旧役員がオブザーバーとして出席する取締役会の功罪
経団連さんが「このたびの不祥事については看過できないものがある」として処分を検討中、と報じられているJR北海道社ですが、10月5日付けの北海道新聞WEBに、少々気になる記事がアップされています。すでに同社の取締役を退任されている元社長・会長のお二人が、退任後も取締役会に毎回オブザーバーとして出席されているとのこと(北海道新聞ニュースはこちら)。毎回、これらの旧役員の方々が取締役会に出席されていることについて、JR北海道側は「特に問題はないと考えている」と回答し、同社としては記者さんが懸念しているような事実上の影響力行使については問題なし、と認識されているようです。
取締役会は必ず取締役・監査役だけで開催しなければならない、というものでもなく、オブザーバーが出席することは珍しいものではありません。業務執行の責任者である社員さんから状況報告を受けることもありますし、ベンチャー企業の大株主のように、事実上影響力を発揮しうる立場の方が毎回出席している、というケースもあると思います。ただ、旧役員が取締役退任後も毎回取締役会に出席する、というのは、旧役員が依然として経営判断の意思決定に影響力を行使して現取締役らの議論の活性化を阻害するという点からみて、あまり好ましいものではない、という意見も出てきそうです(おそらくこの記者さんの問題意識も、そのようなところにあるように思います)。
なにが「好ましいものではない」かと言いますと、旧役員が出席している取締役会では他の取締役がモノが言えない、いつまでも旧役員の意見が通ってしまう、といった弊害を指すもののように推測されるかもしれません。しかし、現実問題として、取締役を退任後に取締役会で意見を述べる旧役員さんなど、創業家OB以外にはあまり聞いたことはありません。現場から離れて久しい旧役員さんが、何も知らずにいろいろと積極的に意見を述べて、現取締役らがモノを言えない状況になるというのは、考えてみると何も決まらない可能性が出てくるわけでして、現役の取締役が萎縮してしまうような影響力まで旧役員が行使するということは想定されにくいのではないでしょうか。むしろJR北海道社が回答しているように(必要に応じて)熟練の経験者に経営の知恵を授かる、ということは特に問題とすべきことでもないように思います。
むしろ懸念されるのは、「決められない取締役会」「監督できない取締役会」の存在です。いろいろと業務担当取締役から審議事項が上程されるのですが、個々の取締役が責任をとりたくないので、取締役会で十分な審議はしない、人の担当業務には口は出さない、しかし旧役員から何も文句が出なかったことをもって「役員会で承諾があった」と事実上擬制する、という事態は想定されます。つまり(影響力を持つ)旧役員の方々から何も意見が出ないことをもって、他の取締役らも安心して決議に賛成する、取締役会で審議をしたという形だけは残して、特定人の責任にはしない、ということです。こういった形で取締役会の運営がなされますと、監督機能を果たすべきモニタリングモデルとしての取締役会は活性化しなくなりますので、こちらのほうがガバナンス上では問題があるのではないかと思います。
特別顧問や相談役という方々は、(以前にも当ブログで書きましたように)、人事面での影響力を行使するといったことで社内力学を支配する立場にあることも多いようです。しかし会社法上の重要な業務執行機関である取締役会の運営に影響力を行使することは望ましいものではありません。私個人の意見としては、JR北海道のガバナンスの健全性を向上させるためには、取締役を退任され、業務執行から退かれた旧役員の方々は、取締役会には出席されないほうが良いと考えるところです。
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コメント
わたしも取締役でないのに取会に出席している一人ですが、同感ですね。オブザーバーとして意見や監督を行うということは、取締役、監査役としての役割そのものです。現役の実務者やスペシャリストがオブザーバーであるべきで、まったく矛盾した仕組みです。
投稿: JFK | 2013年10月12日 (土) 16時37分
元役員を在席させると、「改善」や「PDCA」の「C」に挙げられる元役員に気を遣ってしまい、取締役会の機能が果たせない懸念はありそうです。
最近では、取締役会の運営で、本人の自覚と責任を促すべく、「賛成の方は挙手をお願いします。」という採決方法を提案する方がいらっしゃいます。個人的には,ちょっとした変化ですが、いいと思います。
投稿: Kazu | 2013年10月15日 (火) 11時50分