監査環境に変化をもたらす(であろう)監査役・監査人の連携ガイダンスの改訂
今週から書店で発売されている中央経済社の月刊誌「企業会計」の11月号に拙稿「コーポレートガバナンスと不正リスク対応基準」を掲載いただきました(目次はこちらです。ちなみに拙著「法の世界からみた会計監査」の書評も掲載いただきました。北大の荻野先生、どうもありがとうございます<m(__)m>)このたびの論稿では、モニタリングの実効性を高めて、上場会社としての健全なガバナンスを構築するためには監査役と監査人との連携が不可欠であることを(具体的な方策とともに)強調しています。
そして本日(10月7日)、日本公認会計士協会、日本監査役協会のHPにて「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告の改正について」と題するガイダンスの公開草案が公表されました(たとえば日本監査役協会のHPはこちら)。商法(会社法)改正に合わせて「連携に関する共同研究報告」が新たに公表されたのが平成17年ですが、監査基準の改訂、監査における不正リスク対応基準の新設に合わせて、このたびの共同研究報告の改正に至りました。
大きな会計不祥事が発生するたびに「連携」という言葉が周知されていない現実に虚しさを感じておりましたので、どこまで改正されるのだろうか・・・と期待はしておりましたが(まだザッと目を通しただけですが)、私が予想していた以上に「不正対応」というところに焦点は合っており、「連携の本気度」は高いように見受けられます。改訂された監査基準が「各段階に応じて」監査役と連携せよ、とあるので、契約締結時、監査計画時、四半期レビュー時、期末監査時と、それぞれ平時のコミュニケーションの重点項目が詳細に例示されているところは評価できます。また有事のコミュニケーションは「随時項目」として、これもまたかなり詳細に例示されており、行為規範性が高まっているものと思います。
もちろん、これはモデル例であり、個別の企業の連携方法はそれぞれの企業で協議されることになります。しかし個別企業の連携方法を協議する際にも、この共同研究報告は参照されることになりますので、その運用にあたっては双方の法的義務(善管注意義務)の履行としての行為規範になりうるものではないでしょうか。つまり監査人・監査役双方の監査環境の整備にとってもかなり有益なものになるように思います。とりわけ会社法上の存在である監査役さんにとっては、「連携」を通じて情報開示に関与することになるわけで、監査役制度の有用性を海外の機関投資家の方々に理解してもらうためのツールとして機能することが期待されます。
本ガイドラインは企業集団の監査にも適用されるものであること、コミュニケーション不全が双方の監査の結果にも影響しうるということが明記されたこと、監査法人の重要事項(第三者による監査法人の品質に関するレビュー結果、当局による検査結果等)が監査役の審査対象たりうることなど、いろいろと話題になりそうな論点も含まれております(ちなみに日本公認会計士協会から10月4日に「レビュー結果等の開示について」という通知が出ていますが、この研究報告の公表に合わせて、ということだったのですね)。これらの論点につきましては、また10月下旬から始まる監査役協会(大阪、名古屋、福岡)でのセミナーのときに解説をさせていただく予定です。
上場当時から粉飾決算が行われていたプロデュース社の株主損害賠償請求訴訟では、監査法人の品質管理の法的責任、そして監査役の粉飾見逃し責任が追及されているようです。今後も大きな会計不正事件が発覚した場合には、モニタリングの不全が厳しく問われることは間違いないと思います。被告として訴訟で訴えられること自体がリーガルリスクになるわけで、冒頭の拙稿でも述べているとおり、こういったガイドラインは単に監査役・監査人の方々が理解するだけでは市場の健全性に役立つというわけではないと思います。
機関投資家をはじめとする投資家・株主の皆様方が理解をし、「連携」を後押ししなければ監査環境までは変わるには至りません。市場関係者の皆様には、粉飾決算が露呈してから「監査役・監査法人はいったい何をしていたのだ」と怒るのではなく、平時から「いったい監査役・監査法人は不正を見逃さないように何を議論しているのだ」と質問をしていただきたいのです。期待ギャップは関係者(経営者、モニタリング、投資家、そして当局や取引所)全員によって埋めていく努力が求められるのでして、それが過剰な規制によって効率性を阻害せず、健全に成長する証券市場を形成していくことに寄与するものと考える次第です。
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コメント
月刊誌名「会計監査」→「企業会計」ですよね。
投稿: KOH | 2013年10月 8日 (火) 04時55分
失礼いたしました(中央経済社さんに怒られそうですね 笑)さっそく訂正いたしました
投稿: toshi | 2013年10月 8日 (火) 10時45分
>監査役の粉飾見逃し責任が追及されているようです。
監査法人にも、粉飾見逃し責任があると思われます。監査法人が合併しているため多少複雑ですが、上場時点で監査を担当していた監査法人は、現在訴訟を受けている監査法人に吸収合併され、合併後に存続監査法人は監査を実施し監査意見(中間)を表明いますが、その時の業務執行社員は逮捕された会計士ではありません。したがって、合併存続監査法人には直接的に粉飾見逃し責任があることになります。
投稿: 迷える会計士 | 2013年10月11日 (金) 21時31分
ご指摘ありがとうございます。なるほど、たしかにそうですね。監査法人の監査見逃し責任もありますね。どのような抗弁を出しておられるのか、興味ありますね。
投稿: toshi | 2013年10月15日 (火) 01時37分