メニュー偽装事件、二次不祥事に発展する要因は?
メニュー偽装事件の報道が後を絶たない状況です。ホテルのレストランから始まり、主要百貨店(百貨店が管理している店舗)にまで及んでいますので「メニュー偽装」というよりも「食材偽装(虚偽表示?)」といったほうが正確かもしれません。消費者庁はとりあえず景表法の執行を念頭に置いているそうですが、将来的には(法改正の上)景表法の運用として課徴金で対応することも検討するとのことで、事の重大さに少々驚いています。
多くの企業が偽装を公表して謝罪会見を開いていますが、そのなかで阪急阪神ホテルズ社と近鉄旅館システムズ社は社長さんが辞任(または辞任予定)することになりました。不適切なメニュー表示問題から、不適切な危機対応という「二次不祥事」に発展してしまったのがまずかったようです。
なぜ他の会社では謝罪会見でほぼ終息する状況であるにもかかわらず、阪急阪神と近鉄では逆に不祥事に火がついて「二次不祥事」に発展してしまったのか、冷静に分析しますと、いくつかの課題が浮かび上がります。そのひとつはやはり「内部告発の誘因」だと思います。記者会見ですべての事実を公表していなければ、社員は会社の対応に憤り、その後マスコミに対して記者会見では公表されていない不祥事(メニュー偽装)を情報提供してしまいます。上記2社においてはこのパターンでした。不十分な情報しか公表しない記者会見では、「社長が事実を隠していた」「故意の偽装ではないと言っていたが、実際は現場の意識は故意だった」という評価を受けてしまい、これが典型的な「二次不祥事」になってしまいます。
私の経験からですが、こういったケースでは、社長は必ずしも事実を隠そうとしていたわけではないと想像します。むしろ情報共有体制の不備です。社長がこの際、全部不祥事を公表しようと社員に呼び掛けても、残念ながら責任をとらされてしまうおそれのある社員からは情報が上がってきません。その社員の部下は、この上司の態度に憤りを感じ、内部告発に至るということも十分予想がつきます。
結局、有事に至って情報共有体制の運用にどんなリスクがあるのか、平時から訓練をしていないことが有事に出てしまいます。平時のリスク管理が非常に重要であることの証左です。後から偽装を公表する企業は、このあたりのリスクがなんとなくわかってくるので、情報集約に時間をかける結果、不祥事を公表したとしても「メニュー偽装」という一次不祥事止まりであり、二次不祥事には発展しません。
そしてもうひとつ、社長辞任にまで追い込まれた阪急阪神、近鉄旅館のケースでは、偽装という一次不祥事を、社会の批判が集中する二次不祥事へと発展させてしまった重要なポイントがあります。過去の食品偽装事件等の同種事例でも、企業の社会的信用を大きく低下させてしまうような、不祥事の拡大原因として挙げられる点です。この点に気が付けばどこの会社でも二次不祥事発生を食い止めることができるはずです。この点はまた、追って時間のある時にでも解説してみたいと思います。
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コメント
先生が本業に奔走されている最中に失礼します。
本日、先生の著書『法の世界から見た「会計監査」』を遅ればせながら読了しました。
先生が著書の中でご指摘されていた性能偽装に至った会社のケースと今回の食品虚偽表示は似たケースなのかなと推察した次第です。
著書でご指摘されていた会社のように「次第に不正にのめりこんでいった」場合だと会社全員の感覚がマヒして不正の芽が根付いちゃって「企業文化、企業風土=一次不祥事」の場合があるのかなと思いました(これ、みんなひっくるめて「芝エビ」って言ってきたからいいよね、今さら、みたいに…。最近では北国の鉄道会社にその空気を感じますが…)。
実は「不正の芽」をみんなで育てているのに誰も気付かない…で、一次不祥事が発生し、さらに「情報共有体制の不備」の企業風土、企業文化が手伝って二次不祥事にもつながる…となると「社長は必ずしも事実を隠そうとしていたわけではないのに(このくらいの精度の内容で謝罪すれば大丈夫だ、と自社の企業文化水準に照らして、結果、誤った判断をした)」っていうことはありえるのかなと。
自戒も込めてですが、「この仕事のあるべきはなんだろう? これ、おかしくないか?」と第三者の視点をもって業務に当たることを意識しなければ、と痛感しています。本当の第三者(第三者委員会)お出まし案件にしないように。
投稿: 会計利樹 | 2013年11月23日 (土) 00時51分
拙著をお読みいただきありがとうございます。不祥事の芽というのは、競争社会では当然にあると思いますので、要は一次不祥事に発展する危険を常に考えているかどうか・・というところで不祥事発生の確率が決まってくるように思います。キレイな組織風土などはどこにもないと思いますので、しんどい思考過程をどれだけ経ながら競争しているか、というところにコンプライアンス経営のポイントがあると考えています。
投稿: toshi | 2013年11月27日 (水) 01時53分