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2013年11月 6日 (水)

「モノ言う監査役」が無視された事例-雪国まいたけ粉飾事件

Rtsde今朝(11月5日)の朝日新聞に、某名門企業の常勤監査役の方が「監査役の覚悟」という冊子を自費出版で300冊発行されたことが、特集記事として報じられています(加藤記者「多事有論」)。トライアイズ社の元監査役さんの事例紹介を中心として、監査役は時には社長と対峙しなければならず、またその覚悟をもって監査役としての職務を遂行しなければならない・・・という、著者の強い思いが伝わってきます。本書の登場人物すべての承諾を得ていない・・・とのことで、広く出版というわけにはいかなかったそうですが、平時には黒子に徹し、有事には毅然とした態度で経営陣と接する必要があるという著者の意向がよく反映された一冊であり、私も著者の意見に強く賛同します。

さて、本書で示されているような「有事に毅然とした態度で経営陣と対峙する」姿勢を監査役さんたちが示した事例が、本日の適時開示で公表されています。東証2部の雪国まいたけ社が、過年度における不適切な会計処理により、平成21年3月期から平成26年度第一四半期報告書までの決算訂正を行うそうです。事業用資産の減損処理や広告宣伝費の会計処理等に問題があり、過年度の決算訂正の結果、平成24年3月期においては違法配当が行われている、ということも判明しました。経営トップはこの結果を受けて辞任するそうです(産経新聞ニュースはこちら)。

本件に特徴的なのは、今年6月上旬、退任直前の取締役が監査役に「告発文」を提出し、その告発文に従って社内調査が開始されたということ、また社内調査中である8月27日に証券取引等監視委員会による立ち入り調査を受けることになったという事実関係です。ここからは推測ですが、この退任直前の取締役の方は、監査役に告発文を提出すると同時に、CPAAOB(公認会計士・監査審査会)もしくは金融庁に告発文と同じ文書を提出していたのではないでしょうか。監査における不正リスク対応基準が施行され、監査法人としても告発文は重要な虚偽表示を示唆する状況に至らしめるものなので、ひょっとすると監査法人にも届いていたのかもしれません。とりわけオリンパス事件における社長の内部告発と同様、取締役という地位にある者の内部告発は、その信ぴょう性や重要性という意味においても大きな意味があるので、今回の粉飾発覚にとって大きな役割を果たしています。不正リスク対応基準施行後の内部告発の有効性が改めて認識されるところです。

そしてもうひとつ本件に特徴的なのは、平成24年の時点において、監査役会が問題点を把握しており、文書によって社長以下取締役に対して問題点の是正を促している点です。まさに「モノ言う監査役」として活動されていたようです。以下、社内調査委員会から関連部分を抜粋します。

監査役会は、平成24 年4 月に社長、取締役及び執行役員宛に監査役の所見として書面による意見具申を行っている。所見の内容は、当社の実情を的確に捉え、コーポレートガバナンス、組織運営問題、資金繰り、会計処理関係、労務安全など多岐にわたる課題について提言している。所見の中で広告宣伝費の繰延処理は不適切である旨の指摘がなされているが、監査役会の所見は反映されることなく今回の不適切な会計処理に至っている。監査役会が幅広く当社の課題を提言しているにもかかわらず監査役会の意見を真摯に受け止めることができなかった社長や取締役のコーポレートガバナンスの認識不足は改めなければならない。

上記のとおり、残念ながら監査役会の問題提起は無視されてしまったわけで、ここで経営陣が監査役会の提言を受け容れていたのであれば、まさに自浄能力を発揮した事例として大きく社会的信用を毀損する事態に陥ることは回避されたものと思われます。このような有事において、監査役が会計監査人と連携できたのかどうか、社外取締役さんはどのような行動に出たのか、もう一歩進んで監査報告の中で何らかのシグナルを発信することはできなかったのか等、さらに踏み込んで知りたいところです。いずれにせよ、監査役としての毅然とした対応が求められるような事態となったときに、監査役としてどこまで前面に出て善管注意義務を尽くすべきなのか、いろいろと検討したくなるような事案であることは間違いありません。

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コメント

山口先生
本ブログを通じ、勉強の機会をいただき、感謝申し上げます。
さて、
今回の、雪国まいたけの件、
同社の監査役が「モノ言う監査役」として活動されていたとのことですが、平成25年5月17日付けの監査報告書を拝見したところ、監査結果に、特別な記載は見受けられませんでした。
監査役スタッフ初任者としては、何らかの記載があっても良いように思えたのですが、私の理解不足の点、ご教示いただければ幸甚です。

投稿: 監査役スタッフF | 2013年11月 6日 (水) 09時25分

雪国まいたけ監査役会の件
人様の会社をどうこう言う立場じゃありませんが、
当社の有価証券報告書(25.3月期)を閲覧したところ
監査役会の出席状況です。1人は100%ですがもう一人が62%となっています。また監査報告書に記載されていないようですが、当社のように社長(ほとんど同族会社に近い)が絶対的権限をもっている会社では記載をしたものを提出しても書き直させられるのではないでしょうか。
また最近内部監査の強化が言われていますが、このような会社では無理と思います。
あと少し話がずれますがこういった会計整理の不備について是正されていない場合、会計基準機構、公認会計士協会はどう考えているのでしょうか。

