社外取締役は辞任することで法的に免責されるか?
11月29日ころに会社法改正案が閣議決定されるのでは?と(まことしやかに)噂されていますが、当ブログへお越しの皆様はご承知のとおり、法務省の会社法見直し要綱は、最終的に自民党政務調査会(法務部会)の強い要望で一部修正されたようです。規則ではなく、会社法の法文へ「格上げ」された項目もあるようなので、今後法律上の課題などもいろいろと議論されると思うのですが、とりあえず社外取締役さんを選任する上場会社が増えることが予想されます。
もちろん任意で社外取締役さんを導入する企業であれば、それなりの導入目的もあるでしょうが、今後も(やむをえず?)社外取締役さんに就任してもらう企業が増えるとなりますと、真剣に考えなければならないのが社外取締役さんの「逃げ道」です。まじめな企業ばかりであれば良いのですが、私のように不正調査などを本業としていますと、たとえ上場会社といっても、かなり問題を抱えている会社さんもあるわけで、そういったことを知らずに社外取締役さんに就任することもあるでしょうし、かりにまじめな会社で就任したとしても、さまざまな国の反市場勢力の方々に知らない間に牛耳られてしまっていた、ということもあります。
少し前ですが、金融商事判例1426号(2013年10月15日号)の巻頭言で、弥永先生が「辞任することが取締役の最後の砦か」という、おもしろい小稿を書いておられました。企業でおかしなことが起きたときに、取締役はどういった行動をとらないと善管注意義務違反(つまり法的責任を負う)となるのか・・・・というもので、有力学説で言われているようなことは、実際の取締役会の場ではなかなかとりえないのではないか?結局のところ、辞任するしか法的責任を免れる方法はないのではないか?と主張されています。ただ、アメリカでは辞任すること自体が(取締役の職務放棄ということで)義務違反にあたる可能性がある、とする判例があるようで、たしかに今後、一般株主(少数株主)の利益保護のために社外取締役の活動が期待されているのであれば、こういったアメリカの判例の考え方もあるかもしれません(このあたりは社外監査役ではなく、社外取締役特有の問題ともいえそうです)。
ここから先は法律家としての意見ではなく、ほとんど趣味(?)の世界ですが、ダスキン事件株主代表訴訟では、多くの取締役、監査役の方々に6億円近い損害賠償義務が認められました。ただ、社長に「いますぐ不祥事を公表せよ」と手紙で抗議をした社外取締役ひとりだけ、株主原告団は、株主代表訴訟の被告からはずしました。つまり社長に抵抗した社外取締役さんは裁判に巻き込まれなかったわけです。どのような行動をとれば裁判で負けないか・・・ということを研究することは法律家の仕事ですが、(見方を変えて)どうすれば裁判に巻き込まれずにすむか・・・ということを研究することは、コンプライアンスを研究する者の仕事ではないかと思います。辞任する、という行動は、たしかに裁判で負けないためには必要かもしれませんが、果たして裁判に巻き込まれないための行動という意味ではどうでしょうか。ダスキンの元社外取締役の方のように、堂々と社長と対峙するほどの行動があってこそ、裁判にも巻き込まれないような気がします。
このあたりは、以前このブログでも話題にしましたが、株主代表訴訟や会社法429条による取締役への責任追及は、いったいどのような場面において提起されるのか・・・ということを丹念に探る必要があると思います。いくら役員賠償責任保険が締結されているとしても、外からみえる取締役の行動は大切ではないかと。こういった時期だからこそ、社外取締役の行動について真剣に考えてみるべきです。
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コメント
(社内)取締役の責任と社外取締役の責任に差異というものはないと思いますが、第三者の視点という意味では社外取締役への期待は高いと考えます(裏を返せば、(社内)取締役(会)の職務監督能力の実効性への疑念・不信が残念ながらある、ということだと思いますが。。。)
特に、「企業文化、企業風土=一次不祥事」の状態になって、実は「不正の芽」をみんなで育てているのに誰も気付いていない企業などには、「あれ?おかしいよ、君たち」という第三者視点の社外取締役の即座の行動への期待はより高まると考えます。
ただ、「責任は同等」なのに期待先行で「第三者の視点で発見できなかったのか?」というような「第三者視点責任」みたいなものが付加されたようになるとそれはそれでどうなのか、と。ただ、社外取締役はそのような期待をかけられたうえでの職務執行・管理監督を求められるということは覚悟しなければならない、といえるのかもしれませんね。
投稿: 会計利樹 | 2013年11月27日 (水) 08時52分