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2013年11月25日 (月)

内部告発を防ぐための自浄能力発揮は重要-自治労共済内部告発事件

相変わらず本業で忙しくしておりまして、ブログ更新を楽しむ時間的余裕はないのですが、日曜日の夜くらいだったらクライアントの皆様に文句も言われないだろう・・・・・・と思って、こっそりと更新しておきます。(ちなみに、先週、会社法改正法案がこの臨時国会において閣議決定され、次期通常国会で法案が成立する見通し、とのニュースが出ておりましたね。会社法見直し要綱から、実質的にみて重要な変化があったようですが、また後日そのあたりはブログで私見を述べたいと思います)。

さて、今年も多くの企業不正事件が話題になっていますが、とりわけメニュー偽装事件、クール宅急便事件、秋田書店社、ぴあ社などの出版社の不祥事、そして多くの不適切会計事件の特徴は、その不祥事発覚が内部告発(社内から外部への情報提供)に起因する、という点です。ITソリューションの進化に伴い、企業内部の情報共有体制が確立する一方、労働市場の流動化、広がる賃金格差、さらにパワハラ問題などが深刻化する中で、社内不正が外部に漏えいするリスクはますます高まっています。

ところで、10月24日の毎日新聞でも報じられていましたが、自治労共済島根県支部の職員の方が組織の不正を内部告発したのですが、その際に組織の内部資料を外部へ持ち出した行為は違法なものだった、と裁判所で認定されました。広島地裁松江支部は、(職員が社内パソコンから会社情報を持ち出した、という)社内規則違反を根拠とする自治労側の解雇権行使について、「合理的かつ社会的相当性あるもの」と判断したそうです。一審の判決に従って職員に支払った賃金相当分(1270万円)も返還せよ、とのこと。

ちなみに本事件の一審(松江地裁)はまったく逆の判断で、職員が勝訴していました。その理由としては、この職員の方はいきなり内部告発に及んだのではなく、まず先に自治労共済本部へ内部通報を行ったこと、実際にこの職員の行動によって県支部による不正が発覚し、法令遵守が維持されるようになったことなどから、資料の持ち出しはあくまでも公益通報目的であったと認定しています(つまり自治労共済側は解雇権の濫用であり、得べかりし賃金相当の1270万円も支払え、とのこと)。この一審判決に関する詳細は朝日新聞の「法と経済のジャーナル」のほうで紹介されています(ただし有料版)。

高裁でなぜ自治労側が逆転勝訴したかといいますと、先の毎日新聞ニュースによると、職員の方が内部告発をしようとした際には、すでに事件処理はほぼ解決していたのであり、もはや内部告発を必要とする時期ではなかった、にもかかわらず内部資料を外部に持ち出そうとする職員の行為は、組織を困惑させるためのものであり、公益通報目的とはいえない、というものです。自治労県支部における不正(交通事故対応において不適切な処理が複数回行われていた、というもの)はたしかに明るみになっていますが、これが内部告発の前にどの程度明確になっていたのかは報道からはわかりません。

本件はおそらく原告(被控訴人)から上告(上告受理申立)がなされていると思いますので、まだ確定しているものではありません。しかし、これら一審、控訴審判決から理解できることは、まず公益通報目的の社内情報取得行為は、その構成要件該当性は別として、原則としては違法性が阻却される、ということです。公益通報者保護法の保護要件に該当する内部告発のための情報持出し行為については、組織と社員との信頼関係を破壊するものではない、ということが前提となっています。これは当ブログでも過去に何度か申し上げているところです。

そしてもうひとつ、企業が内部通報制度を充実させることは、事実として内部告発を防ぐ効果があると同時に、内部告発のための社内情報持出しを防ぐ効果もある、という点です。内部通報を受理した企業が、自浄能力を発揮して社内調査を行い、不正事実を認定し、関係者の社内処分を行う、ということになれば、「この会社では内部通報制度が機能している。通報者は不利益制裁を受けることはない。」と社員に周知徹底されれば、不正を知った社員は内部告発よりも内部通報を選択する確率が高くなります。しかしそれだけでなく、本件の高裁判断からすると、すでに企業の不祥事対応が解決済みとなった場合に、社員が内部告発に必要な情報(証拠となりそうな資料等)を社内から取得して外部に持ち出した場合、その行為は法律によって保護される可能性が少なくなるので、結果として告発を思いとどまる、ということになります。

もちろん企業不祥事がほぼ解決した、というのはどの時点か・・・という問題は残りますし、何を持って「解決した」とみるべきなのかは難しい判断だと思います。しかし、企業が内部告発によって「二次不祥事」を発生させることを極力回避するためには、やはり内部通報制度を充実させることにより、まず自力で不祥事対応を図るということの重要性を改めて感じさせる事件です(たとえば1カ月半ほど前にNHK職員による会社資金横領事件が新聞で大きく報じられましたが、NHK社によって自浄能力発揮型の対応がとられたので、もはやどれほどの皆様がこの事件を記憶しているでしょうか・・・・・)。

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コメント

山口先生、本業多忙の中、お疲れ様です。
先生は「ブログ更新を楽し」んでおられるのですね! やはり自らが楽しいことは長く、太く続くものなのですね。

内部告発で内部資料を外部へ持ち出した行為は違法、となると従業員の感覚としては「正直者がバカを見る」みたいな感覚になりそうですね。「内部通報担当部署が真摯に対応して解決しています」というのが明確に通報者に伝わらないと、
①通報者が本当に対応してくれているのかと疑心暗鬼になった時、内部告発に自分に不利な可能性があるのなら告発しない。そのままうやむや。
②内部告発されたとたん、内部通報担当部署が解決したことにして解雇。
なんてことが起きそうな気がしてきました。。。

内部通報制度を充実させない方向にならなければいいが、という心配は心配しすぎというものでしょうか?

投稿: 会計利樹 | 2013年11月25日 (月) 23時31分

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