投稿: 池谷 | 2013年11月 6日 (水) 11時26分

監査役スタッフさん、池谷さん、貴重なご意見ありがとうございます。私も、エントリーの後半で書かせていただいたとおり、「モノ言う監査役」としての行動として、これで十分かどうかというところはこの報告内容だけではよくわからないところです。エントリーでは書きませんでしたが、監査法人さんが監査役さんを見ていたのかどうか、そこにも疑問が残ります。

なお、事務的なことですが、監査役スタッフさん、池谷さん共に、アドレスは抹消させていただきました。ご了承ください。

投稿: toshi | 2013年11月 6日 (水) 11時38分

監査役としていつもこのブログは勉強になり山口先生に感謝申し上げます。

オーナー色の強い会社(同族会社に近い会社)では役員会、経営会議等重要な会議でどこまで信念を曲げずに発言できるか難しいのが事実です。
監査報告書にしても実際は山口先生の通りです。
私は極力正式の場以外の社長との対話の場で率直に話しますが退任を覚悟して発言する場合もあります。
少しでも疑問におまえば専門家等に相談いたします。
実務上は監査役といえども行動を起こすことも発言することもオーナー会社では勇気のいることです。

投稿: 現役監査役 | 2013年11月 6日 (水) 14時23分

監査法人の責任は重大だと思うのです。(雪国まいたけは大手監査法人ではありません。)

オーナー会社の場合、オーナーの権限は絶大であり、取締役や監査役に多くを期待しても、困難な場合もある。

しかし、公認会計士は、職務上から真実の会計報告を実現する義務を負っている訳であり、監査において証拠の提出を要求することができる。上場企業の財務諸表は単に株主と社債権者やその株式・社債の取得を検討している投資家のみに発表されているのではなく、取引先を初め、多くのステーキホルダーに情報を与えている。雪国まいたけについては、上場企業だからと購入されていた消費者もおられると思います。

雪国まいたけの場合は、最終的には糸口を開かれた退任された監査役が告発文を提出され明るみに出たのだが、やはり監査法人の責任は重大だと思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2013年11月 6日 (水) 16時52分

「旧経営陣は、対象会社において、圧倒的かつ強大な権力を有していたため、対象会社の役職員は、旧経営陣の指示のままに業務を行っており、旧経営陣に意見することは事実上不可能であった。旧経営陣の日々の業務における役職員に対する叱責は大変激しいものであり(具体例として、ペットボトルを投げつけられる、頭を叩かれるなど)」と、雪国まいたけ以上に統制環境に問題のある会社の不正について、第三者委員会報告(http://www.z-bulldog.com/ir/pdf/20131111.pdf)が提出されていますね。
不正発覚の契機は、従業員が不正を示唆する情報を会計監査人に提供し、会計監査人は、直ちに、対象会社の代表取締役社長に対し、対象会社として然るべき方法を講じることにより、事実関係を調査するとともに、法令違反などの事実があれば、是正その他の適切な措置をとるよう申し入れたことによるもので、今回の事案では、会計監査人は責任を果たしたといえるでしょう。

投稿: 迷える会計士 | 2013年11月13日 (水) 21時26分

大塚家具ばかり注目されていますが、創業者問題があった雪国まいたけの方はTOBで決着しそうですね。

内部告発について創業者がインタビューに答えていますが、必ずしも善意の内部告発というわけではなさそうです。(創業者が真実を語っているかどうかわかりませんが)
http://digital.asahi.com/articles/ASH3Q4KFDH3QUOHB00S.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH3Q4KFDH3QUOHB00S
http://digital.asahi.com/articles/ASH3S4DZLH3SUOHB009.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASH3S4DZLH3SUOHB009

TOBについても、かなり強引な手法がとられていますね。創業者が借入の担保として差し入れていた会社の株式について、担保権を行使して金融機関がTOBに応じるというものです。金融機関は、担保権を行使する前の株主でない時点で、TOB応募の予約契約を締結していますが、法的な問題はないのでしょうか?

投稿: 迷える会計士 | 2015年3月27日 (金) 21時54分

迷える会計士さん、またおもしろいネタをありがとうございます。朝日新聞の新潟版まではチェックしていませんでした。闇株さんでも取り上げられていますね。法的にももちろんいろいろと検討すべき点はあると思います。問題点があればまた指摘したいと思います。

投稿: toshi | 2015年4月 1日 (水) 00時27分

闇株さんも指摘していない点ですが、会計、税務面でも問題がある気がします。
創業者インタビューで、担保株数2130万株で52億円相当と語っていますから、一株当たり245円で換算されていますが、これはTOB価格で会計処理したことになりますが、直近の株式の時価(207円)と差額があります。金融機関がTOBに応じた時点では差益が発生しないことになりますが、それで問題ないでしょうか?
監査法人や税務署の判断が注目されます。

投稿: 迷える会計士 | 2015年4月 1日 (水) 12時25分

本日(4月7日)、雪国まいたけのTOBが成立したようですね(77%取得)。今後の手続きの中で、また迷える会計士さんが指摘している事項について議論がなされるかもしれませんね。監査法人の見解を知りたいところです。

投稿: toshi | 2015年4月 7日 (火) 14時26分

伊藤歩氏の記事が出てますね
http://biz-journal.jp/2015/04/post_9647.html

投稿: 迷える会計士 | 2015年4月18日 (土) 12時07分

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