が、親しくても、優秀でも、自浄能力を発揮して止める企業と、「やっぱり彼のことは言えない。誰か言ってくれるだろう」と言っているうちに、結局隠ぺい、放置にまでつながっていくような大きな問題に発展する企業がある。最近はこの差がはっきりと出てきている。これからのコンプライアンス問題は、こういったところに対応していく必要がある。

銀行や公務員、公営事業会社は不祥事を発生させること自体で信用を落としてしまう組織なので、どうしてもコンプライアンス経営は不正予防主義(一次不祥事を発生させないための仕組み作り)が中心となり、不正発見主義(不祥事はどうしても発生してしまうが、これを早期に発見して自浄能力によって解決し公表すること)にウエイトを置くことがありません。なので、実際に不祥事が発生すると、発生させたこと自体が社内(部署内)でペナルティの対象(人事問題を含む)となりますので、どうしても不正は隠す方向にインセンティブがはたらきます。隠しきれない不正であったとしても、不正を報告することで間違いなくペナルティが課せられるのだから、隠しきれる可能性に賭ける・・・という発想になってしまいそうです。

みずほ銀行さんの提携ローン不適切融資放置問題は、(本当に頭取に問題を報告していなかったのかどうか、若干疑義も残りますが)マスコミの報道が真実だとすれば、担当役員自身のペナルティになることをおそれて、コンプライアンス担当役員としても頭取に報告できなかったのではないかと推測されます(コンプライアンス委員長が頭取、ということなので、このあたりは担当責任者が取締役であっても、執行役員であっても「報告を怠っていたこと」には変わりません)。銀行のコンプライアンスの発想も、そろそろ不正予防主義から不正発見主義に切り替えてもよいのではないでしょうか?「金融機関でも不正は起きる」ということを素直に認めて、起きたときにどうすべきか?という視点からコンプライアンス対応を考えなければ、いくら役員の交代で責任を全うしたとしてもまた同様の「放置、隠ぺい」という二次不祥事はなくなりません。ただし一般事業会社の場合も同様ですが、不正発見主義を中心に据える場合には、「敗者復活戦」や「報告者に対する報奨」が認められることが前提となります。

さて、このように不正発見主義によって反社会的勢力への利益供与(取引関係の維持も立派な利益供与です)を排除することを考えた場合、相手が反社会的勢力であることが明白ならば対処の仕方もあります。今回のみずほ銀行さんの件でも、反社会的勢力であることが明白であったとすれば「放置」は厳しく責められるのは当然かと。しかし、もし明白ではない場合、どうすべきか?というリスク管理方法は考えておかなければなりません。反社会的勢力への対応を厳格に行うということは、反社会的勢力ではないのに、「反社」というレッテルを張って商売の息の根を止めるリスク(名誉毀損、信用毀損で訴えられるリスク)が生じることになります。

これは銀行だけでなく、一般の事業会社でも問題になるかもしれません。明白ではないからそのまま放置しておいてもよい、という考え方は、おそらく一般常識からみたら問題ではないでしょうか。もしこういった考え方が許されるのであれば、反社会的勢力はコワイ、ということで放置することの正当理由として使われてしまうことになります。たとえば属性要件が不明な場合には行為要件が明白になったところで対応する、ということになるのか、それとも富士通元社長損害賠償請求訴訟事件の判決で示されたように、組織としてできる範囲で調査をすれば、たとえ相手が反社会的勢力かどうか明確にならなくても取引断絶は違法行為にならないという方針を貫くべきなのか、という問題です。

みずほ銀行さんは、今後(提携ローンについて)事前審査にも関与する、とのことですが、それでもグレーな相手方(もしかして反社)への審査ということはかならず生じることですし、結果として反社会的勢力もしくは密接関連者との取引を開始してしまう可能性もあります。まず、この可能性を認めたうえで、では疑わしい場合に、名誉毀損などで銀行が訴えられるリスクを承知のうえで、どのように取引を中止させるか、ということを検討しておくべきだと思います。キレイごとでは済まない課題であり、だからこそ起きた時の行動を検討して「思考停止」に陥らないような体制を構築すべきだと考えます。いつまでも担当役員の交代という形で経営責任をとっていては、まさに実効性に乏しい対応として反社会的勢力のオモウツボであり、ホッと胸をなでおろすだけだと思います。

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