監査判断の実証分析(本のご紹介)
行動倫理学や行動経済学に少し関心が出てくると、監査人の判断や意思決定がどのようなことに影響を受けるのか、とても興味が湧いてきます。ある会計雑誌で今年の日本会計研究学会における太田・黒澤賞を、本書が獲得したと報じられていましたので、思わず衝動読みしてしまいました。
一橋大学の新進気鋭の福川教授が、会計監査人の監査判断について分析的手法によって研究された成果を発表されたものです。監査の世界において、監査実務の現状を実証的に分析して、監査判断を研究するといった試みは、これまであまり存在しなかったのではないでしょうか。著者も書かれているように、会計士協会や監査法人の協力がなければ実証分析という手法がとられないわけでして、監査における実務と研究との「望ましい協働」を実務界に説得された成果ではないかと思います。
私自身は監査実務に携わる者ではないので、この実証研究を実務に活かす・・・というわけではありません。しかし、監査人がどのような証拠によってどのような仮説を立て、最終的な意見形成に向けての心証を形成するのか、そのあたりの解明についてはとても関心があります。同じリスク・アプローチといっても、監査要点に対してポジティブな設定をするのか、ネガティブな設定をするのか、ということが問題になります。たとえば設定の違いが、当該監査要点に関するリスクの評価にも重要な影響を及ぼすことなどが実証研究で明らかにされています。デフォルトをどう選択するのか・・・ということで、監査人の意見形成にも影響が出る、ということは、とりわけ不正リスク対応基準や内部統制監査、ゴーイングコンサーンの審査などの思考過程を考えるにあたり、とても参考になるところです。
心理学における認知バイアス、確証バイアスが監査人の判断にどう影響するのか、という点も、以前からボヤっとは考えていたのですが、このような実証研究が示されると、ますます関心が高まります。このような研究の成果が、今後のIFRS時代を迎える監査実務に大きな貢献を果たすものになるのではないでしょうか。実務が経験値によって変化することはあったとしても、その変化が理屈の上で正しいものかどうか、このような研究成果によって検証される必要があると思います。回帰分析結果等、仮説立証の有意性を理解することが少し難しい箇所もありますが、専門家以外あまり知られていない監査人の思考プロセスを知るうえで、貴重な一冊です。
ちなみに、今気づいたのですが、アマゾンで本書を引っ張ると、「一緒に購入した本」として、拙著が登場しますね。本書に興味のある方が、拙著にもご興味を抱いていただいているというのはたいへん光栄です。<m(__)m>
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